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ロテールが満面の笑顔でリントヴルムの翼と角を持ってきてくれた。

災害級の魔獣を討伐できたので、白金に昇格できるとそれはもうニコニコだ。

リントヴルムはとても巨大なので、残りの素材はギルドの解体班が処理してオークションにかけられるらしい。

ステファーニア様は私がリントヴルムの翼が欲しいと言った時、卒倒しそうなくらい蒼褪めた顔をしていたけれど、この兄弟にとってはやっと遭遇できたぜヒャッハー!という程度らしいからね。

私はもともと収集癖があるので、特に何を作るかはまだ決めていないが、珍しい素材が手に入ったのは嬉しい。

この際だからもう指名依頼で他国にいるあと2人の弟にも何か珍しい素材を依頼してやってくれとルナールに頼まれたので、冒険者ギルドを通してフレンスヴェルグとアンフィスバエナとヒュドラの素材を依頼しておいた。

1番下の弟はまだ銀のはずなので2つ頼むと言われたしね。

既にルナールとロテールが白金になって帰国するのが決定しているので、あと2人の弟は急いでヴァッハフォイアへ帰国する必要はないそうだが、それでも白金になっていつでも帰国できると思うのと、なかなか上がれないと悶々としているのとでは、気分的に違うのだろう。


いやあ、白金に上がれて良かった、良かった、これで大手を振ってヴァッハフォイアへ帰国できる、と喜んでいるロテールとは対照的に、城は大騒ぎらしい。

そりゃあ、王都が築かれるような場所はなるべく危険な魔獣が少なくて、豊かな水源があって、交通の要所で、と様々な要素を鑑みて選ばれているのに、1日程度で行ける平原に災害級の魔獣が出現したわけだしね。

実際、同じ平原に80年ほど前にリントヴルムが出現した時は騎士団の半分が壊滅したという歴史が残っているわけだし。私もこの周辺で出現が確認されたことのある珍しい魔獣、ということでなんとなくリントヴルムと言ってしまったのだけれど。

そう考えると、頭は当然切れないとダメな上に、騎士団が半壊するような魔獣を単独で討伐できないと務まらないというシュトースツァーン本家の男ってマジ大変。

ルナールは、私みたいなあまり癒しにならなさそうな女を選んでしまって、本当に良かったのだろうか。


「なんだ?」


心配になってルナールを見つめていると、訝しげな顔をされる。


「いえ、私は世間一般の癒し系の女性からは程遠いと思いますけれど、何かできることがあれば遠慮なく仰ってくださいね?」


私以外の女性を何人囲っても怒らないよ?と言いたいのだが、本人が家訓で私だけだと言い切ってるしねえ、将来それを後悔されるのが何より怖いのだが。


「そうだなあ、なら膝でも貸してもらおうか」


膝くらいいくらでも、と言おうとしたところで、ロテールからのストップがかかった。


「義姉上、兄上をあまり甘やかさないでくださいね。兄上も実の弟が見ている前で何をする気ですか」


「婚約者の膝を枕に昼寝くらいしても、文句を言われる筋合いはないと思うんだがなあ」


ロテールは明日王城から呼び出しを受けている。

災害級の魔獣を討伐した褒美というやつだが、これが平民や下級貴族出身の冒険者なら、栄達の道が開けたりするのだが、ロテールはねえ。王家はどこまで把握しているのだろうか、ステファーニア様は多分状況が状況だっただけに何も言っていないだろうし。

普通ならね、良くやってくれたと王からお褒めの言葉を頂いて、平民なら騎士への叙爵とか、下級貴族なら陞爵だとか、あとは単純に金銭褒賞だが、リントヴルムの素材がこれからオークションにかけられることを考えると、お金はある程度、それこそ下級貴族程度なら一生困らないだけの額が入ってくるだろう。

王家としても強い冒険者が騎士になって国に仕えてくれるのなら助かるのだが、いかんせん、騎士としての名誉や名声よりも冒険者稼業の方が儲かるし、と仕官を蹴られることも多い。公務員として義務で仕事をするよりもフリーで一山当てた方がいい、ということだよね、わかります。

あと、滅多にある話ではないのだが、市井受けするのは、身分違いの恋を叶えるために、というやつだ、物語の題材によくあるやつである。

ロテールは今回その路線で行くらしい。


「兄弟で女性受けする物語を演じるのも悪くはないかと思いまして」


ロテールは笑っているが、筋書きはこうだ。

兄に会うために公爵邸に来て、偶然王女であるステファーニア殿下に会った冒険者のロテールは一目で恋に落ち、偶然王都から1日しか距離のない平原でリントヴルムを見つけてしまう。愛する女性が暮らす王都に被害ひとつでも及ばないようにと決死の覚悟でリントヴルム討伐に挑み、見事勝利した若き冒険者、という設定らしい。


