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どうやら料理の神様が力を貸してくれることになったらしい。

自治都市かあ、楽隠居したかったのに正直面倒くさいなあ、なんて思っていたが、出来上がるのが美食の都となれば話は別だ。

美味しいご飯は人生の楽しみ、美味しいは正義である。

この機会に、料理は高貴な者の趣味としては褒められたものではないという風潮にも一石を投じようではないか。

別に美味しいものにさほど拘りのない人や、料理に興味のない人が無理にやる必要はないが、やってみたいけれど外聞が・・・という人だっているはずなのだ。特にお菓子作りなんて、出来上がりが綺麗で可愛いから前世でも料理は好きじゃないけどお菓子作りは好き、という女性は一定数いたし。

美容と一緒で、美しくなりたいと思って努力することも、外見の美醜になんか意味はないとして何もしないのも本人の自由である。まあ、この考え方は前世の価値観に寄るものが大きいのだろうけども、他人に迷惑をかけなければ自分の趣味で何をしようとも自由だという考えを多少なりとも植え付けたい。この他人に迷惑をかけなければ、というのも多分に前世の日本人としての価値観が大きいのだろうけども。


「ずいぶんと楽しそうだな」


「ええ。大陸中から食材と料理人が集まるのですもの。料理の幅が広がりますし、街が形になってきたら2人で食べ歩きに行きましょうね」


屋台の食べ歩きとか楽しそう、ちょっと大味なB級グルメも開発していかなくては。ジークヴァルト様とベビーカステラとか、りんご飴とか、たこ焼きとか食べながら街を歩くのだ。


ジークヴァルト様はあんまり似合わなそうだな・・・


「私と君が2人で何か食べながら街を歩くのか?想像したこともなかったが、君と2人でなら楽しそうだ」


うん、まあ、似合うかどうかはこの際どうでもいいだろう、楽しければそれでいいのだ。

壁際でしきりと頭を振っているエルフ族達には悪いけれども。


料理の神ロスメルディアの神託が大陸中の神殿に降りたことで、各国から問い合わせがアルトディシアに殺到しているらしい。

各国の食材を扱う商会が次々と名乗りを上げてくれているらしいし、酒の神ヴァンガルドを奉る酒造りの盛んなドワーフ族主体の自治都市ヴァンガルドは、遠方だというのに1番に使者が駆けつけてきたらしい。

神気を撒き散らしている私達がそう簡単にひょいひょいと人前に出るわけにもいかないので、各国の使者が一通り集まったところで夜会を催してそこで紹介されるという流れになる予定だ、伝家の宝刀は何度も使うとありがたみが失せるしね。

神気を纏った私達が新しい街を治めます、と紹介されれば、どこの国の者もどこかの印籠を前にした者達のごとくははーっと平伏すだろう。


とりあえず今私が急ぎでやっていることは、私達がお披露目される予定の夜会の食事メニュー作りである。

城で催される夜会だが、なんせ料理の神の名を冠する美食の都の発足でもあるのだ、料理の神がわざわざ神託を下すに相応しい街が出来上がるのだという期待を周辺諸国に知らしめなければならない。

当日の調理はうちの料理人達が総出で出向して城の厨房を借りることになるが、城の料理人達にも手伝ってもらわなければならないので、城の料理長と副料理長が日替わりで他の料理人も引き連れて連日我が家に修行に来ている。もともとシルヴァーク公爵家の料理というのは有名だったので、レシピをいくつかもらえるのなら、という条件で喜んで来てくれているらしい。普通なら、いくら相手が筆頭公爵家でも、城の料理人が教えを乞うなんて、というプライドの問題も生じたのだろうが、なんせ今回は料理の神様のお墨付きだしね。神様もたまには役に立つではないか。


家の料理が美味しいのは自慢できても、それを考案しているのが令嬢だというのは外聞が悪いというのが納得がいかない。


城の料理長と副料理長は、うちの料理人達に全てのレシピを考案しているのが私だと教えられた時まるで信じなかったらしいが、ロスメルディアの神気で光り輝いている私が厨房に顔を出した時は号泣して跪いて祈り出し、うちの料理人達がドン引きしていた。


