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「ええー?!セイランさん、ルナールと結婚するの?!なんで?!」


「なんで、と言われましても・・・正式に求婚されましたので、真剣に考えた結果それもいいかと思いましたので」


エリシエルが緑の目を零れ落ちそうなくらいに見開いている。

お互いに共通の友人なので一緒に報告するか、とルナールも一緒にいるのだが。


「なんで、てお前、失礼だな」


ルナールは苦虫を噛み潰したような顔だ。


「いやいやいや、セイランさん、他にいくらでも相手いるでしょ?それこそアルトディシアに帰ったら独身の貴族の男が全員跪いて求婚してきてもおかしくないでしょ?」


エリシエルには私が一体どういう風に見えているのだろうか。


「いえ、以前も言いましたが、私は婚約者に婚約解消を願われるような女でして、実際婚約解消後もこれまで求愛なり求婚なりしてくださったのはルナールだけなのですが」


あ、なんか自分で言ってて凹んだ、せっかく絶世の美女なのに、まるでもててないんだ、私。

いや、今はルナールがいるからいいんだけども。


「それは遠巻きに見ているだけであって、セイランさんの顔だけでも求婚者なんて列を成してそうなのに・・・」


「ふん、ぼやぼやしている奴らが悪い。欲しいものにはちゃんと手を伸ばさないと手に入らないんだ」


ルナールが鼻で笑ってお茶を飲む。

欲しいものにはちゃんと手を伸ばさないと手に入らない、というのには私も同感だ。なんであれ、ただ待っているだけでは手に入らない、自分から動かないとね。


「えー、じゃあ、セイランさんヴァッハフォイアに行くの?」


「そうですね。アルトディシアの私の実家に1度一緒に行って、父と今後のことを話してからでしょうか」


「俺は白金になったらとっとと帰ってこい、と国を出る際に言われているからな、なるべく早く連れて帰りたい」


ルナールが色気のある流し目をくれる。

それなりに遊び慣れてそうだしなあ、経験値の低い私ではすぐに飽きられてしまわないか、今から心配だ。


「んー、なら私も一緒にヴァッハフォイアに行く!セレスティスにはもう5年くらいいるしね、冒険者ギルドの本部があるのもヴァッハフォイアだし!アルトディシアに行くのと、ヴァッハフォイアに行くのに護衛に雇ってよ!」


「私は別に構いませんが・・・そんな簡単に移動を決めて良いのですか?」


「冒険者が国を移る理由なんて割と適当なもんさ。ある程度実力が上がれば、違う魔獣や素材を見たくなって移動したりする。6大国の首都とセレスティスとシェンヴィッフィのギルドにはそれなりの数の依頼と冒険者が集まるしな。こいつの目的はお前の飯だろうが」


呆れたように返すルナールに、エリシエルはお茶菓子のフロランタンをポリポリ食べながらジト目だ。


「セイランさんのご飯に胃袋掴まれたのはルナールも一緒でしょ!男だからって求婚までしちゃって!ずるいよ!」


「おい、人聞きの悪いこと言うなよ。俺はこいつが将来俺の隣で物怖じせずに立てそうな女だから気に入ったんだよ!俺の家はヴァッハフォイアで色々面倒なんだからな」


そりゃあ、脳筋共を押さえつけて手綱を取らなければならない家柄だしね、大変でしょうとも。ルナールは半眼でエリシエルを睨んでいる。


「セイランさんはそんな面倒な家と男に嫁入りして本当にいいわけ?苦労するよ?」


「アルトディシアの王妃になるのも、ヴァッハフォイアの宰相夫人になるのも、苦労するのはあまり変わらない気がしますので、それなら私自身を望んでくださる方がいいかと思ったのですが」


「あー・・・セイランさんて、アルトディシアの王妃になるはずの人だったんだ・・・いや、高位貴族なのはわかってたんだけどね、気さくだから時々忘れてたけど!王妃か宰相夫人・・・そうだね、あんまり変わらないかもね、てか、ルナールてヴァッハフォイアではそんなに偉かったんだ?!」


