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東方夢幻録  作者: 桜梨沙
第三章 兄と友への哀歌《ラメント》 〜Lamento
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第四十二話 地霊殿にて

 目が覚めると自分は知らない場所にいた。ベッドから半身を起こす。どうやら建物の中のようだ。地面は赤と黒の市松模様が広がっており、所々にステンドグラスがある。


(どこだ・・・・・・ここは?)


 自分の記憶をたぐり寄せる。


(確か・・・・・・地霊殿を探していて、鬼にぶつかって、吹き飛ばされたんだったよな・・・・・・)


 しかし、そこから後のことが思い出せない。


「こんなところにいつ自分は来たんだ・・・・・・?」


 頭をフル回転する。しかし、答えは出なかった。


「とりあえず、ここの住人を探してみるか」


 ベッドから起き上がり建物の中を歩き回る。


「おいおい、勘弁してくれよ」


 廊下は迷路のように広がっていた。同じ場所に戻ってこれるかさえ分からない。


(こんな所、絶対迷うぞ・・・・・・)


 しかし、進まなければ一生ここに留まる事になる。それは避けたい。


(仕方ねぇ・・・・・・勘で進むか・・・・・・)


 そこからは本能に身を任せ、廊下を歩き回る。


「あれ、ここで終わりか・・・・・・」


 あれからかなり歩き続けた。たどり着いたのは一つの扉だった。ドアノブに手をかけ、中にはいる。そこには一人の少女が机に向かって何かしていた。


(・・・・・・誰・・・・・・?)


 ピンクの髪をしたショートボブの少女。そして、一番の特徴は左胸にある第三の目だろう。それは、紐のような物で少女の身体に巻き付いている。自分はその少女を見たことが無かった。


(この館の主・・・・・・なのか・・・・・・こんな少女が・・・・・・?)


「そうです、私がここ地霊殿の主、古明寺 さとりです」


「!!」


(今、心を読んだ!?)


「そんなに驚かれることではないでしょう?私の能力を知ってここに来たのですから」


 そういえばそうだ。さとりの言う通り、自分はさとりの能力を霊夢に聞いてやってきたのだから。


「大体は萃香さんが話してくれました。心の中を見てほしい人物かいるということですが・・・・・・」


「その通りだ。とある少女の心をみてほしい」


「何故ですか?」


 さとりはじっと自分の方を見つめて来る。その眼差しはとても冷たいものだった。身体が凍りそうになる。


「何故って、その少女が心を閉ざしちまってどうしようもない状態になっている、じゃだめか?」


「・・・・・・あまり、良い答えではありませんね。私は本人の意思がないのに、心の中を他人に言うのは好きではないのです」


 下手な回答をしないようにと思って言ったのが悪かった。しかし、嘘を言っても心を読むことの出来る彼女の前では意味がないだろう。


「お引き取り下さい・・・・・・と、言いたいところですが、霊夢さんの頼みなら行きましょう」


「本当か!?」


「えぇ。ですが、一泊してからにしましょう。もう夜中ですから」


「そうなのか?」


 昼からずっと地底にいたから気付かなかった。


「さすがに、夜中に霊夢さんの所に訪ねるのは失礼ですから」


「確かに、それもそうだな・・・・・・」


 さとりの言う通りだ。さすがに人の所に夜遅く訪ねるものではない。しかし、今まで眠ったからなのか、全く睡魔は感じられなかった。


「なぁ、外の空気を浴びたいんだか、玄関は何処にあるんだ?」


「玄関ですか?それなら、お燐に案内させましょう。お燐ー!」


「はい、何でしょうか、さとり様」


 扉が開き、真紅の髪を持った少女が姿を見せる。その少女が人間では無いことはすぐに分かった。猫耳を持った人間など見たことが無い。恐らく、妖怪の類、それも化け猫。


「レイさんを外に案内してあげて下さい。私は寝ますので」


「はぁーい」


 感情のこもってなさそうな返事をお燐はした。


「何故、名前を・・・・・・」


「萃香さんから聞いたんですよ」


「早くして下さい。置いていきますよ」


 お燐がせかしてくる。


「分かった、今行く」


 さとりに背を向け、部屋を出た。


「・・・・・・・・・・・・」


 部屋に一人となったさとりはずっと扉の方を見ていた。



「もう、なんで私が・・・・・・」


 お燐は文句を言いながら、自分を玄関へと案内をする。


「・・・・・・何か、すまない」


 何だか、自分が悪いような気がして、一応謝る。


「・・・・・・別に良いですよ、貴方はお客様なんですから」


 しかし、声が納得いっていないことを物語っていた。


「着きましたよ。このドアを開ければ外です」


 そうこうしているうちに、玄関にたどり着いた。ここの玄関も広く、まるで紅魔館の玄関ホールのようだった。


「助かった。ありがとう」


「では、私は仕事が残っていますから、ここで」


「分かった。仕事、頑張れよ」


 お燐と別れを告げ、外に出る。外は生暖かい風が吹いていた。地霊殿の壁に寄り掛かり、その場に座る。


「・・・・・・・・・・・・」


 夜だというのに、地底は昼のように明るかった。それはまるで博麗神社であった宴会のようだ。明るい騒ぎ声があちらこちらから聞こえて来る。しかし、自分は明るい気持ちにはなれなかった。


