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東方夢幻録  作者: 桜梨沙
序章 鳴り始めた序曲《オーヴァーチュア》 〜overture〜
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第二話 森の中

「・・・・・・ここはどこだ・・・・・・?」


 どうやら、適当に歩き続けているうちに迷ってしまったようだ。周囲には鬱蒼と木々が生えている。それはまるで全てを飲み込むように、切れ目のない木立がどこまでも続いていた。


(今はまだいいが、日が落ちて夜になったら動けなくなる。それなら、自分が寝ていたあの建物まで戻った方がいい)


 しかし、来た道を戻りたいが、一体どの道を戻ればいいのか見当もつかない。


(どうする?とにかく道っぽく見えるところを突き進むか?それともここで助けを待つべきか?遭難した時は動き回らず救助を待った方がいい。だが問題は・・・・・・)


「自分を助けに来てくれる連中が果たしているかどうか・・・・・・だな」


(自分から森の中に迷い込んだのに捜索を期待するのは虫のいい話だ。となると、多少の危険は覚悟の上でここから移動した方がいい。暗くなる前にとっとと移動しよう)


 少し速足で森の中を歩く。その時、


「――っ?」


 一瞬、ゾクッと背中に悪寒が走る。


(何・・・・・・だ?今の感じは・・・・・・)


 森の雰囲気も穏やかだったものが、一変して騒がしくなった。


 バタバタバタバタ...


「―――うぉう⁉な、何だッ⁉」


 キャオ——キャオ——


「・・・・・・・・・・・・何だ・・・・・・鳥か。ハァ・・・・・・驚かすなよ、まったく」


 その正体にホッと胸をなでおろす。鳥達が頭上でギャアギャアと何かを警戒するように鳴き喚いている。


「・・・・・・妙に騒がしいな。何だってまた、あんなに・・・・・・」


 ゾクッ――


(っ・・・・・・またか。何かに睨まれたような・・・・・・)


「グゥ・・・・・・き・・・気分が・・・・・・」


 視界もぼやけ、足元がふらつき、足が絡まるように蹌踉めいた。その瞬間―—


「⁉」


 レーザーのようなものが頬の近くの空をきる。近くで木が倒れる音がした。


 ツ――


 血が頬をつたう。


「あら、外しましたか・・・・・・」


「!!?」 


 声のした方向を向く。そこには、さっきまでいなかったはずの男が立っていた。


(いつの間に・・・・・・⁉)


「あんた・・・・・・何者だ・・・・・・」


「おぉ・・・・・・怖い怖い、そんな顔をしないでください。攻撃をしたのはお詫びを申し上げます。あなたが、なかなか私に気付いてくれませんでしたから」


 男はわざとらしく怖がり、自分に攻撃したことを謝罪した。


(こいつだ・・・・・・)


 さっきまでの嫌な気が、目の前の男から感じられる。一見、優しそうで、こんな優しい口調だが、本能が「危険」と信号を出していた。


「聞きたいことがあるんですが、よろしいですか?」


 男は少しずつ自分に近寄ってくる。


「ある男を探していたところなんです」


「へぇ、ある男・・・・・・」


(・・・・・・適当に返事をして、この男から逃げよう・・・・・・)


「はい、その男に会いに来たんですよ」


「会いにね・・・・・・」


「で、その男がこの森に居るって聞いたんでこの森に入ったんですよ。ですが、道に迷ってしまいまして・・・・・・とても困っていたところだったんです」


「で?」


「そしたらあなたを見つけて、今の状態に至るって訳ですよ・・・・・・」


「・・・・・・」


「そこで、あなたに聞きたいんです。その男を知りませんか?」


「・・・・・・あいにくだが、この森ではあんたとしか会っていないから、分からないな」


「そうでしたか・・・・・・それは残念です」


「役に立てなくてすまなかったな。じゃあ、ここいらで自分は・・・・・・」


 そうやって男から逃げようとした。しかし、


「待ってください」


 男は自分を引き留める。


「ここで会ったのも何かの縁。何かお礼をさせていただけませんか?」


(そんな気遣い要らないから、とっとと自分を自由にしてくれ!!)


 しかし、相手にそんなことを言うのは失礼だ。相手は自分に迷惑をかけたと思ってお礼をしたいと言ってきている。相手なりの心使いなのだろう。それを無下にするのはこっちがなんだか申し訳なくなってくる。


(しかし、初対面で名前も知らない人にお礼をもらうのもなんだかこっちが申し訳なくなってくるし、相手にとっても迷惑だろう・・・・・・)


 少し考える。


(・・・・・・ここはうまく断るか・・・・・・)


「いや、お礼なんていい。別に自分は何もしていないし」


「そうはいきません。あなたには私がご迷惑をおかけしました。ですから・・・・・・遊びませんか?」


 男はそう誘ってきた。その時、体中に悪寒が走る。まるで這いずり回るように。その誘いは友達から遊びを誘われるときのようなものではない。まるで獲物が目の前にいて、それを狩ろうとしている狩人ような、恐ろしいものであった。


(・・・・・・嫌な予感が・・・・・・)


 どんどん男は近寄ってくる。それと共に、生理的嫌悪感も大きくなっていく。もう男との距離は5mもない。


(この懐かしくて嫌な感じ・・・・・・殺気だ!!こいつ、遊ぶなんてこと言ってるが自分を殺す気だぞ!!)


