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今日はこれから薬学の授業である。体力回復ポーションとか魔力回復ポーションとかのオーソドックスなポーション類の他にいろいろな薬効のポーションが作られて売っているが、私はせっかくなのでサプリ系のものを作りたい。肌荒れ、口内炎予防にビタミンB製剤とかね。

ポーション作成には一定量以上の魔力が必要になるらしいので、受講資格カードは銀色以上だ。

受講希望者には年間通して必要となる機材と材料のリストが渡され、機材は希望者は学院でまとめて購入してくれるそうなので、先日申し込んでおいた。

材料は学院内の売店で買うなり、街の薬草店や冒険者ギルドに依頼するなり、はたまた自分で採集に行くなり自由だそうだが、1番手っ取り早いのは学院内の売店で買うことだろう。1度くらいは自分で街の外に採集に行ってみるのも

楽しいかもしれない。

それぞれの値段を確認するためにも、売店、街の薬草店、冒険者ギルドにも足を運んでおかなくてはならないし。


薬学の先生はいかにもエルフという外見の長い金髪に緑の瞳のエアハルト・ネストレという男の先生だった。普通のエルフは300年くらいの寿命だが、中には500年以上の寿命のハイエルフもいるらしいけれど、私はまだハイエルフにはお会いしたことがない。

前世で読んだ本では、エルフやハイエルフは不老不死と書かれている本もあったけれど、この世界ではちゃんと寿命があるようだ。


今日はポーションの基礎である体力回復ポーションと魔力回復ポーションを作成する。

先生に説明されるままに学院の売店で買った薬草を切り刻み、乳鉢で磨り潰す。この後鍋にかけてかき混ぜる際に、いかに魔力を均等に流せるかでポーションの質が変わるらしい。流す量ではなく、あくまで均等にがポイントだそうだ。

これまでに家業などでやったことのある学生も何人もいるのだろう、手慣れている学生が何人もいる。

これが細かく薬効の分かれたポーションを作るようになっていくと、材料だけではなく、どの属性の魔力を流すかが重要になってくるらしい。自分が属性を持っていないものはその属性の魔石を準備しておいて、そこから流すそうだ。ただ、それだと材料費もお金もかかるので、授業ではやり方を習うけれども、学院を出てから実際に商品として作成するのは、自分が名前を贈られた大神の属性のポーションばかりになるらしい。私は全属性持ちなので、わざわざ魔石を準備しなくて良いのだが、魔石から魔力を流す作成方法も試すためにどこかで準備しようと思う。

全属性の魔力を流せばエリクサーみたいな万能薬ができるかといえばそういうものでもなく、全属性を受け入れるためにはそれなりの材料が必要となるらしい、世の中そんなには甘くない。


完成したポーションを自分で飲んでみるよう言われるが、見た目も味も青汁である。できればもう少し飲みやすい味に改良したい。いや、これまでも飲む機会はあったから、こういう味だとはわかっていたけどね、自分で作れるとなるとやっぱりね。




薬学の授業では、学院内の薬草園で薬草の見分け方や採集の仕方、特殊な薬草についても教えてくれる。学院内の売店で販売している薬草は、この薬草園で栽培されているもので、採集やその後の処理の得意な生徒には採集のアルバイトもあるらしい。


「今日はマンドラゴラの採集について説明する。皆も知っているかと思うが、マンドラゴラは引き抜く際に非常に喧しいため、色々な話が世間には流布しているが、大概は流言飛語の類である。別に声を聞いたところで非常に喧しいだけで死にはしないので、犬に引っ張らせたりしないように」


