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とある冒険者パーティ

俺の名前はクランツ、フォイスティカイト出身の人間族の冒険者さ。

仲間はドワーフ族のダンバスと犬獣人のイルロンで最近銅カードに昇格したところだ。

セレスティスは周囲に良い狩場がたくさんあるし、学術都市だから素材の依頼は腐るほどあるから、冒険者が集まりやすい。

俺たちは皆自国で冒険者登録して、鉄カードになったところでセレスティスに流れてきたタイミングが一緒で、なんとなく気が合ったからパーティを組んだんだ。

俺が冒険者登録したのはフォイスティカイトでも田舎の町だったから、セレスティスの依頼の多さと狩場の多さ、それに売ってるものの多さに驚いたね。

それはダンバスとイルロンも同じで、目新しいものが出ると次々試してみるのが俺たちの楽しみのひとつだ。

学者や研究者が新しいものを発明するとその辺の店に並ぶし、性能や評判が良ければ冒険者ギルドが製法を買い上げて大陸中の冒険者ギルドで売りに出される仕組みらしいが、ギルドが買い上げるほどのものをひとつでも作成できれば、その研究者は一生食うに困らないだけの収入を得られるらしい、羨ましい話だ。


冒険者は銅カードまでは普通に依頼をこなしていれば上がれるが、そこからが難しい。銀以上の依頼は危険度が段違いだ。

だが最近出回り始めた色々な効果のある魔術具の玉を上手に使えば、いくつかの狩りが楽になるらしい、という情報をイルロンが仕入れてきた。


「金カードのルナールさんが教えてくれたんだよ、光玉で飛竜の目を眩ませたら簡単に落とせるし、音玉を投げつけたらジャイアントバットはぼとぼと落ちてくるってさ。他にも面白い玉がたくさんあるから色々試してみろって言ってたよ」


金カードといえば俺たちには雲の上の存在だ。このセレスティスの冒険者にも5人しかいないらしいし。

ルナールさんは狐獣人だから、同じ獣人族のイルロンは話しかけやすいし憧れてもいるらしい。


「飛竜は俺たちにはちと厳しいが、ジャイアントバットなら試してみてもいいんじゃないか?」


洞窟みたいな暗いところが得意なダンバスが賛同する。ドワーフ族はヴィンターヴェルトではいくつも坑道を掘ってそこに住んでいるのが大半らしい。


「まあ、ジャイアントバットなら最悪逃げればいいし、ちょうどジャイアントバットの翼の依頼も出てるからやってみるか?」


本来銀カード以上推奨の依頼を銅カードの俺たちが受けるのはあまり良い顔をされなかったが、音玉を買ったのを見せると、ちゃんと下調べしているなら、と受理してくれた。

冒険者ギルドは下調べをするのも実力のうち、という考えだから、どんな魔術具やポーションを持って行けばいいかとかも自分で調べておかないとならないんだ。上級と呼ばれるような冒険者になるためには、情報収集もしっかりしておかないとならないらしい。