 男に対して警戒を強め、腰の刀に手を伸ばす。


「ご理解いただいたようですね」


「・・・・・・」


「では、こちらから行かせてもらいます」


 男は一瞬で間合いを詰め、自分めがけて拳を振りかぶる。その攻撃を自分は刀で受けた。


「くっ・・・・・・!!」


 その攻撃は物凄く重い一撃だった。とても拳で出せるような代物ではない。


(なんだこの攻撃は!!?)


「ほう、流石ですね。この拳を受けることが出来るとは。なら、これはどうです」


「!!?」


 刀が弾かれる。体勢が崩され、蹌踉けてしまった。その間に、男は第二撃を放つ。


「うぉっ!!?」


 間一髪のところで避ける。男の拳は気に当たった。


(おいおい、冗談きついぜ!)


 敵の放った拳は後ろにあった大木に大きな穴をあけていた。


(あんな攻撃、身体にもらっちゃ即死だぞ!!あんなのとまともに戦ってたら勝ち目はない!何とかして逃げなければ・・・・・・)


 逃げる隙を作るため、刀で攻撃する機会を(うかが)う。しかし、敵の攻撃は早く、攻撃する暇を与えてはくれなかった。


(こうなったら・・・・・・)


 男に背を向け、急いでその場から離れた。男は急いで追ってくる気配はない。


(こいつは危険だ!!)


 やはり、あの時逃げるべきだった。


「逃がしません」


 後ろから男の声が聞こえてくる。


 ズドォン——


 それと共に、木が倒れる音が森中に響き渡る。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・」


 脇目も振らずに走った。


(立ち止まったら、死ぬ・・・・・・)


 それだけを考えて走った。


(い・・・・・いったいどこまで逃げりゃいいんだッ‼このままだと・・・・・・)


「なっ——」


 木の根っこに引っかかってしまった。


「ガッ——」 


 体制は崩れ、顔と肩、そして胸を強打し、その衝撃に息が詰まった。


「ウ・・・・・・ググゥ・・・・・・——ッ‼」


 痛みで悲鳴を上げる身体を無視して、蹌踉(よろ)めきながらも立ち上がって走りだした。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・」


 木陰に隠れ、息を整える。


(・・・・・・やはり、あの建物に戻って大人しくしていた方が・・・・・・)


「私から逃げられるとでも思っていたのですか?」


「なっ!!?」


 その瞬間、想像だにもしなかった事態に体を凍らせた。


(なぜ前から!?)


 なぜか、男は自分の前に立っていた。そして、再度、拳が自分めがけて振りかぶられる。


「ちっ・・・・・・」


 避けたと思ったが、拳は頬を掠っていた。


(・・・・・・先回りされたのか⁉)


 しかし、今はそんなことはどうでもいい。


 男から離れるように走り出す。出来るだけ単調にならないようにジグザクと。


「よく避けますね・・・・・・それがどこまで続くのか、見物ですよ」


 男の会話に返事を返す余裕などなかった。


「ですが、鬼ごっこもつまらなくなったので、そろそろ終わりにしましょう」


 男がそう言うと、男の周りに無数の小さな魔方陣が現れた。


「これで、どうです」


 その魔法陣からはレーザーが放たれる。そのレーザーは木を次々と倒していき、やがて自分の退路を断った。


「何っ⁉」


(逃げられ・・・・・・ない)


「!!?」


 そのことに気づいた時には遅かった。自分が立ち止まっている間に、男は間合いを詰めていたのである。自分は首を掴まれ、物凄い力で木に押し付けられる。


「がはっ・・・・・・」


「さんざん避けてくれましたからね、すぐ終わらせますよ・・・・・・」


()られる——)


 死を覚悟した、その時——


「恋符 マスタースパーク!!!」


 その声の後、何者からか男に向けて、男が放った先程のレーザーとは比べられないほどの極太レーザーが放たれる。


「!!」


 男は自分の首から手を放し、バックステップでその極太レーザーをかわす。


「・・・・・・どうやら、邪魔が入ったようです」


「・・・・・・」


 その返事をする力など残っていなかった。


「ここはいったん身を引きましょう。よかったですね、邪魔者のおかげで命拾いして」


 男はそう言い放つと目の前から姿を消した。それと同時に、張り詰めていた緊張の糸が切れ、疲労が襲ってくる。


(急に、激しく動いたから・・・・・・か・・・・・・?)


 視界も霞んできた。そんな中、誰かが、近づいてくる足音が聞こえる。


「おい、お前大丈夫か?おーい、おーい」


(ぉ・・・・・・女・・・・・・?)


 返事をしようと思ったが、唇がうまく動かない。しかし、意識は次第に薄れていき、ろうそくの灯が消えるようになくなった。






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