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目覚めると目の前に白銀の髪に薄い金色の瞳の絶世の美貌があった。
ジークヴァルト様は寝起きの気怠げな雰囲気を醸し出しながらも、白銀の髪は朝日を浴びて神々しく輝き、目が合った瞬間、その陽の光のような薄い金色の瞳を細めて蕩けるように微笑んだ。
普通、どんなに美形でも男というものは、朝は多少小汚くというか、むさ苦しくなっているものではないのだろうか、これは私の男というものに対する偏見だろうか。
「おはよう、セイラン・リゼル」
私を見つめるジークヴァルト様は甘やかな雰囲気を纏い、元々の絶世の美形に加えて、髪が少し乱れているせいか滴るような色気を醸し出している、私の名を呼ぶ声まで甘い。
おかしい、ご神木様が生身の男になってしまわれた。
なんとなく気恥ずかしくて、シーツを引き上げて顔を隠してしまう。
「・・・おはようございます」
ジークヴァルト様はくすりと笑ってシーツを除けると、そっと私の額に唇を寄せた。
額、こめかみ、目元、頬・・・触れるだけの優しい口付けは、そっと私の唇にも重ねられ、薄い皮膚を通じて交わす熱は触れるだけで、でも、何度も確かめるように繰り返される。
・・・甘い。
どうしよう、ジークヴァルト様が壊れた。
こんな付き合い始めたばかりの恋人同士のような、新婚夫婦のような真似をするなんて・・・いや、付き合い始めたばかりの恋人同士で新婚夫婦で合ってるわ、私達。
・・・どうやら、私もかなり混乱しているらしいということに、やたらと上機嫌のジークヴァルト様に抱き上げられて浴室に運ばれながらぼんやりと気付いた。
朝食はサラダとスムージーとフレンチトーストだ。
フレンチトーストを美味しくするコツはひとつだけだ、それは前日からしっかり液に漬け込んでおくこと。ジークヴァルト様が泊まるなら朝食は甘いものがあった方が良いだろうと思って、昨夜のうちにオスカーに指示しておいた。
上機嫌でハチミツをかけたフレンチトーストを食べるジークヴァルト様の顔を正視しにくい、なんだかやたらとキラキラして見えるのだ、おかしい、6つ名の私には神気なんて効かないはずではなかったのか。
「どうかしたか?」
「いえ、いつにも増してジークヴァルト様がお美しく見えるので、私の目がどうかしたかと思いまして」
正直に言うとジークヴァルト様はくすりと笑った。
「私も君のことがいつにも増して光り輝いて見える。感情制限が多少緩んでいる私は君への恋愛感情をはっきりと自覚したが、君も少しでも自覚してくれたというのなら望外の喜びだ」
・・・恋愛感情?
あれか、好きな相手は光り輝いて見えるという、あのラブラブフィルターか。
なんてこったい、感情制限なんてされていなかった前世でも装備されていなかったフィルターが、感情制限されているはずの今世で実装されるとは。
いや、ジークヴァルト様は並外れた絶世の美形の上に神気まで垂れ流しているんだから、私でなくても光り輝いて見えるのだろうけども。
まあ、でも、これまでは絶世の美形だとは思っていても、光り輝いてまではいなかったから、私の中でなんらかの感情の変化があったということなんだろうな、きっと。
「なるほど、そういうものですか。ならば私の目がおかしくなってジークヴァルト様の神気がわかるようになったというわけではないのですね」
「別に私に向かって跪いて祈り出したくはならないであろう?」
ならないね。
どちらかといえば、これまで心の中で注連縄かけて拝んでいたのが、注連縄外れてご神木から人型になっちゃったし。
「祈っても特にご利益はなさそうですしね」
「ゴリヤク?」
ああ、この世界では御利益とは言わないか。
ジークヴァルト様がきょとんとしている。
「ジークヴァルト様は私の恋人で夫であって、神ではありませんから」
ジークヴァルト様がそれはもう幸せそうに微笑んだ、キラキラ度が5割増しだ。
給仕をしているイリスが今にも鼻血を吹いて倒れそうな顔をしている、私の庇護下にあるから神気は効かないはずなんだけど、元々イリスは唯美主義だからなあ。
「そうだな、私は君を愛するただの男だ」
なんか色々吹っ切った晴れやかな顔をしている、ジークヴァルト様の400年消えなかった神気が消える日も遠くない予感がした。
一応ルナールルートでもセイランは結婚後ルナールのことをかっこいいなあ、いい男だなあ、と思って日々見ていますが、なんせ元々かっこ良くていい男だったために、それがラブラブフィルターによるものだとは気付かないまま生活しています。