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さて、これからどうしようか。

私は目の前で泣き崩れるシェンティスと、悲痛な顔をしているローラントを眺め、私の隣で不機嫌な気配をガンガン醸し出しているジュリアスを横目で見る。

止めてくださいと言われても、私はなんでまたジークヴァルト先生が自殺願望なんて抱いたのかがさっぱりだ。

そもそも、こんな大雨を降らせるほど心を揺らした原因が不明なのだから、まずは根本的な原因を明らかにしなければならないだろう。

大体皆ジークヴァルト先生のことを、腫れものを扱うように遠巻きにしすぎなのだ、過去に何があったのか知らないが、心の傷というものはもっと寄り添ってあげないと。

6つ名だろうが、ハイエルフだろうが、神様じゃないんだから痛みもするし、悩みもするよ。


「とりあえず、ジークヴァルト先生とお話しさせていただかないと始まりませんわね」


「姉上がそこまで親身になる必要があるのですか?」


帰国して誰とも知らぬ相手との結婚が待ち受けている身だ、不用意に他国の他種族の男と関わるんじゃない、というジュリアスからの副音声が聞こえる。

まあ、そうなんだけどね、わかっちゃいるが、できることがあるのならしたいと思う程度には、私はジークヴァルト先生のことが好きなのだ。


「ありますよ。ジークヴァルト先生は私の恩師ですし、赤の他人の中では1番好きな方ですから」


ジュリアスが息を呑む。

私は極端に情が薄いから、赤の他人にはほとんど感情を向けることがない。

そのことを私の家族はよく理解している。

なんせ私にとっては、家族と古くから家に仕えてくれている使用人や騎士達以外は、ほとんどがただの情報でしかないのだ、元婚約者のディオルト様も将来政略結婚させられる相手としてしか認識していなかったのだし。

私の身体は地頭が非常に良いから、1度会った人や各国上層部の情報は全て頭に入っているが、そこに好悪の感情は一切ない。

まあそれも神々によって感情を制限されていたからだということが、ジークヴァルト先生によって判明したわけだけどね。

私が家の者以外で情報として以上の感情を持って接している相手というのは、非常に限られているのだ。

そしてその非常に数少ない相手の大半が、このセレスティスに来てから知り合った相手である。

そりゃあね、アルトディシアにいた頃は、家同士の関係や国同士の関係を考慮して友好関係を結ばなければならない相手とばかり接してきたのだから、ただでさえ感情の薄い私がそこに情報以上の感情を抱けというのがそもそも無理ゲーだったのだ。


「あのハイエルフを好き、ですか?姉上が?」


「好きですよ?一緒にいてあれほど落ち着く相手は他にいませんし」


「ジークヴァルト様と一緒にいて落ち着くなどと言われるのは、後にも先にもきっとセイラン・リゼル様だけですわ」


シェンティスが泣き笑いのような顔で呟く。


「とりあえず、ちょっと話を聞いてきますね。あまり権力を振りかざすのは好きではないのですが、神殿騎士たちも私の命令なら聞いてくれるでしょうし」


6大神の間の扉を守っている神殿騎士たちの前に行くと、3人並んで立っている騎士たちがまた来たのかという顔をする。


「扉を開けてください」


「先ほども言いましたが、中で祈りを捧げておられる方がいらっしゃいますので、この扉を開けることはできないのです」


私は神殿騎士たちを真っ直ぐに見据える。


「私の名はシレンディア・フォスティナ・アウリス・サフィーリア・セイラン・リゼル・アストリット・シルヴァーク。6つ名として命じます。扉を開けなさい」


「はっ!」


私のフルネームを聞いた瞬間に背筋を伸ばした神殿騎士たちが、蒼褪めて扉を開くと、中から白い光が溢れ出てきて周囲の者達が皆ひれ伏す。


「こ、これは・・・!」


「神の御力だ・・・!」


なんか感極まって祈りを捧げ始める者が続出しているが、私はそんなものに構っている暇はない。

私が6大神の間に足を踏み入れると、音もなく扉が閉じていく。

円を描く神像の中心に7体目の神像、ではなくジークヴァルト先生が立っていた。

確かに神々しいが、シェンティスやローラントにあんなに心配をかけて一体何をやっているのだ、ジークヴァルト先生は。

私の存在にまるで気付いていない様子のジークヴァルト先生の前に立つ。


「ジークヴァルト先生、いったい何をなさっているのです?」


ジークヴァルト先生が物凄く驚いた顔で私を見下ろす。

私が入ってきたことにまるで気付いていなかったんだね。


「セイラン・リゼル、何故、君がここにいる・・・?」


「この大雨の原因を探るために神殿に来たら、シェンティスとローラントがジークヴァルト先生がこの大雨を鎮めるために神々に祈っていると聞いたものですから」


流石に本人を前にして自殺企図しているのを止めてくれと頼まれた、とは言いにくい。

そもそも6つ名が天変地異を起こすのだとして、その6つ名が死んだからといって一旦始まってしまった天変地異が治まるものなのかね?


「原因か、原因は私だ。私の浅ましい心がこの大雨を招いた。1度始まってしまった天変地異は神が降臨しなければ治まることはない。だからこの身に神を降ろそうと思ったのだ。そして2度に渡って天変地異を引き起こした私自身を滅ぼしてもらおうと思っている」


ジークヴァルト先生が自嘲するように微笑む。

うーん、前世なら知り合いの神経科医でも紹介したいところなんだが、今世ではそうもいかない。

そもそも神々が天変地異を起こしかねない6つ名なんてものを、神ならぬ身に与えるのが悪いと思うのだが。

勝手に感情まで制限して。

なんかそう考えると腹が立ってきた、もしかすると私も起こすかもしれないということだよね?天変地異。なんて迷惑な。


「なら早いとこ神降ろしをしてこの大雨を鎮めていただきましょう。わざわざジークヴァルト先生が死ぬ必要なんてありませんよ、幸いまだ大きな被害は出ていませんし」


もうね、ちゃっちゃと降りてきてもらって、とっとと鎮めていただきましょう。

なんならあんたらが6つ名なんて与えたせいで、天変地異は起こるし、思い悩んで自殺企図までしようとするし、と文句のひとつも言わせていただきたい。

ちょっと感情的になっただけで天変地異が起こるなんて、だから最初から感情制限しているなんて、私たちをなんだと思っているんだ、可哀想に、こんなに思い悩んで。

思わず手を伸ばしてジークヴァルト先生の白銀の頭を撫でる。


「君は、一体何をしている・・・?」


「あ、申し訳ございません、思わず・・・」


ジークヴァルト先生は頭を撫でていた私の手を取り、そっとその手に口付けてきた。


「私が君を国に帰したくないと思ってしまったのがこの大雨の原因だ。私は君の傍にいたかった、君に傍にいてほしかった。6つ名に与えられた役割を知っていながら、そんなことを願ってしまった私の心が原因だ。君には、君にだけはこんな浅ましい私を見てほしくなかった・・・」


・・・・・・。


え・・・・・・?


私?!


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