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アルトディシアから帰還命令が届いた。

もうこの際相手は誰でもいいから帰国して結婚して国にいてくれ、ということらしい。

王からは王子2人のどちらかと結婚して予定通り次期王妃になってほしい、どちらの王子もその婚約者も私が第1妃になることで納得済みだそうだが、私は本来地位や権力に興味はないから、せっかく婚約破棄できたのだからもう次期王妃になんてなりたくないのだが。

実家にも国中の高位貴族からいくつも縁談が届いているらしく、王子2人のどちらかとの結婚が気が進まないのなら、他家に嫁ぐなり、婿養子を迎えて公爵家の領地のいくつかを治めるなりしてもいいと言ってきた。

どうせうちの領地は広大だから、当主は王都に常駐して領地は一族の者が管理しているのだ。

とりあえず、誰でもいいから国に紐付けしておきたいということだろう。


ああ、面倒くさい。


私は前世から恋愛や結婚に対する優先順位が限りなく低かったのだ。

大体、一緒にいて苦痛のない相手というのは非常に限られている。

一旦自由を知ってしまうと、政治とか社交とか非常に面倒くさい。

私は本来あまりコミュ力の高い方ではないのだ。


「お嬢様、何か良くない知らせでございますか?」


「帰国して誰とでもいいから結婚しなさい、ですってよ」


私がぱさっと手紙をテーブルに放り投げると、普段なら行儀が悪いと言いそうなクラリスが頭痛を堪えるように額に手をやった。


「誰とでもいいから、でございますか」


「私がアルトディシアを離れてから各地で自然災害が多発しているようですね。なんでもいいから国にいてほしいのでしょうよ」


所詮6つ名というのは公共インフラだ、3年自由にさせてもらっただけでも国としてはかなりの譲歩だろう。


「冬になる前には帰国しなければなりませんね、ちょうど学院も更新試験前ですし丁度良いでしょう」


更新試験を受けて1年の授業料を支払っていたら勿体ない、と思っていただろうが、幸い今は夏の終わりで試験は秋の始めだ。まあ、ここで授業料が勿体ないと考えてしまうのが、前世での一般庶民の感覚なのだろうが。


「誰でも、とのことですが、お嬢様は誰と結婚なさるのですか?」


「さあ?帰国してから縁談が来ている相手の名前を1枚ずつ紙に書いて、目隠しして選びましょうか?」


誰でもいいというのだから、この際くじ引きで十分だろう。

お世話になった友人たちや先生たちに挨拶しておかなければならないね。

この際だからドヴェルグ商会にアルトディシアに支店を出してくれないかフリージアに頼んでみよう、シルヴァーク公爵家が全面的に支援するとなれば多分応じてくれるんじゃないかな、パルメート商会の支店は既にあるから、取り扱いの商品を増やしてもらえないかリュミエールに頼んでおこう。

食事処をアルトディシアでも作ったらルナールとエリシエルも喜びそうだしね、自由な冒険者のルナールとエリシエルは気が向いたらアルトディシアにも来てくれるだろう。

でもジークヴァルト先生とはもう会えなくなるんだろうな、彼がこのセレスティスを離れることはなさそうだし。

アナスタシア様によろしくと頼まれたけど、結局私がジークヴァルト先生に何かをしてあげることはできなかったな、せいぜい美味しいお菓子と料理を食べさせたくらいで。




「ジークヴァルト先生、私、近いうちにアルトディシアへ帰国しなければならなくなりましたの」


「・・・それは一時的なものか?恒久的なものか?」


「恒久的なものですわ。帰国して誰とでもいいから結婚して国にいてくれ、と王から嘆願されましたので」


ジークヴァルト先生が大きなため息を吐く。


「そうか・・・6つ名が現れるということは、その周辺の土地が安定していないということだからな、本来死ぬまでその場に留まっているはずの6つ名が国を離れたことで自然災害が多発したか」


「・・・そうなのですか?」


私は自分自身が公共インフラだと理解していたが、そもそも安定していない場所に6つ名が現れるということだったのか。


「この世界は神々が造った箱庭だ。自らが作成した場所を安定させ、思うように発展させるための駒として、我ら6つ名が置かれる。本来そこに置かれる重石が動いたことで自然災害が多発するのだ」


どうやら私は文鎮だったらしい。

そういえばこの世界はリアル天動説だったね、文鎮がないとベロっと紙が捲れるように大陸が捲れるということか。


「なるほど、そういうことでしたか。ならば早く帰国しなければなりませんね、なんの関係もない民が私が不在なせいで迷惑を被っているということですから」


天災大国日本で生まれ育った記憶のある私としては、自然災害はもうどうしようもないから、できるだけ普段から備えておくしかないと思っていたが、それを抑えるためにわざわざ神々が6つ名を与えた者を置いているというのなら、私は私の義務を果たさなければならないだろう、神々によって公共インフラとしての役目を与えられていたのなら、もう仕方がないね。


「・・・6つ名は神々によって感情を制限されている。見目は良いが、感情の乏しい我らを愛してくれる者は非常に少ない。だが、我らが感情を揺らすとそれが天変地異に繋がるのだ。そして非常事態に神々が降りるための器が我々6つ名だ」


なるほど、シャーマンというわけか。

なんかこの世界の謎が一気に解き明かされた気分だよ。


「いろいろと納得できましたわ、ありがとう存じます。私、この際結婚相手はくじで選ぼうかと思っていたのですけれど、選ばれた相手にとっては罰ゲームのようで申し訳ないですわね」


政略結婚に愛なんて必要ないだろうと思っていたが、どうやら私は相手がどんなに良い人であっても愛することはできないということだろう、それはそれでなんだか申し訳ない、いっそ既に何人も愛人を囲っているようなのを選んだ方が良いだろうか。


「・・・くじ?」


「ええ。いくつも縁談がきているらしいのですけれど、誰でもいいと言われましたので、それならいっそくじ引きでと考えていたのですが、相手が誰であっても私が恋愛感情を抱くことは恐らくないということですよね?当たった人が良い人だと申し訳ないなあと思いまして・・・」


「君は本当に突飛なことを考える・・・」


ジークヴァルト先生が呆れてしまった。

でもねえ、政略結婚に心なんぞ必要ないと割り切っている人ならともかく、ディオルト王子のように愛を求めている人もそれなりにいると思うんだよね、最初は大切にしよう、愛そうと頑張ってくれるのに、私がその想いを全く返せなかったら申し訳ないではないか、だんだん相手の心も離れていくだろうし。

6つ名が愛されないというのはそういうことなのだろう。




私がジークヴァルト先生に帰国の挨拶をしに行った翌日から、セレスティスでは雨が降り始め、何日経っても止む気配がみられなかった。


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