2
婚約解消を承諾したことで、私にとっては伯父でもある国王陛下は何故止めなかった?!とでも言いたげな、愕然とした顔をしていたが、他にも後継ぎ候補がいるんだから、真実の愛とか血迷ったことを言い出さないように、そっちをこれからはびしばししごいてくれ、というようなことを遠回しに進言し、私には全く落ち度がない状態での婚約解消なので、慰謝料という名の多額の留学費用を分捕った。私は前世の記憶を思い出してから、いくつかの物を作るために専属の商会を抱えており、そちらからの特許料金もたくさん入っているのだが、もらえるものはもらえる時にもらえるだけもらっておくのだ。
「お前がセレスティスに留学したかったというのは初耳だ」
善は急げとばかりに、公爵家やら、ディオルト殿下の母親やらからの横やりが入る前にとっとと話をまとめてしまったので(磨いておいてよかった、社交スキルや政治の根回し)我が家では両親が渋い顔だ。
私には優秀な兄と弟がいるので、私が次期王妃にならなくてもこの家が傾くことはないので安心だ。
「そうですね、今回初めて言いましたから」
7歳から次期王妃と定められていた娘が、学術都市に留学したいなんて我儘言ったところで通るわけがない、と中身は両親よりも年食ってる私は非常に良い子でこれまで生きてきたのだ。
国のために風の女神の神殿で魔力を奉納することが大事なのは理解しているけど、どうせ豊富な魔力があるならもっと別のことに使ってみたい、便利な魔術具とか作ってみたい、教養とされている程度の本だけじゃなくて、私は本来活字中毒だから休日は日がな一日ずっと本を読んでいたい、色々なところに行ってみたい、食材いろいろ探してもっと美味しいものが食べたい、とやりたいことは山ほどあったが、言ったところで叶わないのなら言うだけ無駄とばかりに何も言わずに言われるままに王妃教育を受けてきたのだ。
本はそれなりに読めたけどね、次期王妃に教養がないと恥ずかしいから。
でも私はもっといろいろなジャンルの本を読みたいし、もっと自堕落に生きたいのだ。
政略結婚という名の義務から解放されたのだから、私には自由に生きる権利がある!
「まあ、我が家で面倒をみている者達用にいくつか住居もあるから、留学するというのなら止める気はないが」
優秀な人間を支援するのも高位貴族の仕事だからね、ようは苦学生に奨学金を出して面倒をみているようなものである。
「アルスター殿下やレスターク殿下と婚約し直すこともできましたのに、留学なんて・・・」
お父様はともかく、お母様は渋い顔だ、お母様は現王の妹で公爵家に降嫁したから、娘の私が次期王妃になるのを喜んでいたからねえ。
王族なんて、柵だらけで面倒なだけだと思うんだけど。
「当分結婚のお話はいりませんわ、私は当分社交界に顔を出したくありませんの。準備ができ次第、セレスティスに発ちますわ」
私自身に問題はなかったとはいえ、婚約解消というのは瑕疵となる。
ましてや貴族社会というのは噂話が大好きだ、このまま何も言わずに私がセレスティスに留学すれば、この国の社交界では好きなように噂話が流れるだろう。お母様の目には、婚約解消されて傷心の娘が異国の地で心の傷を癒そうとしている風に映っているのだろう。
傷心も何も、前世でもお一人様だったのだ、今世でもお一人様上等である。むしろ、これからやっと自分の好きなように生きられる!とせいせいしている。
「貴女にはなんの落ち度もないというのに・・・」
「ディオルト殿下は王になることはあまり望んでおられなかったようですし、王妃に相応しい女性よりももっと家庭的な女性を求めておられたようです。そのことに婚約者として気付くことのできなかった私にも落ち度はありますわ」
義務で強制永久就職させられる相手としか見てなかったからね、真実の愛とやらを求めていたらしいから、そう考えると申し訳ないことをしたと思う。政略結婚に相手の地位にふさわしい教養やら社交技術やら後ろ盾やらは必要だろうけど、愛は必要ないと思っていたし。
「セレスティスには各国の優秀な貴族も多数留学しているだろう、そこで新しい縁を拾っても良いのではないか」
いやいやいや、好きなことしに行くのに婚活なんてしたくないですよ、お父様。
もともと私は前世から、恋愛や結婚に対する優先順位が低かったのだ。
私は家柄、財産、教養、美貌、と政略結婚するにはかなりの優良物件だが、恋愛結婚にはとことん向かない欠陥物件なのだ。