(あの声は何なんだ・・・・・・)


 頭の中はそれしかなかった。意識を失いかけた時に現れるあの声。


(意識を失っている時、自分は何をしている・・・・・・)


 心のどこかで自分は、そのことについて恐怖を抱いていた。眠ってしまえば自分が自分で無くなる。そう思ってしまったから。今の自分には眠る事さえも抵抗がある。


(本当に自分は何者なんだ・・・・・・・・・・・・)


 自分にはめられた枷を見ながらそう思うのだった。




 その頃、地上では・・・・・・


「ひぃ〜〜!!く、くそっ〜〜!!覚えてやがれ、博麗の巫女!!」


 三人組の集団はそう言い放つと慌てふためきながら霊夢の前から姿を消した。


「・・・・・・これで、最後なわけ、紫?」


「多分ね」


 紫がスキマから姿を現す。


「あっそ」


「まさか博麗大結界の一部が緩んでいるとは、思ってもみなかったわ」


「そのせいでこんなことになってるんだけど、あんた分かってるの?」


「そこのところは理解しているつもりよ」


「ふ〜ん、私にはそれが理解している者の態度には思えないのだけど」


「まぁまぁ、そこらへんはいいじゃない」


 霊夢は納得のいっていない顔で紫を見つめる。


「まぁ、別にどうでもいいけど、それよりあいつらは何なんなわけ?妖力とか霊力を感じなかったし、グラシャラボラスとは違う勢力のようだけど・・・・・・」


「戦った感じはやくざって所ね。ドスとか言って、短刀を振り回していたぐらいだから」


「やくざねぇ、幻想郷でやくざなんて聞いたことがないわよ?」


「新しく幻想郷入りでもしたんじゃないかしら?私の眼には迷い込んじゃったようにも見えるのだけれどね」


「じゃあ、あんたが何とかしなさいよ!!」


「幻想郷の維持を保つのは博霊の巫女のあなたの役目よ。私の仕事じゃないわ」


「誰のせいで仕事が増えてるのかしら?大体、博麗大結界の管理は誰の仕事?」


 霊夢は鋭い目つきで、紫を睨む。


「わ、悪かったわよ。今、藍と橙に本拠地を探してもらっているから」


「悪かった、で事が進めはば良いのだけれどもね」


 そう言いながら、霊夢は紫の前を後にした。



 同刻、博霊神社では・・・・・・


「・・・・・・・・・・・・」


 リコは一人で母屋の部屋の隅で縮こまっていた。もう彼女は自分が何をすればいいのかさえ分かっていなかった。ただ漠然とここに要る。


「・・・・・・・・・・・・」


 そんな時、急に視界が真っ暗になる。身動きが取れなくなり、宙に浮いている感覚に陥る。おそらく、自分は袋か何かに入れられて、連れ去られているのだろう。そう理解した自分は、そっと目を閉じ、抵抗をしなかった。このまま死ぬなら、別に構わない。生きている意味が分からないから・・・・・・



 同刻、とある屋敷では・・・・・・


 一人の男が部屋の中で瞑想をしている。そこに、騒がしい足音を立て、勢い良く襖を開け、男が入ってくる。


「頭、また組のもんが博霊の巫女にやられました!!」


 頭と呼ばれる男はゆっくりと目を開け、入ってきた男を見る。


「またか・・・・・・何故、少女ごときに勝てない?」


「戦ったもんからは、あれは少女の皮を被った化け物だ、と聞いています」


「・・・・・・化け物・・・・・・か。面白い奴じゃのう・・・・・・」


「頭!!!」


 違う男が部屋に入ってきた。


「今度は何事や?」


「それが、わ、わ、わ・・・・・・」


「どうした?はよう言わんかい」


「若頭がいなくないました!!!」


「!!!?」


 頭と呼ばれる男は驚き、立ち上がろうとする。


「何時からだ!!?」


「先程、夕食を持って行ったところには、部屋におられなくて、屋敷中探し回ったのですがおられず、まさかと思って、再び部屋を確認しに行くと、部屋からは若頭愛用の刀が無くなっていました・・・・・・」