「決死の覚悟も何も、これでやっと白金に上がれた、と小躍りしていたではありませんか。いえ、政治や外交の場では演技や建前が重要なのはわかっておりますけれど、実際にリントヴルムの素材を依頼した身としましては、些か鼻白むと言いますか・・・」


いつの間にかそんな設定になっていたらしい、ステファーニア様にはお気の毒としか言いようがない。

お互いに共謀してやるならともかく、ステファーニア様はロテールがそんな設定を嬉々として考えているなんてまるで知らないわけだし。

将来的に義姉妹になるのだから、と昔から私のことをお姉様と呼んでくれていたステファーニア様とは、その兄で元婚約者であったディオルト様よりもずっと仲が良かった。

覚悟して脳筋の総まとめ役と結婚する私と違って、彼女はロテールと結婚して本当に大丈夫なのだろうか。ロテールもあの場のノリで決めてしまっていたけれど。


「いえ、義姉上、実は私はステファーニア殿下のお顔がかなり好みでして。政治、外交センスも問題ないのですから、是非喜んでヴァッハフォイアへお迎えしたいのです」


なるほど。

外見が好みだというのは割と重要だよね。

ステファーニア様は兄であるディオルト様とよく似た、甘く優しい顔立ちの金髪に紫の瞳の美少女だ。王侯貴族というのは位が上がるほど美男美女が多いしね。美しいということも外交上の武器になるから、王侯貴族にとっては重要なのだ。


そしてロテールは、もうヤケクソになったのか、開き直ったのかはわからないが、実は私も初めてお会いした瞬間から貴方を!とノリノリで演技してくれたステファーニア様を無事ヴァッハフォイアへ嫁入りさせることに成功したようだ。

そして裏ではひっそりと第1妃殿下が体調不良を理由に離宮に静養することになり、お父様とお兄様がいくつかの家を閑職に追いやっていた。

多分、6つ名の私が獣人族のヴァッハフォイアへ行くのは良しとしないフォイスティカイトからの内政干渉が密かにあったと思うんだよね、第1妃はフォイスティカイトの元王女だし、一緒に没落させられた家はフォイスティカイト系の家がメインだったし。

これまで特に交流のなかった他種族の大国に嫁に出すくらいなら、同じ人間族の大国で昔から盛んに国交のあるフォイスティカイトでもいいじゃないか、ということだと思う。もともと次期王になる予定だった王子は不慮の事故で亡くなっているから、今はフォイスティカイトもアルトディシアも次期王位争いが水面下で熾烈に繰り広げられている状態だからだ。

やれやれ、国同士で奪われ合うなんて、我がことながら勘弁してほしい。

アルトディシアもフォイスティカイトも、私が6つ名であること以外には何の興味もないんだろうなあ、それなら何もしなくていいからただ国にいてくれ、と次期王妃になんて内定させずに好きなようにさせてくれたら良かったのに。

何処の国でも一枚岩ではないから大変だ。


そういう意味では、最強の者が王になるヴァッハフォイアは、王位継承に関するトラブルだけはなさそうだね。王とは名誉職であって、政治における権力は一切ないらしいし。

ルナールの一族は色々と大変なんだろうけれど。


「ねえ、ルナール。私は恋愛感情はよくわかりませんけれど、貴方のことはかなり好きなんですよ」


「なんだ?いきなり」


ソファで私の膝を枕に寛いでいるルナールの柔らかい黒髪と狐耳を撫でながら言うと、面白そうな目を向けられる。


「なんとなく?言っておきたくなっただけです」


私が6つ名だと知らずに求婚してくれたしね。

どうもこの世界に転生してから、喜怒哀楽の感情が薄くなった気がするのだ、これも6つ名の特性というやつなのかもしれない、もっとジークヴァルト先生に突っ込んで情報を得ておけば良かった。


「そうか。俺はお前のことがかなりではなく、誰よりも1番愛しているぞ。ロテールに俺の愛は重いと言われたが、この先一生俺に愛される覚悟をしておけよ」


そう言って笑うと、ルナールは伸び上がって軽く触れるだけのキスをしてきた。

愛が重いのか、軽いのかもよくわからないが、ルナールの言葉を嬉しく感じる程度には、私もルナールのことが好きなのだろう。


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