「金カードの冒険者なら、魔術具なんて使わなくてもジャイアントバットくらいいくらでも討伐できそうなのに、ルナールさんはこの音玉っての使うんだな」


「ルナールさんは頭脳派なんだよ!ヴァッハフォイアでは政治や外交をする家の出身だし!強くて頭も良くないとならないから大変なんだよ!」


イルロンが尻尾をぶんぶん振る。獣人てのは、こういうところわかりやすいよな、ルナールさんはいつも飄々としててカッコいいけど。


「おぬしら、そろそろジャイアントバットがいる大空洞が近いから静かにせいよ」


ダンバスに注意されて俺たちは口を噤む。


「さて、音玉てのを投げつければいいんだよな?俺がやってみてもいいか?」


上を見上げるとジャイアントバットの赤い眼がいっぱい光っててぞっとする。あれに集団で襲われたら、逃げ出すだけで精一杯だろう。

小声で確認する俺に2人が頷いたので、俺は音玉を大きく振り被った。


「うわっ!ものすごい音だな!」


イルロンが尻尾の毛を逆立てるが、俺とダンバスには何の音も聞こえない。

首を傾げていると、上からジャイアントバットがぼとぼと降ってきた。


「「「うわっ?!」」」


慌てて飛びのいた俺たちの足元いっぱいにジャイアントバットがピクピク痙攣している。


「「「すげぇな、音玉・・・」」」


俺たちはそれしか言うことができなかった。




「なあなあ、新しい携帯食料が出たから買ってみないか?お湯を入れるだけでギルドの食事処の味が再現されるらしい!」


イルロンがまたルナールさんから情報を仕入れてきた。

ちょっと前に教えてもらったビーフジャーキーて干し肉も、今まで食べてきた干し肉はなんだったんだ!てくらいに美味かったもんな、干し肉よりずっと高いけど。

普通の干し肉じゃなく、ビーフジャーキーを持って冒険に行けるようになるぞ!てのが、最近の新米冒険者の合言葉らしい。


「ふりーずどらい?とかいう携帯食料らしい。干し肉や乾パンより高いけど、試してみようぜ!」


新しいもの好きな俺たちがそれを断る理由はない。

ギルドの売店で売ってたのは、ギルド併設の食事処の看板メニューである、ビーフシチューと鶏とチーズのリゾットともつ煮込みとポトフと書かれた4種類のなんか小さくて四角い物体だった。


「・・・なあ、これにお湯をかけたら本当に食えるのか?」


しかもギルドの食事処で食べるよりも高いし。


「まあ、とりあえず試してみるか・・・」


サラマンダーの魔石の依頼が最近多いから、火山で持てるだけ狩るには泊りがけで行かないとならないんだよな。

それぞれ1個ずつ買って、いつもの乾パンとビーフジャーキーも買って俺たちは火山に向かった。


「ふう、今日はこの辺にしておくか。野営の準備をしようぜ」


火山の麓の涼しいところまで降りて俺たちは野営の準備をする。強い冒険者なら火山の途中で野営もするんだろうけど、出てくる魔獣の強さも違うし俺たちは麓で安全に野営だ。


「さて、お湯を入れてみるか」


「おう」


俺たちはふりーずどらいという携帯食料を皿に入れ、恐る恐る沸かしたお湯を注ぎ入れた。


「「「うおおおおお!」」」


そこにはギルドの食事処のメニューと寸分たがわぬ匂いを漂わせた料理があった。


「なんで?!どうなってるんだ?!」


「あんなに小さくて軽かったよな?!」


「おい、お前達、野営しながらあまり騒ぐもんじゃない」


低い声が後ろからして俺たちが振り向くと、そこには渋い顔をしたルナールさんがいた。


「えっ?!ルナールさんも火山に来てたんですか?」


「すいません、つい興奮しちまって。このふりーずどらいって携帯食料を初めて試してたんです」


ルナールさんは俺たちの持ってる皿を見て苦笑した。


「ああ、それか。俺も最初に見た時は驚いた」


ルナールさんが背中に背負っていた大きな袋を地面に置く。見た目の割には軽そうだ。


「俺もそろそろ食事にしようと思ってたんだ、お湯をもらってもいいか?」


「どうぞどうぞ、お湯くらい!」


「何を狩ってきたんですか?」


ルナールさんが無言で開けた袋には極彩色の羽根が詰まっていた。


「不死鳥の羽根だよ、セレスティスの冬は寒いから、羽根布団を作りたいんだとさ」


「無茶苦茶贅沢な羽根布団ですね・・・」


どんな金持ちの道楽だよ。

俺たちの心の声が聞こえたらしいルナールさんが苦笑する。


「大金持ちなのは否定しないが、気さくで面白い人だぞ、絶世の美女だし。そのビーフジャーキーやフリーズドライを作ってくれたのもその人だ」


「「「えっ?!」」」


どうやらルナールさんは最近ギルドで売り出されている携帯食料を開発した研究者と知り合いらしい。しかも絶世の美女?!


