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「姉上から私に相談とは珍しいですね、何事ですか?」


翌日の朝早くから呼びつけたにも関わらずジュリアスはご機嫌だ、滅多に頼み事をしない姉が頼ってきたのが嬉しいらしい。


「単刀直入に訊きますけれど、私がアルトディシアから出て他国に嫁ぐことは可能だと思いますか?」


ピシリ、と音を立てたかのようにジュリアスが笑顔で固まる。


「・・・姉上?姉上の見た目に惑わされるような男は片っ端から排除していたつもりでしたが、またぞろおかしな虫が湧きましたか?」


ジュリアスがセレスティスに来てから、私に秋波を送ってくる視線が減ったなあ、とは思っていたが、どうやらジュリアスが動いていたらしい。


「私の外見についてはさほど気にしていないようでしたけれど。私が訊いているのはシルヴァーク公爵家としてどうだろうか、という話です」


ジュリアスが給仕をしているクラリスにちろり、と目をやると、クラリスが頷いて話し始める。


「少なくともディオルト殿下よりも遥かにお嬢様のことをよく理解されており、またしっかりとした好意をお持ちの上で求婚されたと感じましたが」


昨夜の食事の場には当然給仕のために侍女としてクラリスもイリスも、そして護衛騎士の2人も同室にいた。ただルナールは既に友人としての立場を確立していたし、私に何か危害が加えられるという状況ではなかったので動かなかっただけだ。身分にかかわらず未婚の男女が2人きりの個室で食事なんてありえないのがこの世界の常識だ。


「私にわざわざ相談してくるということは、姉上はその場で断らなかったということですよね?何が姉上の心を動かしたのですか?」


ジュリアスが半眼になる。


「6つ名持ちは幼少時より自国のために存在するよう教育されている、と言われて、そういえば私は絶対にアルトディシアにいなければならない、と思い込んでいたことに気付いたのです。王子との婚約が解消された今、私がアルトディシアに紐付けされる理由はないということに今更気付いたのですよ、セレスティスに留学したのも一時的に許されたからだと思い込んでいましたが、でも私がその気になれば、どこにでも行けるのではないかと」


今にして思えば、婚約解消を了承したことよりも、セレスティスへ留学したいと言ったことの方が王に驚かれた気がする。国に留まらなければならないと刷り込んでいたはずなのに、一時的な留学とはいえ何故他国へ出るなどと言い出したのかと驚いたのだろう。


ジュリアスが深々とため息を吐く。

男のジュリアスと、幼少時から王家に嫁ぐために教育されていた私とでは教育内容が違う。シルヴァーク公爵家としての立場からの考えができるはずだ。


「アルトディシアとしては、6つ名持ちを他国へ嫁に出すなど愚の骨頂でしょう。しかし、外交上や家の視点から考えれば相手の国と家格にもよりますが、王子との婚約を解消した姉上が他国へ嫁ぐのは悪くはありません。そもそも6つ名持ちの姉上が本気で望むのなら、それを妨げることは不可能なのですから。そうならないようにアルトディシアに紐付けるために幼少時から次期王妃と定められていたはずなのですがね」


あの馬鹿王子が、とジュリアスが小声で吐き捨てる。


「6つ名であることが国中に知れ渡っている私が王族以外と結婚することはアルトディシアでは難しいですよね?このままいくとアルスター殿下かレスターク殿下のどちらかに結局は無理やり嫁がされるか、いっそ神殿に巫女として入るか、公爵家の領地のひとつでも治めながらひっそりと生きていくのかと思っておりましたが、私がその気になれば他国へ嫁ぐことも可能ということですよね?」


結婚はしなくて良いなら無理にしたくはないと思っていたが、一生国に縛り付けられるのから解放される手段として、しかも私自身を望んでくれる相手がいるのならありだろう。

ここで国から解放される手段として、とか考えるあたりで、私の恋愛力の低さがうかがえるというものだが、ルナールは本当にこんな私でいいのだろうか。


「誰ですか?恋愛や結婚にまるで興味のなかった姉上をその気にさせたのは」


この弟は下手すると排除に動きそうだが、ルナールなら下手な刺客なら余裕で返り討ちにするだろう。


「ルナールさんですよ、冒険者の。会ったことあるでしょう?」


「狐獣人の?てことは、ヴァッハフォイアですか?確かシュトースツァーンと名乗っていたから国を回している一族だろうけど、本気ですか、姉上?」


アルトディシアとヴァッハフォイアは国が離れていることもあり今のところ国交はないが、公爵令嬢の私が次期宰相に嫁げば距離はあっても国交が開かれるだろう。ジュリアスの頭の中では、そのことによる国や家としての損得勘定が働いているに違いない。


「それも良いかと考えています」


私は生まれ故郷であるアルトディシアのことが好きだが、そこに絶対いなければならないという感情を無理やり植え付けられていたとなれば話は別だ。自分の意志で留まるのと、強制されるのとではわけが違う。ルナールの口ぶりからして、どこの国でも6つ名持ちには似たような洗脳めいたことをしているということだろうから、今更それを恨むつもりはないが、その洗脳が解けたからには私の人生だ、選ぶのは私だ。


私の人生の主役はあくまで私であって、傀儡になるつもりはない。


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