第四十話 探し人は地底に
永遠亭を出発して数時間後、自分と鈴仙は博霊神社にいた。境内に入った時、目に入った人影は三つ。一つは霊夢、二つ目は人形みたいな恰好をした金髪の少女、そしてもう一つは瓢箪を片手に縁側でゴロゴロする、角の生えた小柄の女だ。
「遅かったじゃないの」
「あってからの一言目がそれかよ。もっと他に言うことがあるんじゃないか?」
「他に言う事・・・・・・?そんな事ないわよ」
「霊夢、この人は怪我の心配はしてくれないのか?って言いたいのよ」
金髪の少女が自分の言いたいことを理解してくれたようだ。
「怪我の心配って、ここまでこれているんだから、どうせ大丈夫なんでしょう?」
「まぁな」
「それなら、別にいいじゃない。それよりこっちはあんたに聞きたいことがたくさんあるの」
「聞きたいこと?」
「えぇ、まずは・・・・・・」
「それより、霊夢。私、彼の事知らないんだけれど・・・・・・」
「そう言えば私もあんたの事知らねぇな」
金髪の少女と角の生えた少女が霊夢の言葉を遮る。
「そう言えばそうだったな。自分はレイ。ここでは新参者って言うやつらしい。よろしく。あんたちは?」
「私はアリス・マーガトロイドよ。気軽にアリスとでも呼んで頂戴」
「あたしは萃香。あんたも酒は好きかい?」
そう言うと杯を取り出し、瓢箪の中の液体を注ぐ。多分その液体は彼女の言うからに酒なのだろう。
「酒は好きだが・・・・・・今はいい」
「ちぇ・・・・・・つれないねぇ・・・・・・」
そう言うと萃香は杯に入っていた酒を勢いよく呷った。
「もういいかしら?」
「えぇ、いいわよ」
「リコについてなんだけど・・・・・・」
「リコがどうかしたのか?」
「あんたにはわかるでしょう?あの時のリコを見ているんだから」
「あの時って・・・・・・」
紅魔館の時のリコの姿が思い浮かぶ。自暴自棄になったリコの姿。自分の触れられたくなかった過去で弄ばれたのだ。相当、ショックを受けているのだろう。
「あれ以来、リコは誰にも心を開かなくなってしまったのよ」
「それはしょうがないことなのかもな・・・・・・」
「今、母屋にいるのよ。ちょっとあんた」
「それで、自分に何をしろって言うんだ?」
「あんたがこの中じゃ一番長くリコと一緒にいたんだから何とかしなさいよ」
「何とかって・・・・・・自分は人の心を読める心理学者じゃないんだ」
「じゃあ、さとりでも呼んできなさい」
「さとり・・・・・・?」
「地底にある地霊殿に住んでいるさとり妖怪よ。」
「何だ、そいつは心でも読めるのか?」
「えぇ、出来るわ。そいつならなんとかしてくれるかもね」
「霊夢~まだかしら?」
スキマが開いて紫の声が中から聞こえてくる。
「じゃあ、私はこの後仕事があるから。後は頼んだわよ」
「なっ!!おい、ちょっと待・・・・・・」
呼び止めるも、霊夢は自分の言うことも聞かないでスキマの中に消えて行った。
「・・・・・・何なんだよ・・・・・・」
霊夢のいい加減さに、呆れてしまう。しかし、呆れても霊夢の性格がないるわけでもないし、リコが元に戻るってわけでもない。
「とりあえず・・・・・・地底ってところまで行ってみるか・・・・・・」
「あんた、地底に行くなら覚悟していきな」
萃香が酒を飲むのをやめてこっちを見てくる。
「あそこは何があるかわかんないよ。下手すりゃ命はない」
