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量産体制はまだ整っていないが、とりあえず冬になる前にヒートテックとカイロが完成した。下位の冒険者でも採集や討伐できる素材で作れるよう改良中だ。上位の素材で何かを作るのは割と簡単なのだけれども、下位の素材で代用品を作るのは結構難しい。
「ここの魔法陣を組み替えれば、火竜岩を使わずとも紅蓮石で代用できるだろう。持続時間は短くなるが」
ジークヴァルト先生がさらさらと私の書いたカイロの設計図の魔法陣を書き換える。使い捨てではない、火の魔石に何度でも魔力を補充して使えるカイロだ。
「なるほど、紅蓮石なら簡単に手に入るだろうと冒険者が言っていました。ありがとう存じます」
採掘できる紅蓮石以外に火の魔石が必要なので、サラマンダーが乱獲されることが決定したが、火山に行けばわさわさいるらしいから大丈夫だろう。
「君は見たいからという理由でリシェルラルドの衣を出現させたりするくせに、このように生活に密接した魔術具も作成する。君の行動原理は私にはよくわからない」
「私は即物的な人間ですので、自分が欲しいものを作成しているだけですよ。人間の一生なんて一瞬ですから、死ぬ時に後悔したくないだけです」
明日死ぬのだとしても、いい人生だった、楽しかったわ、と笑って死にたいではないか。あれもやってない、これもやり残した、なんで自分ばっかり、とか負の感情を抱いて死にたくない。前世でもそう思って生きていたから、特に自分の人生に後悔はなかったのだが。
「・・・君はまるで死んだことがあるかのように話すな」
おや流石はご神木様、鋭い洞察力だ。
「そうかもしれませんね」
私はにっこり微笑んでおく。種族を問わず女はミステリアスな方が良いだろう。
ジークヴァルト先生にはため息を吐かれてしまったが。
そこにシェンティスがお茶を持ってきてくれる、今日はジャスミンティーのような香りのお茶にしてもらった。
「寒くなってきたので、あんまんと胡麻まんを持ってきました」
私が持ち運び用に作成したのは冷蔵箱だけではない、保温箱もあるのだ。この世界、電子レンジなんてないしね、そのうち似たようなものを作成しても良いかもしれないが。
「・・・本当に君の作成するものは生活に密着したものばかりだ」
超美形のハイエルフがため息を吐きながらあんまんを食べている姿というのも、生活に密着していると思うのだが。
頭を使うにはブドウ糖が必要だから、研究室でいつも私達が甘いものばかり食べているのは間違ってはいない。
「次は胡麻団子にしましょうかね・・・」
「・・・どういう脈絡でその言葉が出たのだ?」
私は胡麻団子の中身は小豆の餡子ではなく胡麻餡が入っていてほしい派なのだ。胡麻餡の美味しい胡麻まんを食べながらなんとなく思っただけだ、今夜はオスカーに言って中華にしよう、小籠包と春巻きが食べたい。前世で台湾の小籠包の有名店で食べた胡麻まんが最高に美味しかったのだ。
「今夜の夕食を何にするか考えていただけですわ・・・あ、よろしければ食べに来られます?」
「・・・伺おう」
ジークヴァルト先生は最近よく我が家にご飯を食べに来ている、誘うと意外とフットワークも軽くやってくるのだ。今日のように私の新商品開発によく付き合ってくれているので、そのお礼も兼ねている。1度鉢合わせたエリシエルは涙目になっていたが。
ふむふむ、ジークヴァルト先生が来るなら、中華粥と中華ちまきを主食に、小籠包と春巻きと八宝菜と大根餅辺りにしようかな、ジークヴァルト先生は肉魚を絶対に食べられないわけではないので、出汁に使うのは問題ないと言っていたし。スープはコーンと卵のとろみ付きで、デザートは胡麻団子と杏仁豆腐だ。
私はうっとりと今夜のメニューへと思いを馳せた。