第二十七話 幽々子の食事
「いっただっきまーす。あむーーー。ガブッ、モリモリ、モキュモキュ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「ーーコクン。ん〜、やっぱり美味しいわ・・・・・・どうしたの、ボ〜ッとして」
「あ、ああ・・・・・・」
あれからすこし時間が経った。何処からか漂ってくる美味しいそうな香り。それが鼻をくすぐり、グゥと腹の蟲が鳴る。その音を聞いた幽々子はクスッと笑い、待ってなさいと言った。すると、様々な霊達によって沢山の料理が運ばれて、目の前に並べられていく。
「・・・・・・なんだ、この量」
皿からあふれ出さんばかりの山盛りの料理。明らかに二人分ではない。三人分の量でもない。十人で宴を開けそうな、そんな数々の料理が卓上に所狭しと並べられていった。呆気に取られているこちらを余所に、幽々子はご機嫌な感じで手近な皿に手を伸ばす。
「次は・・・・・・こっちをいただこうかしら」
皿に盛られた料理を流し込むように食べる。
「はむーー、もきゅもきゅ・・・・・・」
口より大きい料理はたったの数口で消えてゆく。大口を開け、口いっぱい頬張っているその仕草は、何故かどこか上品なものであった。
「遠慮しないでいいのよ。妖夢が襲ったお詫びと思ってくれればいいのよ」
「・・・・・・そう言ってくれるのは正直嬉しいんだがな・・・・・・」
(こんなに豪勢な料理を用意して、もしかして無理に散財させてしまったんじゃないか?というか、妖夢はどこに行った・・・・・・?)
「食べないのなら、全部私がいいただくけど」
(・・・・・・・・・・・・ハァ?)
ヒョイ、ヒョイ、ヒョイ、パクッーー。
「もきゅもきゅ、もりもり・・・・・・」
(全部・・・・・・だと)
「遠慮しているの?」
「いや、まぁ・・・・・・ああ」
料理の量と、違和感ありまくりの食いっぷりに呆気にとられていたとは言えず、思わずそう頷く。
「なら、これをあげるわ」
そういわれ、目の前に皿がおかれる。
(はち切れんばかりに詰め込まれた具材で、包み込んでいる皮が破れそうだ。絶対これ詰め込みすぎだろう)
そう眺めている内に、幽々子は同じものが盛られている皿からそれを手に取り、かぶりついていた。ソレに促されるように、中身がこぼれ落ちないよう注意しながら、何とかソレにかぶりつく。
「もぎゅもぎゅもぎゅーーうん、ンマイ。濃い味付けだが、なかなか美味しいな」
(それがタダメシとなれば尚更だ)
「家の妖夢ちゃんの料理はどう?結構あの子料理が得意なのよ」
そう得意げに笑みを浮かべる幽々子。
「ぶふぅーーーー!!!!」
(妖夢の料理!!これすべてがか!!!?)
「これ・・・・・・すべてがか・・・・・・?」
確認のため、一応幽々子に問う。
「ええ」
「すごいな・・・・・・」
(これだけの量を一人で・・・・・・)
「さ、遠慮しないでたくさん食べて。これからの仕事の為に力をつけてもらわないと」
「なぬっ!」
(仕事なんて聞いてないぞ・・・・・・)
「言ってなかったかしら?」
「聞いてない」
「貴方たちのせいで灯篭が斬れていたり、食糧庫がぐずれたりしたのよね・・・・・・」
「うっ・・・・・・」
(お暇しとけば・・・・・・というか、紫に言うべきじゃなかった・・・・・・)
「えっと、次は・・・・・・これと、これと、これと・・・・・・」
(・・・・・・まだ食べるつもりか!)
絶句している間に、幽々子はまた料理の盛られている皿を手に取り、笑顔で食べる。
「はぐっ♪」
・・・・・・本当に、幸せそうに食べる人だと思った。
「うぷ・・・・・・」
(苦しい、食べ過ぎた・・・・・・下手に口を開けたら逆流してきそうだ)
パンパンになった腹をさすりながら身体を休めていると、幽々子は庭を散歩していた。
(自分の倍以上・・・・・・いや数倍以上は喰っただろうに、あれだけ喰っといて、よく動き回れるな。しかも全然そうは見えないし。食ったモンは、あの細い体のどこに消えたんだかね)
「それじゃあ、レイ、行きましょうか」
幽々子についていくとそこは木造の小さい倉だった。中をのぞくと、外に並んでいる石灯篭の他にもたくさんのものが置いてあった。
「ここにある石灯篭を運んで並べてくれないかしら?」
「・・・・・・そうか、これをね」
「ええ、これを」
(何でもないように言っているが、結構重たそうだなこれは。あんなに食べた後だっていうのに、よくまぁ働く気になれるもんだ。自分にはとても真似できん)
「全部運んで頂戴」
「ああ、全部運べばいいんだな?」
「ええ、お願いするわ」
(これを全部ね。全部・・・・・・結構多いな・・・・・・・・・・・・ん?全部?)
