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無事にお茶の商談も纏まり、アナスタシア様とルクレツィア嬢が帰国することになった。

あの2人はセレスティスに滞在中、1度貸し切りにした翌日から食事処のカフェタイムに日参したらしい。滞在中毎日個室の予約を入れられたとディアスたちが笑っていた。

ディアスたちは、ジークヴァルト先生を先に見ていたせいか、アナスタシア様のことはものすごい美女だとは思ったけれど、それ以上の感慨はなかったらしく、ハイエルフは皆ジークヴァルト先生のように神々しいのかと思って慄いていたがそんなことはなかった、と拍子抜けしていた。


「いえ、セイラン様と張る絶世の美女などそうそうお目にかかれませんから、大層目の保養はさせていただきましたが、先にジークヴァルト様にお会いしておりましたので、特に緊張することもありませんでした」


まあ、顔面偏差値はね、私も相当高いのは自覚しているんだよ、ただ感情が薄いせいで人形みたいと揶揄されることが多いけど。


「滞在中にカフェメニューを制覇されましたからね、エルフ族というのは本当に甘党ですね」


砂糖が高級品なせいで、カフェメニューも前世とは比べ物にならないくらい高級なのだが、なんせ相手はリシェルラルドの王族だ、しっかり散財してくれたらしい。


「帰国される際にお土産を準備いたしましょう、焼き菓子類は日持ちいたしますし、本国のご家族にも召し上がっていただけるよう多目に」


どのくらい持たせてあげれば、本国に着くまでに全て消費されずにちゃんと残るんだろうね・・・?

本国のジークヴァルト先生のお兄様用に、別途準備しておいた方が無難かもしれない。


「店の方で焼き菓子類を準備するのでしたら、私は携帯用の冷凍箱に冷たいお菓子を準備いたしましょう」


それでもって、ジークヴァルト先生にお兄様にしか開けられないように封印してもらおう、そうしよう。




「というわけで、この携帯用冷凍箱にお兄様にしか解けないように封印をお願いいたします」


帰国前日に中身を入れた携帯用冷凍箱をジークヴァルト先生の研究室に持ち込む。


「何が、というわけでなのだ?」


ジークヴァルト先生に胡乱な目で見られる、そういえば説明していなかったね、すっかり通じ合っている気分でいたよ。


「いえ、アナスタシア様とルクレツィア様へお土産にお菓子を準備しているのですが、帰国までの道中で全て召し上がられてしまって、帰国した際には何も残っていないという事態を危惧いたしまして、ジークヴァルト先生のお兄様用のお土産を別途準備させていただいたのですが」


「・・・なるほど。君は我々の甘いものに対する執着を実に的確に理解していると思う」


ジークヴァルト先生は片手で額を覆い、大きなため息を吐いた。


「あ、一応、危険物は入っていないという確認をどうぞ。よければ1つずつ味見なさいますか?そのつもりで準備してきておりますので」


箱を開けて中身を見せる。

中身はシューアイスとブルーベリーチーズケーキとレモンタルトだ、ケーキとタルトはホールではなくプリンのように小さく作ってあるので、1つずつ味見できる。

冷凍状態で渡すので、ケーキとタルトは開けてから冷蔵庫で自然解凍してもらうよう伝えておかなくては。


「ありがとう、頂こう」


「ブルーベリーチーズケーキとレモンタルトは凍っていますので、解凍してから召し上がってくださいね」


既にシューアイスを食べ始めているジークヴァルト先生に一応説明しておく。ブルーベリーチーズケーキなら凍ったままでもアイスチーズケーキとして食べられるかもしれないけどね。


