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前世の栄養学のようにしっかりしたものではないが、このセレスティスにも栄養学のようなものはある。何を食べると身体のどの部分に良いかという割とざっくりしたものだが、サプリや栄養ドリンクの類を作るのには、この世界での一般常識も知っておく必要があるため受講している。
医学の一端として、病気の患者に何を多く食べなさい、と説明するために医師志望の学生が多く受講しているようだ。
アルフレート・エフィージオという紫の髪に榛色の瞳の、人間族の先生である。
貧血ならブロッコリーやホウレン草、プルーン、レバーを食べると良い、とかしっかりとしたエビデンスは解明されていなくても、前世と変わらないことも結構教えてくれる。
薬学で習うことと合わせて、とりあえずはビタミンBと鉄、肝臓水解物の抽出だろうか。
特にビタミンBは毎日一定量を飲みたい、今世ではそうでもないが前世では口内炎ができやすくて常に飲んでいたし。
どれも普通の食品に含まれているものだから、抽出して錠剤にでもしてしまえば良いのだ。
肌荒れ、口内炎予防に、貧血の方へ、二日酔いの方へ、と銘打てばちゃんと売れるだろう、効果があることは前世で立証されているのだし。
家の空き部屋のひとつを私の実験部屋にして作業をしている。
そのうち魔術具作成の授業を受講できるようになったら、勝手に歩いて掃除をしてくれる箒とか作るのが夢である。
大概の授業の初級は特に何の資格もなくても受講できるのだが、中級は他にいくつかの講義を受講し終えているか、それに準じた知識・技術があることが必須だし、上級に至っては他の教師の紹介が必要だったりするので、講義の受講は趣味だけではなく計画的に行わなくてはならないのだ。
まず最初にできたのはビタミンBだ。
これはキャンディにして、毎日1粒ずつ摂取しましょう、と用量・用法を決めておく。薬だと思うと飲むのが嫌でも、キャンディなら毎日食べられるのだ、食べすぎ注意だけど。
肌荒れや口内炎に効く、というとうちの側近達は胡乱な顔をしていたが、騙されたと思って毎日一粒ずつ食べてみるようにとビタミンBキャンディを一瓶ずつ渡すと、2週間後にはもともと口内炎ができやすくて悩まされていたらしいイリスとエリドが、全然できなくなったと喜んでいた。
名称を何にしようか、ビタミンキャンディじゃあねえ・・・ビタミンはBだけじゃないし。
私はこういうネーミングセンスにはあまり自信がないのだ、7歳になった子供達に等しく名前を贈ってくれるこの世界の神様はすごいと思う。
とりあえず、前世でのビタミンB製剤をもじってチョコルとでもしておこう。
鉄剤は貧血の人だけでいいのだが、鉄というのは胃から吸収されるのでどうにも胃がむかむかすることが多かったし、注射にすると今度は血管痛があるしで、前世の私は主治医から鉄剤を処方されても結局ダメで、できるだけ鉄を多く含むものを食べるようにと主治医に言われて、よくプルーンを食べていた。
でも女性には貧血が多いから、これも需要があると思う。
これはフェミアとしておこう。
そして肝臓水解物である。
私は今世ではまだ15歳ということもあり、二日酔いになるほど痛飲したことはないが、前世では付き合いもあったし、弱くはなかったが時には二日酔いでグロッキーになることもあった。
何処の世界でも酒は飲んでも飲まれるな、というのは鉄則なのだが、ドワーフ族でもない限りは限界がある。
ドワーフ族といえば、フリージアに皆お酒が好きなのか、飲めないドワーフはいないのか、二日酔いはしないのか、と聞いてみたが、二日酔いはともかく、お酒が嫌いだったり飲めないドワーフはいないと言われた。二日酔いにしても、人間族からすると信じられないような度数の高い酒をものすごい量飲んでやっと弱い者は二日酔いになることもある、という程度らしい、ドワーフ族おそるべし。
まあ、ドワーフ族はともかく、人間族には需要があるだろう、意外に酒好きだったクラリスに酒を飲む前に飲んでみて、と50mlほどの肝臓水解物液を渡し、普段飲むより多めにお酒飲んでから寝てね、とお願いしてみる。
もともと酒には強かったが、翌日はまるで飲んでいないかのようにすっきりしている、と翌日清々しい顔をしていた、どうやらちゃんと効果があったらしい。
これはパリーゼで良いだろうか。
なんだか前世で身近だったものばかり作成したが、需要はあるだろう、きっと。