第一話
第一話です。ボスの部屋に連れていかれます。
※プロローグからご覧ください。
「ボス。新入りを連れてきました。」
クロオが一言言うと、自動で重そうな扉が開いた。すげえハイテクだな、おい。
今から俺が会おうとしているのは、クロオが所属しているチームのボスらしい。真っ暗な道を歩いているときに教わった。
そもそもチームが何かすらわからないが、ついてきてしまったものは仕方ない。
「よく来たね、新入りくん。」
「は、はいっ!」
慌てて返事を返す。ん?なんかボスの声、妙に高くないか?
部屋に入ると、さらに予想外のことがあった。
「え、ボスって子供…。」
その高そうなふかふかの椅子に腰かけているのは、どっからどう見ても子供だったのだ!
もっと詳しく言うと、小学校低学年くらいの女の子。
はたから見ると令嬢が、お父様の椅子に座って遊んでます!的な状態…。
「おい、新入り、声に出てる。」
「えっ。」
クロオが冷静に突っ込みを入れた時には遅かった。その令嬢様の目はもうほぼ縦向きになるのではないかというくらい吊り上がっていた。
「我は子供ではないっ!失礼な奴は、こうしてやるっ!えいっ」
令嬢様が腕を振ると、部屋中のいろんなものが俺をめがけて飛んできた。
「いやぁぁぁ!助けてぇぇ!」
俺が叫ぶと、物へたちは来た道を引き返していった。
いやナニコレ。
「ふっふっふ。これで我の恐さが分かったか!」
「あー、なつかし。俺もこれやられたなー。」
頭が混乱している俺の横で、クロオがのんきにつぶやいた。
「知ってたんなら教えてくださいよ!?」
俺が怒ったのも当然だと思う。クロオ最低。
「我の偉大さが分かったところで新入り、お前の役目を教えてやる。お前は選ばれたんだ。誇り高き死神という仕事にな!」
いや、俺はとりあえずついてきただけで…そういおうとしたが、これを言ったらまた何されるかわかったもんじゃない。痛い思いはもうごめんだ。
「というわけで、さっそく任務開始だ!」
「は?」
展開が早すぎてついていけない。俺は死神なんてやるつもりないのに!ってか、何がというわけなんだよっ!
「ま、詳しいことはこいつから聞け。クロ、お前を新入りの教育係に任命する。」
「えー。まあ仕方ないか。」
クロオ、めっちゃ嫌そう…。
「ん。じゃあ光哉、俺についてきて。」
投げやりな口調で言うクロオの背中に反抗心を投げつけながら、俺はボスの部屋を出た。
「いや、なんなんすかこれ!俺ついていくだけって言ったでしょ!」
クロオはめんどくさそうに前髪をかき上げて、こちらを向いた。
「あー、まあ、死神になって悪いことはないと思うぜ?だって本当なら、お前今頃天国か地獄で安らかに眠ってるもん。」
「それでよかったんですけど!」
「いいや、天国か地獄にいたらいずれまた下界に降りなきゃいけない。しかも今の記憶なしでな。死神になれば、死ぬ前の記憶を継続したまま生きられるようなもんなんだから、感謝したほうがいいぞ。」
そういうものなのかなぁ。
「でも、死神って人を殺すんじゃないの?」
そう尋ねると、クロオは一瞬?という顔をして、その後大爆笑した。
爆笑は5分間ほど続いたので割愛させてもらう。
「え?なんか俺間違えてる?」
「間違えてるも何も…ひひっ、そんな古典的なイメージにとらわれてるやつがいるなんてな…ふっ、まあそうか…あのな、死神っていうのは、お前が想像してるようなおぞましいもんじゃなくて、『魂の案内人』って呼ばれてる超善意的なお仕事なの。死んだ人の魂を、天国か地獄か、判定する。それが俺らのやってること。」
クロオが説明したことは、俺のもともとのイメージとははるかに違うものだった。
「えー…なんか拍子抜け…」
「だろっ?なあ、やる?まあお前にはやるかやりますしか選択肢はないけどな。」
「んー、じゃあ、やるよ…」
そうして、俺の死後の仕事が決まった。あ、駄洒落じゃないからね。
クロオが平常心を取り戻したところで、唐突に俺に質問してきた。
「で?お前なんで死んだの?」
何がで?なのかわからない。ここの人たちの特徴は、脈絡がないことで確定だろう。
「あなたも知ってる通り、トラックに轢かれて死んだんですよ。」
「そうじゃなくて、なんで轢かれたの?」
「それは…まあ、よそ見してて。」
俺はいまさら、あの瞬間を思い出す。
あの子の前に迫るトラック。気が付いたら、自分の身体が道路に飛び出していた。
あの子は無事だったかな。
「嘘つくの下手か。お前のデータ一応見たけど、運動神経は平均の倍、反射神経もいい。まあ、勉強はそこそこ。性格はお人好しだが、ちょっと短気。ということは、トラックが来てることにお前が気が付かないはずがないだろ。」
あっさり言われてしまった。俺の短所が、この事故を引き起こした原因で、俺の死因であること。
「そうですね。俺は自分で飛び出して死にました。」
「それだけか?」
「あー、えっと、女の子が轢かれそうになってたのを見て、気づいたら飛び出してました。」
これだとなんか自慢のように聞こえるな。俺の短所は、後先考えられないお人好しであることだ。友にさんざん言われて、分かっていたはずなのに、どういうわけか死んでしまった。
「実は、その子がここにきてるんだ。」
「え、どういうこと」
あの子は、助かっていないということか?
俺の死は、なんだったのか。
「それが、お前の初仕事だ。天国か地獄か、決めてくれ。」
まるで、人を仕分けるみたいな言い方。人間の命は、工場で作られるものとはてんで違うのに。
この世界の住民は、どこかおかしい。
「ちょっと待ってください。あの子は死んだんですか?」
「あー、まあ、死んだよ。」
「嘘つかないでください。あの子は、俺が死ぬ直前に突き飛ばしたから…」
「正確に言うと、まだ生きてるけど、もうちょいで死ぬ。だから死ぬ前に決めておくんだ、天国か、地獄か。光哉ならできるだろう。」
「そんなのおかしい。まだ生き返る可能性があるのに!」
クロオはまた前髪をかき上げた。どうやらそれは億劫な時の癖らしい。
「あーあ。なんでボスはこんなのを死神にしたんだろうなー。あんなのどう見ても自殺じゃないし、お人好しは死神とは正反対なのに。」
ぼそぼそと独り言を言うクロオは、俺のほうを見ようとしない。
「そんなに人を切り捨てるのが嫌なら、やってみろよ。あと3日。お前がかばった子が死ぬまでのタイムリミットだ。どうにかして、魂捕まえて、下界に返してみればいいじゃないか。」
「ああ、やってやりますよ。人の命は仕分けるようなもんじゃないってこと、見せてあげます。」
死後の仕事は、俺には合わない。というわけで、俺はあの子の魂を探しに行くことにした。
「なかなか面白い奴だねえ。死神界に革命が起こるかもしれないな。」
思ったよりもシリアスかも…想像と違っていたらごめんなさい。