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留学生活も無事3年目に突入だ。

興味のある講義はほとんど受講できたから、あとはのんびりジークヴァルト先生の研究室に通いながら適当に欲しいものを作ろう。

アルトディシアがよっぽど帰ってこいと言ってこない限りは、このままセレスティスに永住しても良いのだが。

人生50年下天は夢か、とは言わないけれど、この世界の人間族の寿命は80年前後で前世と変わらないから、人生なんて一瞬だ。

ジークヴァルト先生のように500年も生きるというのは大変そうだなあ、と他人事だから思うけれど、ハイエルフの寿命というのは他の種族のように定まっていないそうで、長い者では1000年も生きることもあるらしい、やはりご神木様だ。


「リシェルラルドから他国へは輸出していないお茶が届いたから、苦みが強いから好みが分かれると思うが、良ければ飲んでみるといい」


ジークヴァルト先生がそう言ってシェンティスが出してくれたのは、濃い緑色の少し泡立ったようなお茶、おそらく抹茶だった。流石はこの世界におけるお茶の産地リシェルラルドだ。私はもともとコーヒーよりもお茶派だったから、抹茶はとても好きだ。

ジークヴァルト先生の研究室では、リシェルラルド産の美味しいお茶が色々な種類常備されていてとても嬉しい。最近ではその日持参したお菓子に合わせて、私の方から淹れてもらうお茶を指定することもある。

ちなみに、コーヒーやチョコレートはフィンスターニスの名産である。前世の物語では排他的だったり、敵対することの多かったダークエルフの国だが、エルフ族もダークエルフ族も多少排他的ではあるが、ちゃんと他種族の国と国交はあるし鎖国したりしていない、良かった。


「ありがとう存じます」


折よく今日持参したお菓子は新作のきな粉クリームをきな粉クッキーに挟んだものだ、抹茶とも合うだろう。

ヴィンターヴェルトは大豆があるのにきな粉がなかったので、フリージアのドヴェルグ商会と提携して他にも色々と和食素材を開発している。職人の多いドワーフ族に大きな伝手ができたので、調理器具も色々細かく注文して作成してもらって大助かりだ。

香ばしいきな粉の香りを楽しんでサクサクときな粉クッキーサンドを食べてから、出された抹茶もどきをありがたく頂く。


「とても美味しいです。ミルクで割ったり、お菓子に混ぜても美味しそうですわね、他国に輸出されていないのが残念です」


抹茶は高級だし、賞味期限も割と早いから仕方ないね、抹茶はお菓子の幅が広がるのだが。


「ミルクで割るのか・・・?やってみなさい。シェンティス準備を」


「はい。セイラン・リゼル様、こちらへ」


ジークヴァルト先生が金色の目を瞬かせて興味を示す。

もともとはあまり食に興味を示す方ではなかったそうなのだが、私が毎回お菓子を持参するようになってから色々食べるようになったらしい。

シェンティスに案内されて研究室備え付けの小さな厨房へ行く。

シェンティスはいつもここでお茶を淹れたり、お菓子を準備したりしているらしい。


「これが先ほどのお茶です。茶葉ではなく粉末になっておりますが、どうされますか?」


おお、見れば見るほどホンモノの抹茶だ、思わずまじまじと眺めて匂いを嗅いでしまう。


「少し舐めてみても良いでしょうか?」


「どうぞ」


スプーンでほんの少し掬って舐めてみる。

うん、抹茶だ、これ輸出されてないのか、欲しいなあ、私は天ぷらは天つゆよりも抹茶塩で食べたい派なのだが。


「ミルクを温めていただけますか?」


抹茶に砂糖を混ぜて、シェンティスに温めてもらったミルクを注いでよく混ぜると抹茶ミルクの完成だ。

味見にと渡したシェンティスが紫の目を大きく見張っている。


「これは・・・とても美味しいですね。ジークヴァルト様もさぞお喜びでしょう」


私はお茶に限らず飲み物に砂糖は入れない派だが、グリーンティーに限り甘いのは可だと思っている。


「今日持参したお菓子にもよく合うかと存じますわ、どうぞ」


待っていたジークヴァルト先生に抹茶ミルクを出すと、ほんの少し口元を綻ばせて飲んでいる。一見無表情だが、馴れてくるとかなりわかりやすい方だ。


「ああ、美味だな。君はこれをお菓子に混ぜたいのか?」


「そうですね、色々なものが作れると思います。お菓子だけではなくお料理にも応用が利きそうですし・・・」


抹茶そばとか食べたい、そういえばまだそばは作っていない、そば粉自体はあるのだ、そば粉のクレープとかガレットみたいな料理はもとからあるし。

これはそろそろそば打ちにも挑戦してみろという神の思し召しだろうか。


「ふむ。ならば少し持ち帰るといい。シェンティス、帰りに渡すように」


「はい、畏まりました」


あら、あっさりお土産に持たせてくれるらしい、他国には輸出していない貴重品だろうに。完成したら持ってこいということですね、わかります。


「ありがとう存じます、成功しましたらまたお持ちしますわね」


「ああ、楽しみにしている」


金色の目を細めて抹茶ミルクを飲むジークヴァルト先生は今日もとっても美人で眼福だった。

さて、帰って何を作ろうか。

どのくらいお土産に持たせてくれるかな。


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