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抹茶そばが食べたくなった私は、もらった抹茶の風味が消える前に急いでそば打ちの練習を始めた。素人なのでとりあえず二八だろう。
これを機に麺類のメニューを充実させようではないか、私はもともと麺類が好きなのだ。
ジークヴァルト先生にはクッキー、マドレーヌ、シフォンケーキ、パウンドケーキ、ババロア、チーズケーキと一通り差し入れし、エアハルト先生にもクッキーとチーズケーキを届けておいた。
ジークヴァルト先生はとても喜んでいたが、エアハルト先生はエリシエルと同じような反応をしていた、やはり普通のエルフにとってはお菓子にどかどか使うようなお茶ではないらしい。
「本国の兄と姉にも食べさせたいのだが、日持ちはどれくらいするものだろうか?いくつか都合をつけてもらいたいのだが、頼めないだろうか?」
よほど気に入ったのか、ジークヴァルト先生が抹茶を送ってくれた兄姉にお菓子を送りたいと言い出した、遠く離れた身内には生存確認がてら何か送ったりするよね、わかります。
「日持ちがするものでしたら、クッキーとマドレーヌ辺りですね。やはり生菓子はすぐに食べなければなりませんし・・・」
「ならばこれで準備を頼めるだろうか」
ジークヴァルト先生がシェンティスに目配せして、抹茶の1kgくらいの袋と小金貨を3枚テーブルに置く。
「原材料は必要ですので頂きますが、お金は結構ですわ。もしお兄様とお姉様がお菓子を気に入られたら、次回から私にも少し融通していただけると嬉しいです」
他国に輸出していない貴重品だ、個人的に手に入るルートがあるのなら是非欲しい。
他にも抹茶羊羹とか、わらび餅とか、生チョコとか作りたいし。
「なるほど、伝えておこう。おそらくお菓子と引き換えになら、いくらでも送ってくれると思うがな」
ジークヴァルト先生がくすりと笑って小金貨を引っ込める。
「ではクッキーとマドレーヌの準備をさせていただきますが、それぞれいくつくらいにいたしましょう?」
個人の家庭で食べるならそんなに数は必要ないが、ジークヴァルト先生の兄と姉ということはリシェルラルドの王族だろうから、お茶会とかで出す可能性もあるよね。
「可能ならば100個ずつくらいか・・・?」
「クッキーはいくつか形を変えて作りましょうか?それとも同じ形が良いでしょうか?」
ジークヴァルト先生にあげたのは葉っぱの形の型抜きだが、型抜きや絞り出しで色々な形が作れるしね。
「味が同じならば形は任せる。どのくらいで準備できる?それに合わせて本国からの使いを待たせておく」
何かお使いが来ていたのをお菓子を持ち帰らせるために待たせるのか、それは急いであげないと。
「3日後でいかがでしょう?もしよろしければ3日後の昼食に我が家にいらっしゃいませんか?簡単なものですが、このお茶のお菓子だけではなく、料理も披露いたしますよ」
やっとそば打ちが形になったのだ、ここはやはり原材料提供者に食べてもらわなければならないだろう。
「ほう、それは楽しみだ。喜んで伺わせてもらう。いつも思うが、君は本当に食べることへの意欲が強いな、人間族は皆そうなのか?」
「いえ、人間族が皆私のように食い意地が張っているわけではないでしょう、価値観と優先順位の違いではないでしょうか。生きていく上で何に重きを置くかというのは、種族を問わず個人差でしょう?」
私は前世から恋愛に重きをおかない人間だったが、俗にいう魔性の女の友人もいたのでわかる、恋愛のときめきがないと生きていけない類の人間も存在するのだ、それも結構な数。それは種の保存という観点からすると、生物としてとても正しいことだと思う。
そういう意味では、私はどこか欠陥品なのだ。