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私は既存のポーション類も順番に飲みやすい味に改良していっている。
効果が同じなら安い方が良いという消費者がいる一方で、少しばかり割高であっても飲みやすい方が良いという消費者も当然いるのだ。
味を変えただけのポーション類をアストリット商会で売っても仕方がないので、それは街の薬屋にレシピを売ってみた。味が違うだけで効果は同じで割高な薬なんてそんなん売れるか?と最初は半信半疑だった薬屋だが、お試しで効果は同じだけど味が飲みやすいですよ、と注意書きをした上で陳列してもらうと、結構需要があったとのことで、喜んでレシピを買い取ってくれた。
セレスティスにあるお店は、学生が変わったものを作成して持ち込むことに慣れているので、大概がおおらかに店に陳列してみてくれるらしい。学費や生活費を稼ぐ学生を様々な形で支援するのはセレスティスの住人に課せられた義務だそうだが、お金にはまるで困っていません、ごめんなさい。
私が次々にポーションの味を改良していっているので、エアハルト先生には味に並々ならぬ拘りのある人間族、という認識をされてしまった、いや、間違ってはいないけれども。
「君の薬を飲みやすくしようという情熱には恐れ入る」
「味が悪いと必要時に飲むのを躊躇するではありませんか」
前世では晩年にはいくつかの既往歴を抱えていたが、それによりたくさん投薬されていた経験によるものである。
粉薬は大概苦くて飲みにくい、オブラートに包んでも口の中に貼りついて破れたりするし、粉の量が多いと何回にも分けて飲まなければならないし、錠剤でも糖衣錠でないものほど苦かったりしたし、大きな錠剤やカプセルは喉に引っかかったりするし。
最近アストリット商会から売り出したのは、眼精疲労に効くキャンディ、ベリーアイである。
セレスティスは学術都市なので、眼精疲労や肩凝りに悩まされている人が多いのだ。
アストリット商会からは各季節毎に新商品を出すようにしているのだが、なんだか健康グッズばかり出している気がする。
次に出す予定の商品は骨盤枕と骨盤ベルトだ。
これには医学の授業の人間族のジュリア・ベルナデッタ先生と、エアハルト先生にも協力してもらった。
魔法が使える世界で、人体の構造が前世と変わらないのか、他種族の身体構造はどうなっているのかを知るために講義を受講している。
この世界では別に解剖が禁忌とされているわけでもないので、人体の構造についてはどの種族についても結構詳細に教えてくれた。
前世で助産師の友人が、骨盤を締めるのは産後とかダイエットに関係なく身体に良いから、是非やるべきだよ、と言っていたので、この世界でも布教することにした。
骨盤枕は極論タオルを丸めて骨盤に当ててストレッチしても良いのだが、どうせなら前世で愛用していた縦長のひょうたん型で腰のツボに当たる場所にそれを刺激できるようなものを、骨盤ベルトはゴムのような素材がないかと探していたら、エアハルト先生がリシェルラルドに皮が伸び縮みする木があると教えてくれたので、これまで特に需要がなかったので他国に輸出されていないその木の皮を輸出してもらうべく、実家は結構良い家らしいエアハルト先生にお願いして、アストリット商会と取引してもらえるよう紹介してもらった。
ゴムがあれば服飾の幅が広がる。
今日はそのお礼に、エルフは甘党が多いとエリシエルが教えてくれたので、オスカー渾身の作であるオプストトルテを持ってきたのだ。
「君が味に固執するのもわかるな、このような菓子は200年ほど生きてきて初めて食べたが、非常に美味だ」
それは良かった、美形のエルフが真剣な顔でホールケーキを食べているのは、なんだかシュールな絵柄だけれども。
「傷みやすいお菓子ですので、冷蔵保存して今日明日中に召し上がってくださいね」
「問題ない、今日中に食べ終わる」
エルフは本当に甘党が多いらしい、エリシエルもいつも涙を流さんばかりにして食べているし。エリシエルはアストリット商会で新作のお菓子を予約できるようになったことで、他のエルフ達から羨望の眼差しで見られていると言っていた。でもエルフは皆細身の美形ばかりなんだよね、種族的に太らない体質なんだろうなあ。前世も今世もダイエットとは縁のない体形の私だが、世間一般の大半の女性は体形維持に血道を上げるから、ダイエット効果もある骨盤枕と骨盤ベルト、一緒にするストレッチは人気が出るだろう。
ちなみにジュリア先生には、発売前の骨盤枕と骨盤ベルトを贈っておいた。ジュリア先生は緑の髪にオレンジの瞳の人間族の美熟女なのだが、どうやら辛党らしい。
次は深睡眠枕でも作ろうか。