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食事処に特別に他国へは輸出していないお茶を何種類か融通してもらう商談をする予定だったが、商談というようなこともなく、ほぼ原価に輸送費を加えただけの金額で何種類か卸してくれることになった。

これまでお願い事などしてこなかったジークヴァルト先生がわざわざ兄姉を頼ってきたために、採算度外視で王家御用達の商会に命令して同行させたらしい。


・・・私情入りまくりだ、それでいいのかリシェルラルド王家?


まあ、国家間の取引のような大袈裟なものではなく、中立国のひとつの食事処に限定して卸すだけだから、外交が絡んでくるわけでもないし問題ないのだろうけれども。

ついでに孫娘の無礼な発言もこれでなかったことにしてほしい、ということだろう。

そういう意味では、感情の起伏の乏しい私は子供に暴言を吐かれたくらいなんとも思わないから、それでほぼ原価でたくさんの美味しいお茶が仕入れられるのならむしろありがとうだ。

ただ、何種類のお茶をどれだけ卸すかという商談は必要になるので、カフェタイムに食事処を貸し切りにしてほしいと頼まれた。

どんなお菓子に合わせるかの確認は必要だしね、それを楽しみにしてあのちょっと迂闊なお子様もわざわざ他国までついてきたのだろうし。

商談は商会の者達に任せて、私はハイエルフの3人の相手をしていればいいだろう、さすがにディアス夫妻、リュミエール、フリージアにハイエルフの王族の相手をさせるのは気の毒だ。

まあね、あのルクレツィアちゃんが私のことを無礼だの馴れ馴れしいだの呟くのもわからないでもない、多分彼女は私のことを料理人か商人だとでも思ったのだろう。

人間族の平民の料理人や商人なら古代エルフ語なんて解さないし、王族の隣に座って普通に会話するなんて、ありえないだろう。

ただセレスティスは中立の都市国家だし、ジークヴァルト先生も私も本国での身分を吹聴しているわけではなく、一介の研究者と留学生として生活している。

セレスティスは中立の学術都市だから、本人が何も言わないだけで、どう見ても高位貴族だろう、というような者がそれなりにいるのだが、国から出たことのないハイエルフのお姫様にはわからなかったんだろうなあ、可哀想に。

多少なりとも外交経験があれば、相手の身分とか立場とか隠していてもなんとなくわかるようになるんだけどね。

前世でもよく物語にあったではないか、本物の王子は身分を隠して従者の振りをしていたとか。

でもあれってよっぽど上手く擬態しないと、生まれ育った立ち居振る舞いや雰囲気というのはわかる者にはわかっちゃうんだよねえ、ちょっと痛々しい。


「5日後のカフェタイムに貸し切りにいたしますので、先にアフタヌーンティーを希望される方の人数を伺っておいてもよろしいでしょうか?」


「アフタヌーンティー、ですか?」


「姉上、あれは1度食べてみるべきですよ。セイラン・リゼルの作成するお菓子の素晴らしさが十二分に実感できますから」


貸し切りにするのは問題ないが、仕入れや準備の都合もあるので、アフタヌーンティーの人数だけではなく、おおまかな注文もわかる限りで良いので聞いておいてほしい、と商人たちに頼まれている。


「あの食事処のメニューのレシピは確かにほとんど私のものですが、作成しているのは私でも我が家の料理人でもなく、3商会で雇った料理人たちですよ」


アフタヌーンティーの素晴らしさを淡々と語るジークヴァルト先生に訂正する。

ただねえ、昔から料理人たちは私のことをまるで美食の女神のように崇めてくるので、どうにかしてほしいものである、引き抜きの心配とかはあまりなくて良いのだが。


「今日のこのピーチムースというお菓子もとても美味しいですけれど、人間族のお菓子作りの技術というのはとても進んでいるのですね」


アナスタシア様は持参したピーチムースをそれは幸せそうに食べているが、作れるのは残念ながら私がレシピを提供した料理人だけで、世間一般のお菓子は甘すぎる砂糖の塊のようなものがメインだ。


「姉上、私はこのセレスティスに長年住んでいますが、お菓子も料理も技術が進んでいるのはセイラン・リゼルの家だけですよ。アルトディシアやフォイスティカイトが特に美食に拘るという話も聞きませんし」


「幼い頃から趣味で色々追及してきた結果、どうも他家とは一線を画す料理とお菓子ばかりになってしまいまして」


ほほほ、と笑ってごまかしておく。


「まあ、そうなのですか。ではそのアフタヌーンティーというのを私とルクレツィアと、同行する者5名分にしておきましょうか。他のメニューもあるのでしょう?」


「はい、もちろんですわ。アフタヌーンティーは準備が大変ですので、3日以上前からの予約のみ受け付けているのです。ジークヴァルト先生はどうなさいますか?前回招待させていただいた時は春のメニューでしたけれど、もう初夏ですのでケーキ類は一新しております」


「・・・前回から一新されたケーキ類にも心惹かれるが、私はメニューで見たパフェとパンケーキにも惹かれたのだ」


「パフェには季節のフルーツパフェとチョコレートパフェの2種類がございますよ。パンケーキもトッピングはいくつか選ぶことができます」


今後のお茶の納品次第では、お茶のパフェも作ってもいいかと考えている。

抹茶ならぬルシアンは超高級品だし食事処で扱うのは難しいだろうが、ほうじ茶パフェとか紅茶パフェとかも美味しいよね。


「君の家で食べたルシアンのパフェは非常に美味だった」


ジークヴァルト先生は甘党の酒飲みなので、本当にこれで太らないのは種族特性としか言いようがないよなあ、といつも思っている。


「本当に仲が良いのですね。ハイエルフは他種族に敬遠されることが多いですから、貴女のような方がいて嬉しいですわ」


他種族を見下している者が多いエルフ族の更に王族のハイエルフで、寿命も長いし見た目も近寄りがたいしで、なかなか他種族との間に壁があるのは仕方がないと思う。

ハイエルフからしたら、仲良くなってもあっという間に年取って死んじゃうわけだしね、壁を作るのは一種の防衛反応なのかもしれないね。

ジークヴァルト先生は、私が皺くちゃのおばあさんになってもまるで気にしなさそうだけど。


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