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ルナールの2番目の弟だという金髪の狐獣人を紹介された。

エリシエルが顔の造りは確かに似ているけど、雰囲気は全然違う、と言っていたが、確かにルナールと違ってちょっと神経質そうな感じがした。

クリストハイトお兄様と同い年らしいが、結婚前の今から既に義姉上と呼んでくれる。

遠い異国の地に嫁ぐわけだし、夫となる人の家族とは仲良くできると助かる。

ルナールが外で襲撃されたように、弟さんも襲撃されて人質に取られたりしたら困るのだが、人質に取られるような情けない男はシュトースツァーン家の男として認められないらしい、シュトースツァーン家厳しい。

私が心配していると、ちょくちょく顔を見せに来てくれることになった。ルナールは基本的にうちにいるから心配ないんだけど、いくら強くても一人でいる時に集団に襲われたらと思うとね、先日のお祭りはちゃんとわかった上で派手に囮になっただけだから問題ないのだが。


「基本的に金や白金に上がるには、それに見合った魔獣なり稀少素材なりを手に入れないとならんからな、そんな魔獣や稀少素材と遭遇できる運も必要なんだ。ロテールも白金に上がれるだけの魔獣に遭遇できれば討伐できるだけの強さはある。実際俺も金のまま7年だったからな、お前がマンティコアの素材を直接依頼してくれなかったら、今もまだ金だっただろうよ」


ルナールが隣に座って私の髪をくるくると手で弄びながら、冒険者が金や白金に上がる苦労を教えてくれる。

そうか、ゲームじゃないから決まったクエストを熟せば上がれるわけじゃないもんね。

そしてゲームみたいに危険な魔獣がそこら辺にわんさかいたら困るし。


「確かに依頼しましたが、実際に手に入るかどうかは別問題でしょう?今ご自分で仰ったではありませんか、稀少な魔獣とはなかなか遭遇できないと」


手に入れば、という感じで依頼したのだが、ルナールもエリシエルも大概何でもすぐに持ってきてくれてたから、あまり稀少素材だという意識はなかった。


「今にして思えば、お前が直接依頼した、というのが重要だったんだろうな。名前が多いほど稀少素材は手に入りやすいと教えただろう?俺もなんでこんなに珍しい魔獣がちょくちょく出てくるのか、と疑問だったんだが、お前が6つ名だと聞いてから納得できた」


私が直接採集や討伐に赴かなくても、依頼するだけでLUK値の高さは発揮されるものだったらしい。でもまあ、ルナールにはそれを狩れるだけの実力があったということだしね。

ルナールがずっと弄んでいた私の髪にそっと口付け、侍女達から声のない悲鳴が上がる。


どうやら最近のルナールはお色気むんむんらしく、周囲からは結婚まではくれぐれも流されて一線を越えないように!と何度も釘を刺されているのだが、いかんせん、恋愛音痴の私にはちょっとぞわぞわ?ざわざわ?する程度しかわからないのだ、鈍くてごめん、ルナール。

それに、常に使用人が何人か同室にいるのに、どうやって流されて一線を越えるというのだろうか。

侍女たちには、あんな目で見つめられて迫られたら何もかも忘れて身を任せてしまいそうです、お嬢様はよく平気ですね、と言われたが、おそらく私はルナールが全力で迫ってきたらごめん、無理!と言って脱兎のごとく逃げ出す気がする。

ルナールは多分そんな私のぽんこつ具合をなんとなく理解してくれてるんでないかな、一歩引いて私が慣れるのを待ってくれている感じがする、優しいね。


お母様は毎日楽しくあちこちのお茶会で私達のことを吹聴して回っているらしい。

うちの娘の婚約者が街中で大勢の暴漢に襲われましたの、シルヴァーク公爵家の娘婿を狙うなんて許せませんわ。もっとも、シュトースツァーン家の当主はヴァッハフォイアの王位を狙えるくらい強くなければ務まらないそうですので、全て返り討ちにして無傷で帰ってきましたけど、おっほほほ!と実に楽しく周囲を煽っているらしい。

シルヴァーク公爵家を敵に回すとどうなるかわかっているな?しかも相手はヴァッハフォイアの次期宰相だぞ、と実にわかりやすく牽制している。

なんだかんだいってもお母様も元王族なだけあって、お茶会で周囲を煽ったり牽制したり情報を統制したりするのは得意なのだ。

うちと敵対する勢力は、私がディオルト様に婚約解消されてセレスティスに留学している間に身分の低い獣人族の冒険者と恋仲になって帰ってきた、とんだあばずれだ、きっとディオルト様との婚約解消に至ったのにも他の男とふしだらな関係になっていたのがばれたからではないか、と悪評を流していたらしいが、蓋を開けてみれば獣人族の冒険者は事実でも身分はヴァッハフォイアの次期宰相だった。