「そもそも俺とエリシエルとでもっと美味い携帯食料を開発してくれないか、とその人に頼んだんだ。すごいだろう?そのフリーズドライ。各種玉の魔術具やポーション類の味を改良してくれたのもその人なんだぞ」


「えっ?!獣人族の恩人じゃないですか!」


人間族の俺はこんなもんだろうと思って飲めるポーションも、獣人族にとっては決死の覚悟で飲んでいたらしく、味が改良された時全ての獣人族が開発者に感謝の祈りを捧げたらしい、冗談ではなくガチで。


「ほれ、お湯を分けてもらう礼にスープを分けてやろう。カップを出しな」


ルナールさんに言われるままにカップを出すと、そこにふりーずどらいの四角い塊が落とされる。


「これギルドでは売ってませんよね?」


「俺は開発者から直接もらったんだよ、それぞれコンソメスープ、コーンスープ、ミネストローネだ、どれに当たったかはお湯を入れてのお楽しみだな」


そう言ってルナールさんは自分の皿にふりーずどらいを入れてお湯を注いだが、出来上がった代物は俺たちがギルドで買ってきたのとはまるで違う匂いがした。


「ルナールさん、それ何ですか・・・?」


「これか?開発者の家の料理人が作ったビーフシチューだ。ギルドの食事処のとは悪いが別物だぞ」


ごくり。


俺たちが自分のふりーずどらいを食べるのも忘れて見入るのを、気にもせずにルナールさんは食べ始める。

俺たちももらったスープにお湯を注いでみると、今まで嗅いだことのないくらいいい匂いがした。


「あ、言っておくが、先にギルドで買ったのを食べろよ。そのスープを先に飲んだら味気なくなるからな」


早速飲んでみようとしたのをルナールさんに止められ、俺たちはちょっと冷めてきたギルドのふりーずどらいを食べ始める。

うん、ギルドの食事処の味だ、高いけど、今までの干し肉と乾パンを食べるのに比べたら、これを持って出かけるために稼がなきゃ!て気になるぜ。

でも、それよりももらったスープが気になる。

急いで自分のビーフシチューを食べ終え、もらったスープを啜る。


なんだ、これ。


なんだ、これ!


「なんですか、これ!」


「うん?お前のはコンソメスープだな。美味いだろう?俺も最初に飲んだ時はあまりの美味さに衝撃を受けた。開発者のお嬢さん曰く、美味しいは正義だそうだ、至言だろう?」


横で鼻をすする音が聞こえて目をやると、イルロンが泣きながらスープを飲んでいる。


「イルロンのはミネストローネだな」


「ルナールさん、俺こんなに美味いスープ初めて飲みました・・・」


泣くほどか?!

いや、獣人族は味覚や嗅覚が鋭いからな、泣くほどなのかもな。


「世の中には美味い食事がたくさんあるものですなあ・・・」


ダンバスがなんだか悟りを開いたような顔をしている。


「残念ながら、開発者のお嬢さんは俺とエリシエルが専属契約しているからな、他の冒険者が取り入る隙はないぞ?」


エリシエルさんといえば、採集メインの金カードのエルフ族じゃないか。金カード2人と専属契約できるなんて、どれだけ金持ちなんだ、そのお嬢様?!いや、ギルドが買い取るようなものを次々開発してるなら金があるのも当然か?!


「そのうち食事処も開く予定だと言っていたから、通えるようになるように頑張れよ、安くはないはずだからな。完全予約制になると言っていたから、銀カードになったら1度俺が連れて行ってやろう」


ルナールさんは何気なく言ったんだろうけど、俺たち3人が銀カードへ昇格するためにこれから死に物狂いで努力する目標には十分だった。


美味しいは正義、まさに至言だ。


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