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「お嬢様、私もセレスティスにご一緒させていただきますね」


お風呂上りにドライヤーのような魔術具で髪を乾かしてくれながら、侍女のイリスがにこやかに同行を希望してきた。

私を飾り立てるのが趣味だと公言しているこの侍女は、私が慣れない生活で外見磨きが疎かになったりしたら困るらしい。

鏡を覗き込むと、お風呂上りで薄っすらと上気した白い肌に少し釣り目がちな青紫の瞳、緩やかなウェーブを描く豪奢な銀髪の美少女が映っている。

7歳に記憶が戻った時から美少女だなあ、と感動していたが、15歳の現在、黙ってさえいれば本当に絶世の美少女だと思う。

私としても、せっかく美人に生まれたのだから、自分磨きを怠るつもりはない。なんせ記憶を取り戻して最初に作ったのはシャンプーとリンスだし。石鹸は香りの良い植物性の品が最初からあったので問題なかったのだが、髪も同じ石鹸で洗っていたのでパサついていたのだ。前世からモテという意味での女子力は底辺だったが、自分磨きという意味での女子力はかなり高かったと思う。


「それは構わないけれど、いつまでセレスティスに滞在するかわからないから、貴女も婚期を逃すかもしれないわよ?」


この世界での女性の婚期は16歳から22歳くらいだ。イリスは今20歳だから、結婚しようと思うのなら学術都市に侍女として付いてくるよりも、この屋敷にいた方が良いと思うけどね。


「私は結婚よりも、お嬢様の考える化粧品や衣裳の方が大事でございます」


真顔で言っちゃったよ、この人。

まあ、恋愛やら結婚やらはどうでも良くても、おしゃれするのは大好き!という女性は前世でも今世でもたくさんいるだろうけどね。


「セレスティスならば様々な国の文化が入っているでしょうし、お嬢様が作られる品もより一層充実するのではありませんか?あ、副料理長のオスカーも同行を希望しております。料理長が流石に自分が一緒に行くわけにはいかないから、と血の涙を流しそうな勢いでオスカーに新たなレシピができたらその都度報告するようにと言っておりました」


・・・うん、そうね。

なんせ甘すぎるお菓子を食べて前世の記憶を思い出してしまった私だ、前世ではかなり多趣味な人間だったが、その中でもお菓子作りはかなり古くからの趣味だったので、色々なレシピも頭に入っていたから、これ幸いと子供の頃から屋敷の厨房に赴いて色々作ってもらってきたせいで、シルヴァーク公爵家の料理は門外不出のレシピで、社交界では有名なのだ。

これまでは王妃教育が忙しすぎて料理開発も最低限だったが、これからは全力でいくつもりだし。そろそろお酒も飲めるだろうし、美味しいご飯と美味しいお酒は人生の楽しみだ。


「アストリット商会に連絡を取って頂戴。誰か一緒にセレスティスに行って支店を出さないか確認したいから」


アストリット商会は、私の長ったらしい名前のひとつを与えて私の欲しいものを作らせるために立ち上げた商会である。

もともと公爵家の御用商会だったローゼル商会にシャンプーとリンスを作ってもらった際に、新しいことをやる気のある若手を分家させないか、と話を持ち掛けて、商会長の3男のディアスが立候補してくれたので、そのまま私の専属商会となって今に至っている。

お母様の希望でこれまで化粧水やハンドクリームを作ってきたが、私ももう15歳、何も塗らずにツヤツヤすべすべでいられる期間は終わりに近づいているのだ、支店があればいつでもこれまで作ってきた品を買えるし、新しい品を開発してもすぐに対応してもらえる。




「私がセレスティスに一緒に行かせていただきます。本店をセレスティスに移します、お嬢様のいらっしゃるところがアストリット商会の本店の場所でございますから」


翌日いそいそとやってきたディアスは、悩むそぶりも見せずに即決してしまった。


「あの、ディアス?何人か開発用の人材と支店立ち上げの人材を寄越してくれればそれで良いのだけれど?」


いきなり本店を移転したら、このアルトディシアの女性が皆恐慌状態に陥るのではなかろうか、美容にかける女性の意気込みというものは世界が変わっても変わらないのだ。


「ローゼル商会に支店を置かせてもらいますので、問題ありません。それよりも新しい商品が開発されるのなら、それを最初に扱うのが本店の役割でございますので」


まあ、セレスティスなら優秀な研究者がごろごろ転がっているだろうから、人材にはそれなりに困らないかもね、化粧品の開発と、あとはいつまでもシルヴァーク公爵家の秘密のレシピではなく、お菓子の販売とかもしていきたいし。


侍女と料理人と御用商会の準備ができたし、向こうでの住居は公爵家の管理している家がいくつかあるから好きに使えとお父様が言ってくれた。

護衛にうちの騎士が2人一緒についてきてくれることになったし、ちょうど年に1度の入学試験があと一月後のはずだから時期的にも丁度良い。

ちなみに入学試験は、成績が良ければ良いほど好きな講義を受けられるらしい。逆に言えば、成績が悪くても留学はできる、基礎学力が足りなくてもその分講義を受けて身につければ毎年の試験でどんどん受けられる講義の幅が広がるからだ。

ただし、学費、生活費がかかるから、ある程度の財力がないと長期間の留学は難しいということだ。あとは、現地で開発した魔術具や品物を売ったり、特許を取ったり、自分で採集した素材を売ったり、と稼ぐ手段はそれなりにあるらしい。貴族は家を継がない子女が文官としての箔をつけるために留学したりするが、割とマッドな研究者も多いようだ。

私は今回慰謝料として留学費用を分捕ったけど、これまでに作ってきた美容品の特許料でそれなりの財産は築いている。私は叡智の都なんて呼ばれている学術都市の図書館で読書三昧して、これまで表面的なことしか習ってこなかった魔術を学んで生活が楽になる魔術具を色々作って、この国では手に入りにくい食材とか吟味して美味しいご飯を作って、悠々自適に自堕落に暮らすのだ。


「お嬢様の言う自堕落とは、他の者からすると随分と勤勉だと思われますが」


イリスに呆れたように言われるが、どこが勤勉だと言うのか。たくさんの特許で不労所得を得て、好きなもの食べてごろごろと読書三昧、最高に素敵な自堕落生活ではないか。


「いえ、まずその不労所得を得るために非常に勤勉に活動されていらっしゃいますよね?魔術の深淵を学び、ひたすら書を読み、商品を開発し、材料を吟味して料理の開発、お嬢様は暇さえあれば屋敷の図書室に籠り貪欲に知識を得ることに非常な喜びを見出すお方ですから、一般的な感性とは少しばかりずれていると申しますか・・・」


私は前世からの筋金入りの活字中毒である。ひたすら本を読み漁ることこそ最高の娯楽!前世ではネット小説を読んで目が疲れたからと目薬をさしてから、次は紙の本を読み、息抜きに本屋へ出かけ、と休日はひたすら読書三昧な生活を送っていたのだ、王妃なんかになっていたら読書時間が大幅に削られていただろうから、ディオルト殿下にはとっても感謝している。

それに定年前に病死したので、定年して退職金もらったら長期旅行に行きたいなあ、とか、生涯学習センターとかで色々な勉強してみたいなあ、とか考えていたのができなかったので、前世でできなかった悠々自適な老後生活を今度こそ満喫するのだ!




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