人間族の常識からすると、大国の宰相家直系の子息が冒険者をしているなんてありえないしねえ。ヴァッハフォイアは遠国であまり交流もないことから、情報もほとんど入っていないし。

ただ、今のルナールはまだ冒険者で、もし死んだとしても一冒険者が死んだということにしかならないのだ。

これが正式にヴァッハフォイアから外交のために訪れていたりしたら、街中で襲撃されたりしたら国際問題になるのだが。

襲撃してきた側もそれを狙いたいんだろうけどね。

王家は、ヴァッハフォイアのような遠国と縁を結ぶ利はアルトディシアには薄い、と私達の結婚に苦言を呈してきたが、利もなにも、先に全く利のない相手と真実の愛を育んで婚約を解消したのはそちらが先でしょう、とお父様が全くオブラートに包まず言い切ったらしい。


ディオルト様とそのお相手のユリアさんはねえ、なんというかまるで悪意のない人たちだったから、ルナール共々どうぞお幸せに、と心から言ってしまったわ。ディオルト様が人畜無害な人なのは知っていたが、おかしな悪女に誑かされたのでは、と従妹で元婚約者としてはちょっと心配していたからね。あの2人は王位なんて柵から解放された方が良かったのだろう。


そして私は、結婚式までルナールとの関係をもっと深めなさい、とお母様に言われて毎日一緒に過ごしている。

深めなさいと言われてもね、一線は越えるな、でも関係は深めろとはどうすれば?

ルナールは割と面白がっている節があるから、迷惑でなければそれでいいのだけれども。

一緒に嫁入り道具を選んだりしているのだが、私は一体どれだけの荷物を持って遠路はるばる嫁入りしなければならないのだろうか、と戦々恐々としている。

いや、仮にも大国の筆頭公爵令嬢が嫁ぐのに、いくら何もいらないと言われたとはいえ、着の身着のままとはいかないのはわかっているけれども。

それに高位貴族が他国へ嫁ぐのは文化交流の意味もあるしね、前世でヨーロッパに旅行した時もこれは当時の嫁入り道具で、みたいな説明書きの家具とかたくさん見てきたし。


「女は気に入りの衣裳や装飾品や家具や食器やなんやらがたくさんあるもんだと思っていたが、お前、本当に拘りないんだな」


ルナールに呆れたように笑われる。


「家族から贈られた品などは思い出がありますから持って行こうと思いますが、それ以外は特に・・・衣裳などはほとんど自分でデザインしておりますし」


食器も家具も場に相応しいシックな物ならば特に拘りはない。あまり派手な品は好まないけどね。

お父様とお母様は私のそういう性格を理解しているので、公爵家として恥ずかしくない品を大急ぎで各工房に発注して準備させてくれているらしい。

今はこれまで使用していた品の中でどれを持って行くのかを選んでいるのだ。


「ヴァッハフォイアとヴィンターヴェルトの国境にある山脈は良質な魔石や宝石や鉱物の産地だ。ヴィンターヴェルトは細工も有名だしな。装飾品はヴァッハフォイアに帰ったら俺がいくらでも贈ってやるよ」


やっぱり瞳と同じ系統の色がいいよな、と言いながら顔を覗き込まれる。

侍女達がほう、と感嘆の吐息を漏らすのがわかる。

間近で見るルナールの顔は本当に端正だ、ふと黒髪から覗く黒い狐耳が目に入る。

前に言ってたよね、嫁になるなら尻尾を触らせてやる、て。


「ルナール、耳と尻尾に触ってみてもいいですか?」


「ん?ああ、いいぞ。そういえば嫁になるなら尻尾も好きに触らせてやると言ったことがあったな」


ふぁさりと長い尻尾が回されてきて、私の手の上に置かれる。

おお、ふぁっさふぁさ!

憧れのもふもふ狐尻尾である。

狐耳をそっと撫でると、ルナールがくすぐったそうな顔をする。

前世でフォックスファーの付いたコート持ってたなあ、高かったけど暖かくて手触りも抜群だったよね、と思いながらうっとりともふもふ尻尾を撫でまわして抱きしめると、ルナールが何とも言えない顔をした。


「?痛かったですか?」


「お前な・・・いや、いい。結婚したら覚えてろよ」


ため息を吐いて笑われるが、私は何か失敗したのだろうか?


夜にお母様にルナールとの仲は深められたかと聞かれたので、恋人同士としての触れ合いをしましたよ、というと目を丸くされ、こめかみに手を当てたクラリスが何やら耳打ちすると、大きくため息を吐かれた。

お母様的に私の行動はあまり褒められたものではなかったらしい。


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もふもふ、もふもふは正義!
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