「なっ・・・・・・」
「地底ってのは地上の者共に嫌われた者達しかいない。そしてあそこの連中のほとんどは人間が嫌いだからな。さとりだってそうだったはずだ。心が読めるが故に人間を嫌っている。まぁ、霊夢と魔理沙とかは別だろうけど」
「・・・・・・じゃあ、自分は成すすべ無しってか」
「無いとは言ってないさ。ただそれには相応の力が必要ってわけだ」
「力・・・・・・」
(つまり、死合をすれば別ということか・・・・・・)
「昔みたいに戦えばってか・・・・・・」
「そうだ・・・・・・だが・・・・・・あんたなら普通に行けるかもな」
「?・・・・・・どういう意味だ?」
「あんたの格好、嫌われ者になるには十分ってことだよ」
「格好・・・・・・」
萃香に言われて自分の格好を見る。
「これのことか・・・・・・?」
首にはまっている黒い枷を指差して萃香に問う。
「そうだ。それは十分嫌われ者って言う証拠になる。実際に嫌われているからあたしは知らないけどね」
確かに囚人は普通の人からすれば忌み嫌う者だ。
(これを使えば・・・・・・)
「だが、そうだとしても戦う羽目にはなるさ。なんてったてあそこは遊び感覚で戦うんだから」
「遊び感覚で戦いかよ・・・・・・」
「まぁ、せいぜいがんばんな。あたしはあんたとまた会えることを楽しみにしているよ」
そういうと萃香は立ち上がり博霊神社を後にした。
(・・・・・・死ぬなってか・・・・・・)
「そんなことより、貴方、地底への行き方知っているの?さっき新参者って言っていたし」
アリスに聞かれて問題がもう一個あることに気付く。
「そういえば・・・・・・知らないな・・・・・・」
「地図書いてあげましょうか?」
(地図・・・・・・だが、自分のことだ。地図を見たところで結局迷うはずだ・・・・・・)
「自分は方向音痴だからできれば、案内を頼みたいんだが・・・・・・」
「そうなの?・・・・・・それなら、蓬莱を貸してあげるわ」
そういうとアリスは蓬莱人形を取り出す。
「ホウラーイ!」
「!!喋った!!?」
「当たり前じゃない。私の魔力を込めているのだから」
「あぁ、そうか・・・・・・そういうことね・・・・・・」
(ここが幻想郷ってこと忘れてた・・・・・・全てを受け入れる場所だもんな、萃香だって角が生えていたじゃないか人形が喋るくらい当たり前か・・・・・・はは・・・・・・)
「蓬莱が地底までちゃんと案内してくれるはずよ」
「すまないな」
「一応、蓬莱は戦闘も出来るけど、私の魔力によって動いているから、無理させたら、ただの人形に戻ってしまうから、そこのところは気をつけなさいよ」
「分かった」
「じゃあ、私は人里で人形劇をやらなきゃいけないから、行くわね。蓬莱も頑張るのよ」
「ホウラーイ!」
蓬莱は元気よく返事をする。
「じゃあ、また会いましょう」
アリスはそう言って博霊神社の長い石段を下りて行った。
境内は蓬莱と自分だけになる。
(とりあえず、挨拶しておくか・・・・・・)
「よろしくな、蓬莱」
「ホウラーイ!」
蓬莱は元気よく返事をしてくれた。
「さて、地底に・・・・・・と思ったがそれより先にリコの状態を見るか」
母屋に足を運ぶ。襖を開けてリコを探した。しかし、中々見つからない。
(あいつ、どこにいるんだ・・・・・・?)
