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やはりせっかくの学生生活、授業に使う品を準備するのにも購入するだけではなく、他の手段も試してみるべきだろう。
そう思い立ち、護衛騎士2人を連れて冒険者ギルドに行ってみる。
薬学の授業で学院内の薬草園で栽培しているものの採集方法や処理の方法は習ったが、それはいわば養殖もの、天然ものである野生の薬草を採集というものをしてみたくなったのだ。
学院の教師や生徒から常に採集依頼が出ているらしく、冒険者ギルドには採集を専門とする冒険者も何人かいるらしい。そのうちの1人を案内役として雇い、近くの森にでも行ってみようと思ったのだ。
護衛騎士達は渋い顔をしたが、一応自分の身を守れる程度の剣と弓の腕はあるし、何事も経験である。
いくつかのポーション類の作成依頼というのも常時出ているようなので、練習で作ったものでも売ることができるよう登録しておく。学院でも買い取りはしてくれるけどね。
それに、冒険者としてギルドに登録、というのはなんとなく憧れるではないか、実際に冒険者として活動するかどうかはともかくとして。
ギルドカードというものは、学院のカードと同じで白金、金、銀、銅、鉄、青銅らしい。初登録なので当然のごとく青銅だ。私のように作成した薬や魔術具を売るために登録する者もこのセレスティスにはたくさんいるので、一見戦闘能力のなさそうな私でも登録はスムーズだった。
そして採集の腕の良い冒険者ということで依頼を出し、エリシエル・アルベルタというエルフ族の女性の冒険者を紹介してもらった。
確かにエルフ族なら間違いないだろう。
前世で見た指輪を捨てに行く映画のように、背中に弓を背負った金髪、緑の瞳の長い耳の美女である、何歳なんだろうか?
「採集依頼じゃなく、採集に案内、同行ね、護衛はそっちの2人がいるから問題ない、と。まあ、普通の採集依頼よりも契約金も多いし、時々自分で森で採集してみたいという学生がいるから構わないわよ」
私と同じようなことをする学生は割とよくいるらしい、ちょっと安心した。
「私はセイラン・リゼルと申します。後ろの2人はカイルとエリドです。よろしくお願いします」
エリシエルに先導され、近くの森にレッツラゴーだ!
近くの森に行くと、なんだか学院で習った薬草がところ狭しとわさわさ生えている。
おかしい、もっと森の奥に進むつもりだったのだが、こんな入口に近いところにたくさん生えているのなら誰でも取りに来れるではないか。
「うーん、セイランさん?もしかしてかなりたくさんの名前持ち?」
エリシエルが首を傾げながら訊いてくる。まあ、正確な数さえ言わなければ肯定するのは問題ない。
「ええ、まあ、それなりに・・・それが何か?」
「薬草採集は大神の祝福が多いほど楽なのよ、あ、闇の神フィンスターニスの祝福も持ってるのね、こんなところではまずみつからないドゥンケルハイトまである!」
指さされた先には、学院の薬草園ではわざわざ闇の魔法陣で保護した温室に生えていたドゥンケルハイトがちょこんと生えていた。
まさか、名前の数で採集に影響があるとは思っていなかった、確かに6つの名持ちの次期王妃とされる公爵令嬢が冒険者になって自分で薬草採集に行くことがあるなんて、誰も想定してないから教えてくれないよね。
「こんな予定ではなかったのに、もう籠がいっぱいになってしまいました」
おかしい、私は結構森の奥まで進んで、ちょっと弱めの魔獣とかとも戦ってみたりする予定だったのに、名前が多いというだけでこんなに採集がイージーモードだったとは。
せっかくオスカーに作ってもらったお弁当があるのに、まだお昼にもなっていないではないか。ピクニックにすらなっていない。
「少し進んだところに、休憩にちょうど良い川原があるから、そこまで行く?」
しょんぼりしていたのがわかったのだろう、エリシエルに気を使われてしまった。
「お嬢様、労せずたくさんの薬草が手に入ったのですから素晴らしいではありませんか」
「そうです、何も危険がなくてなによりです」
エリドとカイルにも気を使われ、それもそうだと気を取り直す、ここで我儘を言っても仕方がないし。
「では、エリシエルさん、その川原まで案内してくださいな。貴方の分もありますから、よければ一緒にお弁当を食べましょう」
休憩にちょうど良いという川原までの1時間ほどの道のりも何事もなく到着し、私達はお弁当を食べることにする。
今日のお弁当はサンドイッチだ。
「ええと、エリシエルさんは何か食べられないものはありますか?やはり肉や魚は苦手ですか?」
「エルフ族は確かに菜食主義者が多いけれど、冒険者をしているようなエルフは何でも食べるから大丈夫」
好き嫌いがないのなら、私のお勧めは、照り焼きチキンのサンドイッチだ、醤油もどきがみつかったおかげで料理の幅がぐんと広がった。卵サラダサンドにハムとレタスとトマトのサンド、私はあまり食べないががっつり食べるであろうエリドとカイル用にはカツサンドもある。デザートにはフルーツと生クリームのフルーツサンドと、これまたセレスティスに来てからみつかった小豆で作ったあん塩バターサンドだ。
「え?あの、ものすごく美味しいんだけど、なにこれ?!100年以上生きてるけど、こんなに美味しいもの食べたのは初めてなんだけど!」
つまり、エリシエルさんは100歳以上ということか、と寿命300年のエルフ族の美女が一心不乱にサンドイッチをパクつくのを微笑ましく眺める。
「うちのお菓子のいくつかはアストリット商会でも売っていますから、良ければ紹介しましょうか?お料理はうちの料理人が作ったものですので、他では食べられないのですけれど・・・」
「是非、お願いします!あ、採集依頼がありましたら、指名してくだされば格安で受けますし、今日のように同行を希望されるのでしたら、私の分の食事を準備してくれるのなら依頼料は食事ということで構いません!」
急に敬語になったエリシエルにがっしり両手を掴んでぶんぶんされてしまった、綺麗な緑の瞳がおそろしく真剣だ。
どうやら食いしん坊エルフの冒険者を引っかけてしまったらしい。
これから格安で採集依頼を引き受けてくれるというし、まあいいか。
エリシエルはエアハルト先生の採集依頼もよく受けているらしく、今後学院で会うこともあるかもしれない。
帰り道でグレーの子ウサギに遭遇したので、うちの子にならないかと勧誘したら寄ってきてくれたので、もふもふペットをゲットできた、うふふ、もふもふ。
薬草採集に行ったのに、何故ウサギを連れて帰ってきたんだ?とクラリスとイリスには訝しげな顔で見られたが、2人共別に飼うことに反対はしなかった。
グレーの子ウサギ、名前はポポちゃんである。