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それから試験の日まで毎日あちこち散策した私は、各国の居住区の市場も制覇し、念願の醤油もどきと味噌もどきもゲットした、万歳である。どうやら地の神を祀るヴィンターヴェルト王国には日本的な食材が多く存在するらしい、この感謝の気持ちを神殿に伝えに行かなくては。


「お嬢様は本当に信心深くていらっしゃいますよね。婚約解消なんてされたので、神殿に巫女として入ると言い出されるかと思っておりましたが、セレスティスへの留学は予想外でございました」


クラリスに呆れたように言われるが、神様に名前を贈られた時から次期王妃として神事と魔力の奉納を叩き込まれてきたのだし、もともと前世で八百万の神を祀っていた国民としてはちょっとそこに神社があるからお参りしていこう、くらいの感覚である。


「ほかの留学生は皆試験勉強に必死のようですよ?年に1度の試験の結果でその先1年の受講できる講義が決まりますから」


試験内容は新入生も在学生も一緒らしい、内容は毎年変わるらしいから過去問もあまり役に立たないようだけど。


「陛下から留学費用として大金貨10枚いただきましたもの、学費だけなら100年滞在できますわ」


そう、慰謝料という名の留学費用は大金貨10枚なのだ、授業料が全員共通で一律年に中金貨1枚なので、100年分である。普通の学生はそこに生活費がかかるのだろうけど、私は個人資産もあるし、公爵家の物件を使わせてもらっているから家賃もかからない。寮もあるらしいけどね。でもパトロンを求める学生の気持ちもわかるなあ、高いよね、1年で中金貨1枚の学費は。アルトディシアの中流くらいの平民1人の年収が小金貨3枚前後らしいし。だから実家の公爵家も何人もの学生をパトロンとして支援しているわけだし。

まあ、私には何か成果を出さなくてはと焦る必要もないので、のんびり好きなようにやるつもりだけど。


「お嬢様なら特に試験勉強も必要ないのでしょうね」


イリスが苦笑するが、確かに7歳から9年かけて詰め込まれた王妃教育は伊達ではない。

普通に自国から出ずに生きていく分には、自国語と共通語が話せれば困らないが、王族というのは外交をしなければならないので、語学の習得は必須だったのだ。まあ、語学を習得するということはそれだけ読める本が増えるので、私としても嬉々として習得したのだけれども。この身体は高位貴族だけあってハイスペックで、とても頭の出来が良いのも助かった。

歴史、地理、神学、政治、経済、一通りは叩き込まれているし、読書家の常として、勉強が苦にならないというのもあった。

社交やダンスは面倒だったけど。


そして迎えた試験当日。

いくつもの部屋に分かれて行われる試験は、正面の大きな黒板に問題が書かれており、魔法紙の回答用紙に受験番号と回答を記入し終わり次第提出して退室、次の部屋に向かいまた試験、というのを延々と繰り返すものだった。わからなければ0点になるが白紙提出してさっさと次に進んで良いらしい。試験は3日間かけて行われるが、その3日間でどのように時間配分するかも実力のうちということだろう。そしてどうやらあの魔法紙の回答用紙は、専用の魔術具に入れるとマークシートのように正誤を判断できる仕様らしい。

語学だけは共通語のみ必須で、あとは各部屋に各国語の札がかけられており、わかるものだけ入室して試験を受けるようにという仕様だったが、これで語学の習得程度を判断して図書館の閲覧範囲が決められるということだったので、気合を入れて9年間で習得した15か国語の試験を受けた。まだ習得していない少数種族の言語の部屋もいくつかあったので、来年はそちらも受験できるよう努力する目標ができた。

最後は魔力量を測定して終了だ、これは魔力量が足りないと受講できない講義の判定に使うらしい。神殿にあるような石板に手を当てると、白金色に光る。私の魔力量は人間としてはかなり多いはずだから、魔力量で講義に弾かれるということだけはないはずだ。

人間とは寿命の違うエルフ族やドワーフ族といった種族もちらほら試験を受けている。そもそもこのセレスティスで教鞭を取るのはエルフ族が多いという話だし。

人間族主体の国家で生きていると、他種族と会う機会があんまりなかったから、それも楽しみだったんだよね、エルフやドワーフなんて前世の記憶からするとすっごくファンタジーだし。国交がないわけではないから、外交の場で会うことはたまにはあったけれど、所詮は表面的なご挨拶程度だ。


ちなみに、日本食もどきの食材があったヴィンターヴェルトはドワーフ族主体の国である。6大国は、人間族主体のアルトディシアとフォイスティカイト、ドワーフ族主体のヴィンターヴェルト、獣人族主体のヴァッハフォイア、ライトエルフ主体のリシェルラルド、ダークエルフ主体のフィンスターニスという内訳になっている。このセレスティスや芸術の都シェンヴィッフィのようにどの種族に対しても門戸を開いている国もあれば、排他的な国もあるし、少数種族の国もある。

外見や寿命が違うと常識の擦り合わせが大変なのだ。


試験の結果発表は1週間後だ。

ちなみにこの世界の1週間は6日間で、6大神がそれぞれ充てられている。

不合格はないが、成績で受講できる講義や図書館の閲覧範囲が決まるので、ちょっとドキドキする。

受付で受験番号を告げると白金色のカードを渡される。

どうやら、成績順に白金、金、銀、銅、鉄、青銅の色分けがされており、このカードの色で受講可の講義がわかるようになっているらしい。

図書館もこのカードで入館可となり、閲覧できる部屋が決まっているようだ、すごいハイテクな魔術具のカードだと思う。

1年後の試験結果でカードの色が変わったら交換、という仕組みらしい。

私は白金色だから、望む講義はほとんど受講できるだろうし、図書館の稀少図書も閲覧できる、受けてきて良かった、王妃教育!


学校というよりは巨大な城のような校内を地図を片手に歩き回る。何かあった時の避難経路を確認しておかなくてはならないし。

私が主に受講したいのは魔術理論や魔術具作成や魔法陣の研究だから、その講義に使われる教室の場所も把握しておかなくてはならない。


そして待ちに待った図書館!名実共にこの世界で最大の図書館である!


逸る心を抑えながら、白金色のカードを扉にかざす。

扉が自動で開き、中に入ると、そこは地上の楽園だった!

天井にはフレスコ画で神話が描かれ、胡桃材の書架が床から天井に届かんばかりにそびえている。入口から壮麗な装飾の館内を見渡し、夢見心地に誘われる。

この世界では、植物紙と活版印刷が100年くらい前に確立されているので、前世ほどに安価ではないが、本も紙もそれなりの値段で手に入るようになっているが、この図書館には羊皮紙に手書きの稀少本が山のようにあるのだ!


ああ、前世でそれを見たいがために行った、ポルトガルのコインブラ大学ジョアニナ図書館!オーストリアのザンクト・フロリアン図書館!チェコのストラホフ図書館!スイスのザンクト・ガレン図書館!それに、それに・・・!

どれも素晴らしかったけど、背表紙を見るだけで触れることのできなかった美しい本の並ぶ本棚!

見るだけだった本に触れる、キャレルに入れる?!


私はどこまで自分のカードで閲覧できるのか確認するために、内心の狂喜乱舞を王妃教育で培った無表情の下に押し込み、無言で図書館内を徘徊しまくった。頭の中では盛大な打ち上げ花火がパッカンパッカンと花開いてたが、他人に見えなければ問題ないのである。



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