エリシエルががっくりと項垂れる。


「ヴァッハフォイアでは大概の男は若いうちは冒険者になるからな。うちは元々政治や外交を司る一族の本家なんだよ」


私にとってヴァッハフォイアは、脳筋ともふもふの国である。

ルナールには、広大な草原の国で、ヴィンターヴェルトとの国境には峻厳な山脈があると聞いているので、モンゴル平原みたいなのかな、と勝手に思っている。

国土面積では6大国一、つまり大陸最大の国である。

地図上では、大陸の東端がアルトディシアで、西端がヴァッハフォイアだ。


「ギルド長が心配していたことが当たっちゃったねえ、怒られるんでない?ルナール」


「ギルド長が心配してたのは、俺がこいつを攫ったり駆け落ちしたりすることだろ。ちゃんと合意でアルトディシアまで挨拶に行くんだから何の問題ないだろう」


「ギルド長はそのようなことを心配していたのですか?私は黙って攫われるほど非力ではありませんし、護衛騎士もついていますし、体力や腕力では敵わないでしょうがそれなりに自衛用の自作の魔術具もいくつか常に身につけているのですが。駆け落ちなんてお互いの実家や国に迷惑がかかるような行動は論外ですわね」


剣も弓も使えるし、それなりに体術も使えるし、スタンガンもどきとか、催涙スプレーもどきとか、色々隠し持ってるよ?

誘拐や駆け落ちなんて、それこそアルトディシアもシルヴァーク公爵家も黙っていないだろう、国際問題に発展するではないか。


「うん、セイランさんはそういう人だよね。でも時々あるんだよ、冒険者が護衛対象の令嬢と恋仲になっちゃって攫ったり駆け落ちしちゃったりすること。相手の身分が高いと大問題になっちゃって、ギルドに抗議がきたりするんだよね、ギルドに言われても知らん!て感じなんだけど。吟遊詩人の歌や巷の恋物語に憧れるような深窓の令嬢?みたいな子が強くて顔の良い冒険者にころっと引っかかっちゃうんだよねえ」


「ヴァッハフォイアにはそういう力任せの衝動的な行動を起こす馬鹿が一定数いて、その馬鹿共を上手に動かして国を運営するのがうちの一族の仕事だ。獣人族の男は庇護欲をそそられるようなか弱い女に惹かれるのが多いんだが、そんな衝動に流されて攫われてくるような心身共に脆弱な女にうちの一族の当主の妻は務まらん。うちの一族が馬鹿をやったら冗談抜きでヴァッハフォイアが沈む」


脳筋共を統治するのはなかなか大変なようだ。淡々と、だが切実に語るルナールにエリシエルが引き攣る。


「ちょっとセイランさん、本当にルナールと結婚していいの?なんかものすごく大変そうだよ?」


「幼い頃から次期王妃として、王を立て自分は決して出しゃばらず、政治、外交、社交を完璧に熟し、第1妃として常に凛として美しく賢く慈愛に溢れた存在であらねばならない、と教育されてまいりましたから。王が愛妾の1人や2人持ったところで目くじら立てるのも美しくないと言われておりましたし。まあ、それに従って婚約者が侍女に現を抜かしているのも見て見ぬふりをしていましたら、真実の愛に目覚めたらしい婚約者が身分の低い侍女と正式に結婚するために王位継承権を放棄して、次期王妃と定められていた私との婚約も解消してしまいましたけど。男女の心の機微というのは難しいものですわね、私は常に完璧な王妃を目指して努力していたのですが」


やれやれ、と頬に手を当ててため息を吐くと、2人がげっそりした顔をしていた。


「前に聞いた時にも思ったが、その男、馬鹿だろう。早々に王位継承から外れて正解なんじゃないか・・・?」


「王位とか政治とかわからない一般庶民出の私でもそう思うよ・・・」


「前も言いましたが、おかげでセレスティスに留学できましたので、結果的には良かったと思っておりますよ?受けてきた王妃教育も無駄にならずにこの先役に立ちそうですし」


「別に俺のことを無理に立てなくてもいいからな。わざわざ立ててもらわんでも俺は俺の仕事をするし。政治や外交は一緒にやってもらうことも多いだろうが、お前が必要だと判断したらどんどん動いてくれて構わない。それに俺はお前以外の妻を娶るつもりはないし、当然愛人も持つ気はないから、そっちの気遣いも不要だ」


うーん、なんだか申し訳なくなるくらいルナールがいい男だ。

あくまで夫を立てて、第3妃までいて愛妾も公然、という時点で、アルトディシアでの女性の地位が低いのがよくわかる。

ルナールは私が6つ名であることも実家の名も知らなかったんだから、純粋に私の能力を買って求婚してくれたんだよね、これまでの努力を認めてくれたということだ、承認欲求が満たされたということだろうか、すごく嬉しい。


「前から時々思ってたけど、セイランさんて自己評価低いよね・・・」


「完璧に見える男に女は群がるが、完璧に見える女は逆に男から敬遠されるものさ」


ルナールが小さく笑って私の頭を撫でてきて、ちょっと顔が赤くなるのがわかる。

いつもながら余裕のある大人の男だわ。


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