そして最後の襖を開けたとき、その部屋の片隅にリコがいた。こちら側に背中を向けるようにしてうずくまっている。
「リコ、こんな所にいたのか」
リコに近づく。しかし、リコはこちらを向こうともしない。
「聞こえているのか?もっしもーし」
「・・・・・・五月蝿い・・・・・・近寄らないで・・・・・・」
気分を明るくしようと少しふざけた感じで言ってみたが、それは逆効果だったらしい。今のリコは異変前のリコとは全く違う。そして、全てを拒絶しているからか、リコから発せられる言葉は氷のように冷たく、身体を刺す。
(今は・・・・・・そっとしていた方が良さそうだな・・・・・・)
リコの心は今壊れている状態にある。それを正しくない方法で元に戻そうとするのはかなり危険だ。下手すればリコは今以上におかしくなってしまう。
「行くぞ、蓬莱」
「ホウラーイ」
そう言って、自分と蓬莱は母屋から出て、博霊神社を後にした。
「私が・・・・・・殺した・・・・・・お兄様とフェンルオさんを・・・・・・」
そう考える度に思い出してしまう二つの記憶。一つは、偽りの二人を殺したときの記憶。そして、もう一つは数100年前の記憶。昔の幻想郷で私が起こした異変の記憶どちらも生々ししく感触が残っている。特に数百年前の記憶の方は。最初から分かっていたはずだ。兄とフェンルオさんがいないことなんて。何故なら私が二人を殺したから・・・・・・それなのに、それなのに、自分は期待をしてしまった。あの人から兄とフェンルオさんのことを聞いたとき。
「・・・・・・・・・・・・」
自分の手を見る。
「!!!」
一瞬だが、手には赤い血が付いているように思えた。大切な人達の血。それは自分が忘れてはいけないもの。永遠に背負わなければいけない業。
(もう・・・・・・嫌・・・・・・)
鋏を出し、刃先を自分の首に当てる。
(いっそこのまま死んでしまえば・・・・・・)
鋏を動かそうと構える。しかし、鋏は動かない。
「・・・・・・・・・・・・」
鋏を持つ手が震える。そして、鋏を落としてしまう。
「うっ・・・・・・うっ・・・・・・」
やはり、死ぬのは怖い。死のうと思っても中々それは実行に移すことは出来ない。何故なら、兄とフェンルオさんが止めるから。命を無駄にしてはいけないと。生きろと。笑顔で語りかけてくる。しかし、もう私には笑顔でいきていけない。
「何で、そんなに笑顔なの・・・・・・私はお兄様とフェンルオさんを殺したのに!!・・・・・・うっ・・・・・・うっ・・・・・・」
閑散とした博霊神社にはその悲痛の嘆きが響き渡っていた。
「ここが地底の入口なのか・・・・・・?」
「ホウラーイ!」
蓬莱と地底に向かった自分。やっとのことで地底の入口までかぎつけた。
「ここまで、長かったな」
「ホウラーイ・・・・・・」
ここまでの記憶が思い出される。道を間違える自分とそれを修正する蓬莱。それは何回もあった。
「とりあえず行こうか・・・・・・早くしないと日が暮れそうだし、あんたの魔力も切れちまうだろう」
「ホウラーイ」
そうだ、と言わんばかりに蓬莱が返事をする。
「これから、何が待っているやら」
自分はそんなにことをぼやきながら地底に入っていく。
「!!?」
蓬莱が急に辺りを見回す。
「どうした、蓬莱。早くしないと置いていくぞ」
「・・・・・・・・・・・・」
少し不思議そうな顔をした蓬莱だったが、急いで自分についてきた。
「・・・・・・危なかったわね・・・・・・見つかるところだったわ」
木の影に人影が見える。
「地底に行くとは思っていなかったわね。まぁ、ばれないように尾行しましょう」
そういうと人影も地底へと向かった。
「地底って思っていたより明るいんだな」
想像していた場所と全く違うことに驚きを隠せない自分。見た感じ、橋の向こうは地底は地上の昼とまでは言わないが、繁華街ぐらい明るい場所だった。橋にさしかかる。なんだか不思議な感覚に襲われた。
(この橋・・・・・・まるで何かを分けているような・・・・・・)
「待ちなさい、人間」
「!!」
急に呼び止められる。気付けば目の前に少女が立っていた。金髪のショートボブで緑目をしており、茶色と青を基調とした服を着ている。
「人間が旧都に何の用?」
「旧都?」
「まさか、私達の呪われた力を目当てに?」
(呪われた力・・・・・・?・・・・・・能力のことか・・・・・・?まぁ、あながち間違っていないな・・・・・・さとりの力を借りにきたから)
「まぁ、そう言われればそうだな。さとりってやつの能力を借りにきたんだが・・・・・・」
「貴方・・・・・・嫌われ者・・・・・・?」
少女の視線が枷に行く。
「まぁ、そんなところかな」
「さとり様に心を見に来てもらったのかしら・・・・・・」
「そんな感じだ」
「さとり様に心を見てもらう人はここでは珍しく無いから通って良いわよ・・・・・・と言いたいところだけど、貴方が地霊殿まで行ける力があるか試させてもらうわ!!」
「!!?」
少女から弾幕が放たれる。
「嘘だろ!!?」
{あそこは何があるかわかんないよ。下手すりゃ命はない}
萃香の言ったことが思い出される。
(萃香の言っていたことはこういうことか!!)