シューアイスを食べ終わったジークヴァルト先生が、冷凍箱に魔法陣を刻み始める。

開けてほしい相手の名前が全てわかっていれば、別に難しい術ではない。


「確かにこれはリシェルラルドに着くまでに姉上とルクレツィアに食べられてしまいそうだからな。他にも何か渡すのか?」


「日持ちのする焼き菓子類を店の方で準備しておりますよ。これは私からです。小型の冷凍箱はまだ量産の目途がたっていませんから、商品化しておりませんしね」


これ1つで普通の一般家庭用の冷蔵庫が5個くらい買えるコストがかかってしまうのだ、量産には向かない。私は個人的にいくつか作成しているけれども。


「兄上にしか開けられないお菓子の箱があるとなると、あの2人が絶望しそうだな」


くつくつとジークヴァルト先生が笑う。

分け合って食べてくれればよいのだけれど、独り占めされそうな気もする、まあ、お土産は渡してからは渡した相手の好きにすればいいだろう。



翌日は宿の前でお見送りだ。

リシェルラルド地区の最高級宿を貸し切っていたようだから、周囲には随行のエルフ族しかいない。


「こちらは店の方からお土産ですわ、お気を付けてお帰り下さいませ」


ディアスたちから預かっていた大きな菓子箱をルクレツィア嬢に渡す。

中身はクッキー、ロシアケーキ、パウンドケーキ、マドレーヌ、フィナンシェ、ガレット、リーフパイと日持ちのするラインナップだが、果たして帰国するまで残っているのだろうか。


「ありがとう存じます!」


ルクレツィア嬢の緑の目がキラキラだ。

側近に渡すこともせず、嬉しそうに抱えている。


「姉上、これは兄上に。セイラン・リゼルからですが」


ジークヴァルト先生がアナスタシア様に小型冷凍箱を渡す。


「なんでしょうか?あら、フォルクハルトにしか開けられないようになっているのですね」


「姉上とルクレツィアが帰国途中に土産にと渡した全てのお菓子を食べてしまうのを危惧して、兄上用に別途用意してくれたのですよ」


「まあ、ほほほ・・・」


アナスタシア様が一瞬虚を突かれたような顔をして、気まずげに笑う、やはり別途準備して正解だったようだ。


「中身はシューアイスとブルーベリーチーズケーキとレモンタルトでした、毒見として昨日私が味見いたしましたが、どれも非常に美味でしたので、是非フォルクハルト兄上にお渡しください」


「まあ、私たち、そのシューアイスというお菓子とレモンタルトというお菓子はまだ食べたことがありませんわ!」


アナスタシア様とルクレツィア嬢が衝撃に打ち震えている。


「兄上に分けてもらえるよう、そちらの焼き菓子もちゃんと残しておくとよいですよ」


ジークヴァルト先生は素っ気ない。

まあ、たくさんもらったお土産を道中食べつくして、帰国したら個人用に渡されたお菓子も寄越せとは言いにくいよね。


「セイラン・リゼル様、滞在中は大変お世話になりました、ありがとう存じます。ジークヴァルトのことをよろしく頼みますわね」


気を取り直して小型冷凍箱を側近に渡したアナスタシア様が、何故か少し悲しげな顔をして私の手を取る。


「私はジークヴァルト先生にいつもお世話になっておりますので、何かできることがあれば良いのですが」


「きっと貴女にしかできないのです。何か困ったことがあれば、いつでも頼ってくださいませ、私も本国の弟も力になりましょう」


いやいやいや、本国の弟ってリシェルラルドの現王でしょ?!

そんな簡単に、力になる、なんて言っちゃまずいでしょうよ!


「姉上、セイラン・リゼルを困らせるようなことを言わないでください」


「ジークヴァルト、セイラン・リゼル様と一緒なら、貴方もリシェルラルドへ帰ってくることができるのではなくて?私もフォルクハルトも待っておりますよ」


ジークヴァルト先生が驚きにその薄い金色の目を見開く。


「それは・・・」


アナスタシア様がジークヴァルト先生を見上げて、少し泣きそうな顔で笑う。


「私とフォルクハルトが生きているうちに、貴方がリシェルラルドへ帰国できる日を心待ちにしています」


そう言うと、アナスタシア様はルクレツィア嬢と一緒に馬車に乗り込んだ。

どうやらジークヴァルト先生はリシェルラルドへ帰国できない何かがあるらしい。

隣でやや呆然とした顔で馬車を見送るジークヴァルト先生の横顔を見ながら、アナスタシア様の言うように私に何かできることがあるのだろうか、とぼんやりと考えた。


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