流言飛語だったのか。

マンドラゴラの叫び声を聞くと死ぬので、犬に紐をつけて引っ張らせるというのは、前世でも本で読んだ記憶があったのだが。


「前の3人、ちょっとそこのマンドラゴラをそれぞれ抜いてみなさい」


1番前にいた生徒3人を無造作に指さし、足元のマンドラゴラを引き抜くよう指示するエアハルト先生は無表情だ。

言われた3人は恐る恐るマンドラゴラに手をかける。


「ギャアーヒトゴロシー!」

「タスケテーオカサレルー!」

「ミノガシテーワタシニハツマトコドモガー!」


物凄く罪悪感を刺激される絶叫が周囲に響いた。

驚いて引き抜いたマンドラゴラをぼとりと落とした生徒が、エアハルト先生に「しっかり掴んでおかないと逃げるだろう!」と怒られている。

どうやらマンドラゴラは自走するらしい。


「このように非常に喧しいだけで、別に害はない。さて、次に静かに採集する方法を説明するが、これはある程度音楽の素養のある者でないと難しい。少し引き抜いてマンドラゴラと目が合ったら歌いなさい」


精神的にかなりのダメージを受ける内容の叫び声と音量だと思うのだが、非常に喧しいだけで害はない、らしい。

そして次は子守唄を聞かせて眠らせる採集方法のようだ。


「君、音楽は得意かね?」


エアハルト先生とばっちり目が合ってしまった。

私はどの授業でも目立たず埋没していることを心掛けていたのだが。


「セディールの演奏でしたらそれなりに得意ですが、歌はどうでしょう・・・?」


「ふむ。楽器の種類によって得手不得手はあっても、何かひとつでも得意だといえる楽器があって音痴だということはないだろう、歌いたまえ」


淡々と、だが有無を言わさない迫力のエアハルト先生に足元のマンドラゴラを指さされる。

覚悟を決めて上の葉に手をかける。少し抜いて目が合ったら、と言っていたか。


ずるっと上部が出てきた根に、意外とつぶらな瞳がぱちくりと私を見ている。

マンドラゴラに目があったんだなあ、と思わずしみじみしてしまう。


「失敗しても喧しく叫ぶだけなので、遠慮なく歌いなさい」


そんな無表情で歌え歌えと言われても・・・

私がその時脳裏に浮かんだのは、前世で姪っ子が好きだった何度も再放送を繰り返している名作アニメの曲だった。アライグマと少年の心温まる交流を描いた名作である。


「しろつめくさのー♪」


2番まで歌ったところで、マンドラゴラのつぶらな瞳が徐々にとろんとして閉じたところで、「今だ、一気に抜きなさい」と言われたので、ずぼっと抜いてみる。

マンドラゴラはすやすやお休みのようで、とっても静かだった。


「初めて聞く曲だが、なかなか良い歌だった。マンドラゴラを眠らせるほどの歌声の持ち主というのはなかなかいないので、何人か試して無理そうなら私が見本をみせるつもりだったのだが大変結構だ。人間族の少年の友情の曲か?」


「いいえ、少年とアライグマの友情の曲です」

「・・・・・・」


常に無表情なエアハルト先生が一瞬無言になってしまった。

エルフ族は音楽が得意な種族だから、マンドラゴラは眠らせてから採集するのがセオリーらしいが、エルフ族以外では音楽を生業にしている者でなければなかなか難しいらしい。エルフ族の生徒が受講していれば歌わせるのだが、中級上級ならばともかく、初級の薬学程度ならば大概のエルフは自分で習得済みのため初級コースには在籍しておらず、毎年何人かの生徒に試させているそうだ。


とりあえず、マンドラゴラの採集は問題なく行えることがわかった。


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― 新着の感想 ―
マンドラゴラの叫び声、他作品で見ました たしか孤児院でマンドラゴラを育成し、それらを抜くときの叫び声だったと記憶しています ここまで似た内容の叫び声はさすがにどうなのかなーと思います
[良い点] はじめまして。 「しろつめぐさの〜♪」に食いついて、 感想を書こう!、と思ったら、砂都さまの作品だったとは…。 おもしろそうと思って読み始めて、今まで気付きませんでした。 安定した文章力と…
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