力が全ての場所。それは自分の記憶している幻想郷に酷似していた。
(地霊殿ってところがどんなところか検討もつかないし、これから何が起こるか分からないから、あまり体力は使いたくないんだが・・・・・・)
しかし、この状況戦う以外策はなさそうだ。
(避けることだけに専念するか・・・・・・)
「花咲爺 シロの灰!!」
彼女から緑色の大玉弾幕が放たれる。その軌跡には桜型の弾幕が現れる。
「うおっ!!」
弾幕が顔すれすれを通る。
「危ねっ!!」
油断すれば当たる。
「中々やるのね貴方。ならこれはどうかしら!」
「舌切雀 大きな葛籠と小さな葛籠!!」
「なにっ!!」
彼女がスペルカードを唱えた後、彼女は二人に分身した。片方からは大玉の弾幕、もう片方からは小型の弾幕が右左入れ代わりながら飛んで来る。さっきよりも隙間はなくなっており避けるのも難しくなっている。
「死ぬ、死ぬ、死ぬぅぅぅぅぅ!!!」
こんなの弾幕避けつづけるのは不可能に近い。
(しょうがない・・・・・・)
鉄扇を抜き、弾幕を防ぐ。
「いくぜ!!扇舞 鳳凰扇舞!!」
少女に四撃をかます。
「くっ・・・・・・強いじゃない。妬ましいわね・・・・・・」
「!!?」
彼女がそう言った後、弾幕の威力が増す。
(何があった!!?」
「これで最後よ!!恨符 丑の刻参り七日目!!」
彼女から六方に弾幕が放たれる。その軌跡には弾幕が現れた。しかも、六方に放たれる弾幕は毎回角度を変えており、目の前が弾幕で埋め尽くされる。
(さっきの比じゃねぇ!!?)
さすがにこちら側から仕掛けないと負ける。
「痛いのは我慢してくれよ!!」
「扇舞 烈空闘扇!!」
少女の弾幕を切り裂き、少女の目の前まで接近する。
「なっ・・・・・・!!」
「これで終いだ!!」
「衝符 扇空波!!」
鉄扇から放たれた衝撃波は少女に命中し、少女は地面に倒れ込んだ。
「・・・・・・お見事ね・・・・・・通って良いわよ・・・・・・」
そういうと少女は立ち上がり道を開けてくれた。
「すまないな」
そう一言彼女に言って、橋を渡りきった。
「疲れた・・・・・・」
「ホウラーイ?」
蓬莱は心配そうにこちらを見る。
(こんなことが何回も続けば、自分の体力の方が先につきるわ・・・・・・そうなる前に、早く地霊殿ってところに行ってさとりって奴をリコの元に連れて行かないとな・・・・・・)
「そういえば・・・・・・蓬莱、お前は地霊殿への行き方知ってるのか?」
「ホウラーイ」
蓬莱は首を横に振る。
「マジかよ・・・・・・」
確かに、博霊神社でアリスは地底まではちゃんと案内してくれると言ってはいたが、地霊殿までとは言っていない。
(どうする・・・・・・?このままでは地霊殿に行くどころか、旧都でさ迷うぞ・・・・・・)
このまま未知の場所をさ迷い続けるのはあまり良い考えとは言えない。そしてなにより、熱い。暑いを通り越している。
(もたもたしていると干からびちまう・・・・・・)
「とりあえず、どっかの店で聞き込むとするか・・・・・・」
「ホウラーイ!」
蓬莱も賛成のようだ。
「よし、決まりだ。じゃあ、店を探すか」
そして、店探しが始まった。