「城の夜会ですからね、見た目にも豪華でなければなりませんしね、城の料理人達の腕はどうですか?」


「それこそ見た目を華やかに仕上げる技術は問題ないですよ。お嬢様のレシピはどれも手順が多いので驚いていますけどね、この夜会が終われば城を辞職してお嬢様の造る街に行きたいと言っていましたが」


オスカーが笑っているが、うちの料理人達も一緒に行きたがっていて選定が大変なのだ、あまりたくさん引き抜いていったらお父様に怒られるではないか。


「料理も修行ですからね。それこそ何年か毎に修行のために留学できるようにすればよいのです。料理の基礎技術を学ぶための学校を作っても良いかもしれませんね。学校で基礎を学んだ後に望む家や料理人に弟子入りするような感じで」


この世界に料理学校はないしね、丁度良いではないか。


「お嬢様なら料理人の地位も上げてくれそうですね。別に馬鹿にされるような仕事ではありませんが、貴族がやるのは側仕えの方がお茶を淹れること以外は恥とされてるんでしょう?お嬢様も小さい頃はご当主様によく怒られていたではありませんか」


淑女が厨房に出入りするなんて、と怒られたのは確かだが、よくあるテストで100点取ったらこれ買って方式で、お父様から許可をもぎ取っていたからね、この身体は地頭が良くて本当に助かった、色々な知識や技術も身に付いたし。


「結局のところ、美味しいは正義なのですよ、ね?ジークヴァルト様」


「そうだな、君達の作る料理もお菓子もどれもとても美味しい。君が料理を趣味とするのなら、私も少し覚えた方が良いだろうか?」


思わずオスカーと顔を見合わせる。

オスカーはジークヴァルト様にも慣れているので、メニューを決めるためにこの場にいるが、料理長や他の料理人達は目がちかちかする、と言って遠慮していた。まあ、目がちかちかする程度で済んでいるのが、この家にずっと料理人として勤めていて私が庇護している証拠なのだが。


「ジークヴァルト様、もし料理やお菓子作りに興味がおありでしたら是非ご一緒に、と言わせていただきますが、興味がないことを無理に私に合わせてする必要はありませんよ」


「料理やお菓子作り自体に興味はないが、君が楽しんでしているということに興味がある。私は読書と魔術具作成以外には特に何の趣味もない面白味のない男だし・・・」


うーん、誰かに何か言われたのだろうか?

後ろに控えているローラントとシェンティスに視線を向けると2人共首を振っているが、他のエルフ族の随行員達とは付き合いがないからよくわからないし、そもそも私達と同じ空間にいるのが苦痛なようで、壁際に青い顔をして佇んでいるし。

読書は私も趣味だし、魔術具作成は国家予算規模の財産を築けるのだから、実益を兼ねた立派な趣味だと思うのだが。


「では、魔術具で調理器具を作成してくださいませ」


「調理器具?君がこれまでいくつか作成していたような、か?」


ハンドミキサーとか、ジューサーミキサーとか作ったけど、他にも欲しいものはいっぱいだよ、温度調節の細かくできるオーブンが欲しいし、電子レンジに圧力鍋、ホットプレートも欲しい。わざわざ興味のない料理をするよりもよほど有意義ではないか。


「セレスティスでお嬢様の作ってくれたハンドミキサーには感動しました」


オスカーもうんうんと頷いている。


「なるほど。確かに私はそちらの方が楽しいし、役に立ちそうだ」


ジークヴァルト様が嬉しそうに頷く。

そうか、料理の神様ロスメルディアの名を冠する自治都市を作るのに、自分が役に立たないのではないかと不安になっていたんだね、可愛いなあ、もう。


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― 新着の感想 ―
神様おろせる人間が 1番神にリスペクトなくて笑
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