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セレスティスの街は、たくさんの塔が立ち並び、白い壁とオレンジ色の屋根が美しい、前世のプラハのような街並みだった。石畳を歩きながら、衝撃を吸収する靴の中敷きとか作ろうかしら、とのんびり考える。石畳は足にくるのだ。

家が整うまではアルトディシアの駐在大使の屋敷に滞在しては?と勧められたが、こんなところまで来て公爵家へのゴマすりや人事の希望など聞きたくないので、丁重にお断りした。厨房の準備が整うまでは外食をしても良いのだし。その辺の屋台で買い食いとかもしてみたいし。


まずは到着の報告とこれからお世話になりますとのご挨拶のために神殿に向かう。

前世から近所の小さなお社には毎日のようにお参りしていたので、似たような感覚だ。

お引越しの報告はちゃんと神様にしておかないとね、どこの神殿でも主祭神の他に6大神は祀っているものだし。


「風の女神アルトディシア、光の女神リシェルラルド、闇の神フィンスターニス、水の女神フォイスティカイト、火の神ヴァッハフォイア、地の神ヴィンターヴェルト、この地を守護したる叡智の女神セレスティス、私達の旅路を見守り恙無くこの地にたどり着くことができましたこと厚く御礼申し上げます。この先のこの地での日々が平穏でありますようお願い申し上げます」


跪いて祈りを捧げ、奉納用の石板に手を置き魔力を奉納する。

私は高位貴族として魔力は有り余っているので、毎回結構な量の魔力を奉納してきたが、魔力の少ない者は少ないなりに自分の奉納できる量で構わないらしい、任意のお賽銭のようなものだと思う。

ちなみに、呼びかける神様の名前に特に順番の決まりはない、私はアルトディシアの出身だから最初にアルトディシアに呼び掛けているだけだ。そして私は前世から神頼みというのは天災が起こりませんようにくらいだと思っているので、基本的にいつもありがとうございます、今後ともどうぞよろしく、というような内容のお祈りしかしない。実際、この世界では王族を始めとした高位貴族がきちんと神事を執り行って、神殿で民が魔力を一定量奉納していないと、覿面天災が起こるらしい。


神殿へのお参りは私にとっては義務のようなものなので、これでやっと好きなように動ける、とまずは近くの市場に行き、オスカーと一緒に食材と値段の確認をすることにする。

各国からの留学生が多数滞在しているこのセレスティスでは、前世の中華街のように各国の人間が集まっている居住区がいくつも存在しているらしく、私の新居は当然アルトディシアの居住区だ、市場もアルトディシアの食材が多い。

ちなみにこの大陸の通貨は各国共通で、大中小のそれぞれ銅貨、銀貨、金貨がある。それぞれ10枚でひとつ上の硬貨に変換される。金属の含有率が決められており、各国で鋳造しており、片面は各国共通だが片面は国によって柄が違い、ユーロみたいな感じだなと思っている。物価としては、10個くらいのリンゴが1籠大銅貨5枚前後である。

とりあえずアルトディシアのオーソドックスな食材を買い込み、配達の手配をした後は、地図を片手に少し足を延ばして、水の神を祀るフォイスティカイト国の居住区の市場に向かう。


「ねえ、オスカー、まるで見たことのない野菜や果物がたくさんあるのだけれど」


「安心してください、お嬢様。俺もです」


私が幼い頃から厨房で料理長と一緒に私の相手をしてくれていたオスカーは、赤い髪にアイスブルーの瞳の背の高いがっしりしたイケメンだ。ずっと料理長と共に私の食べたい料理やお菓子を作ってきてくれた。気心の知れた料理人が一緒に来てくれてとても嬉しい。

フォイスティカイトの食材の並ぶ市場は、アルトディシアではあまり見たことのない南国系の果物や香辛料がたくさんあった。香辛料はともかく、野菜や果物は日持ちを考えると他国へ輸出できるものに限りがあるのだろう。


「香辛料もいろいろあるし、お料理の幅が広がるわね、楽しみねえ」


アルトディシアを始めとする大神の名を冠する大国は、どこもしっかり自給自足できるだけの収穫があるので、あまり他国からの輸入に頼らない。それは良いことなのだろうけど、食料自給率の高くないこのセレスティスの周辺諸国からの輸入品で溢れた市場を見ると、これはこれでとても羨ましい。基本的に前世で見たことのある食材がほとんどなのだけど、時々全くわからないものもある。いや、前世でもどこかにはあったけど私が見たことがなかっただけなのかもしれないけれど。


とりあえずいくつかの食材を買って家に届けてもらうよう依頼する。この世界、冷蔵庫のような魔術具はちょっと裕福な平民なら買える程度の金額で売っているので安心だ。時々、過去に私みたいに他の世界の記憶を思い出した人がいたんだろうなあ、というような物や魔術具がある。


市場を見た後は近辺の散策をして、公爵家の管理人にいくつか教えてもらっていた美味しい食事処のひとつで皆で食事をしてから家に帰った。公爵家では、侍女や騎士、ましてや料理人と一緒の食卓でご飯を食べるなんてことはありえなかったから、皆がしきりに遠慮したけれど、この街ではただの留学生のセイラン・リゼルとして生活していくのだから、という建前で一緒に食べた、1人での食事はどんなに豪華でも寂しいから嫌いだけれど、皆と一緒の外食はとても楽しかった。

そのうち前世の和食の調味料もみつかるかもしれないし、これから毎日楽しみだ。



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