「・・・・・・一人で行ったか・・・・・・」


「若が一人でですか?それは、ちぃと危険では・・・・・・」


「別に構わん。儂もあいつ位の歳のころは無茶やっとったもんや」


「それと、頭。もう一つ、組のもんが博麗の巫女から人質をとってきたといって、少女を連れてきましたが、どうやらその娘、一般人(カタギ)のようで・・・・・・」


「何やて?人質?・・・・・・その娘を部屋に通せ」


「わかりやした」


 男は急いで、部屋を出る。


「言うものなんですが・・・・・・良いんですか?人質なんてとって。しかも一般人(カタギ)なんか・・・・・・」


 男は恐る恐る頭と呼ばれる男に聞く。


「良いなわけあるか、阿保!!どうせ、血に飢えてる組をもんがやったんやろう。あれだけ一般人(カタギ)さんには迷惑かけるなちゅうとったのに・・・・・・すぐに博麗の巫女(あやつ)は仲間連れてかちこみくるで!・・・・・・仕方ない、組のもん全員に伝えろ!!ドスと拳銃(ハジキ)の用意しとけ!!!」


「は、はい!!」



 あれから何時間経っただろうか、地霊殿からさとりが出て来た。


「ここにおられたのですか?」


「あぁ、さとりか・・・・・・どうしたんだ?」


「いや、もう朝なので貴方を捜しに・・・・・・」


「もう、朝か・・・・・・」


 立ち上がり、服に付いた砂埃払う。


「朝ご飯はいかですか?」


「・・・・・・今は食べる気が起きないんだ・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 静寂が辺りを包み込む。


「怖いんですか、本当の自分が何者なのかが・・・・・・」


「!!・・・・・・あぁ。前までは記憶を取り戻さないとなって思ってたのに、今じゃそれが怖い」


「記憶を取り戻したときの自分が自分じゃ無くなるかもしれないからですか?」


「そうだな・・・・・・」


 {思い出したら、二度と今のあなたに戻れないでしょうけど}


 森で出会った謎の女の言ったことが頭をよぎる。その言葉の意味が何となく分かった気がした。


「でも、レイさん。今はそんなことを考えているより優先すべき事が有るのではないでしょうか?」


 さとりのその一言で、自分が何をしに来たのかを思い出す。


「そう・・・・・・だったな。リコの心を癒す方が先だったな」


(すっかり、忘れてた・・・・・・)


「そうです。でも、あなたの知人の心を癒しに行くのに、あなたの体調が優れないのなら、意味がないです。ですから、きちんと朝食はとってください」


「そうだな。それじゃ、お言葉に甘えていただこうとするかね」


 さとりの後に続き、食堂まで行く。そこには見知らぬ少女がいた。容姿はさとりとものすごく似ており、薄く緑がかった癖のある灰色のセミロングというところと、胸にあるさとりの物と似ている第三の目が閉じているところだろうか。


「こいし、今までどこに行ってたの?捜したのよ」


 さとりはこいしと呼ばれる人物に近寄る。


「地上で色々な所を歩き回ってた。それより、お姉ちゃん。その男の人、誰?」


 指を指される自分。


「自分か?自分はレイ。ちょっとさとりに用があって来たんだ」


「お姉ちゃんに?」


「そう、お姉ちゃんに」


 こいしと呼ばれる少女は自分の方に寄ってきた。どうやら自分に興味津々らしい。


「すみません、レイさん。(うち)のこいしが・・・・・・」


「別に構わないさ。こっちだってあんたに頼み事をしているんだし、こういうことには慣れているんだ」


 席につき、テーブルの上に並べられていた食事に手をつける。


「うん、うまい」


(やはり、タダメシは美味い。まぁ・・・・・・妖夢に比べれば味は劣るが・・・・・・)


 不味いというわけではない。美味しいという部類に入るレベルの物だ。


「それはよかったです。後でお燐に伝えときますね」


 さとりは満面の笑みでこたえる。やはり部下の事を褒められるのは嬉しいことなんだろう。


「私は準備をしてきますので、食事を済ませたら玄関で待っていてください」


 さとりはそういうと食堂から姿を消した。食堂に残ったのは、自分とこいし。なんだが気まずい雰囲気だ。


「・・・・・・何か食べるか?」


 こいしの方を見ながら聞く。


「ううん、私はもう食べたから、お兄ちゃんが食べていいよ」


「そうか・・・・・・」


 会話が上手く続かない。


「ねぇ、お兄ちゃん。今から、どこに行くの?」


「今から?今からは霊夢の所だが・・・・・・」


「博麗神社?」


「そうだな。治してやらないといけない奴がいるからな」


「私も付いていっていい?」


「別に構わないが、何も面白いことは無いぞ?」


「そんな事はないよ。お兄ちゃんと一緒にいると面白そうな事がありそうだもん」


(面白そうな事ね・・・・・・確かに厄介事にはよく巻き込まれはするが・・・・・・)


「そろそろ、いくとしますか」


 席を立ち上がり、玄関に向かって歩き始める。


「そっち、玄関じゃないよ。玄関はこっち」


 こいしが玄関の方を指さす。自分は顔を真っ赤にして急いでこいしの指さした方を向かって行った。




























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