「ーいや、なんでだよ⁉」
「さあ、頑張って」
「ちょっと待て。頑張ってじゃないだろ。自分と妖夢の戦いで壊れた石燈籠は二つだったはずだぞ⁉」
「この際、全部取り換えようと思って」
「全部こっちにやらせる気か⁉」
「え?」
「え?じゃない。なんでそこで不思議そうな顔をする。確かに、手伝わないといけないと思うが、全部はないだろう」
「・・・・・・でもこれはあなたの為でもあるのよ」
「・・・・・・なぬ?」
(自分の為って・・・・・・どういう意味だ)
「強くなりに来たんでしょう?せっかく鍛錬しに来たのに、何もしないのは悪いかなって思ってね、気を利かせてみたのよ。ほら、こうして働けば、鍛錬にもなるし、私たちも助かるわ」
(な・・・・・・なんという余計なお世話だ・・・・・・)
別に心苦しく後ろめたくもないが、そう言い返せる雰囲気でもない。
(とは言え、これを一人でやれっていうのは結構辛いものがあるだろう。少しは手伝ってもらわんと困る。)
「・・・・・・どうせそんなことだろうと思って、妖夢ちゃんをこっちを手伝わせるように言ってるわ。二人で頑張って運びなさい。」
「幽々子は何をするんだ?」
「私は食糧庫を直してくるわ」
「・・・・・・」
幽々子にもきちんと仕事があった。
(くそっ・・・・・・幽々子にも手伝えって言おうと思ったのに・・・・・・)
「じゃあ、頑張ってね~♪」
そう言って、幽々子はどこかへ行ってしまった。それと入れ違いに妖夢が来た。
「あら、先にいらしたんですんね」
「ああ」
「そう言えば名前を聞いていませんでした」
(そう言えば、そうだったな・・・・・・)
「自分はレイ。よろしく」
「じゃあ、改めて、私の名は魂魄妖夢。よろしくお願いします」
「では、仕事を早く終わらせましょうか。子供でも出来る仕事ですし」
「子供でも・・・・・・出来る仕事?」
いかにも重そうな石灯篭を見る。
「どうかしましたか?」
「これを運ぶのは子供でも出来るのか?」
「ん?あ、はい。昔、私も子供のころ、よく剣術の練習中に石灯篭を壊しちゃって、よくここから運んだんですよ」
(何だ、子供でも出来る程度の仕事だったのか。てことは、この石灯篭も見た目より、ずっと軽いって事か。そう言う事なら、さっさと終わらせるとするか)
「ぐ・・・おぉ・・・・・・」
ドスン。
(誰だ、これが軽いなんて言ったのは・・・・・・)
ここから倉までは、それほど離れていないが、すぐ近いというわけでもない。これを担いで何十往復となれば・・・・・・
(とてもじゃないが、子供でも出来る作業とは思えんだろう)
しかし、妖夢を見るとそうは思えなくなってくる。
ヒョイ・・・・・・
倉の中に入ってみたもの。それは、あんなに重たいはずの石灯篭を軽々と持ち上げ、それを肩に担ぐ妖夢の姿だった。
「・・・っと」
ヒョイ・・・・・・
「あ、ちょっと通りますね」
石灯篭を二つ肩に抱える妖夢は、普通に歩く元変わらない軽々とした足取りで、倉から出ていくのであった。
「・・・・・・・・・・・・は?」
(子供でも・・・・・・出来ること・・・・・・)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(よし、とりあえずは・・・・・・見なかったことにしよう)
「幽々子様、全部運び終わりました」
「二人ともお疲れ様。思ったより時間がかかったみたいだけど、どうかしたのかしら?」
「う・・・・・・」
(明らかに、自分がもたもたしていたせいか・・・・・・)
「レイさんに、白玉楼や冥界の事を教えようと思って、何回か作業が止まったからです」
「そうなのね・・・・・・それはそうとレイ、これからどうするの?もうすぐで日が暮れるけど・・・・・・」
(もう、そんな時間なのか・・・・・・)
「お暇させていただくよ。いつまでも此処に居るのはあんたらに迷惑かけ・・・・・・!!」
再びあの激しい睡魔に襲われる。やはり、普通の睡魔と違って自分で制御出来ない。
「・・・・・・くっ・・・・・・」
(意識が・・・・・・闇の中に・・・・・・沈んでゆく・・・・・・・・・・・・)
瞼が鉛のように重くなっていき、深い闇の中へと誘われた。
「・・・・・・」
気が付くと知らない場所にいた。
(・・・・・・ここは・・・・・・いったい・・・・・・?誰もいないのか?)
「妖夢ー、幽々子ー」
大きめな声で叫ぶも、その声に返事はなかった。
(なんだか気味悪いぞ・・・・・・)
「ん?」
目の前に人影がある。
「すいませーん」
「・・・・・・・・・・・・」
呼びかけてみるも返事は帰ってこない。
「あ・・・・・・突然すいません、ちょっと聞きたいんですが・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・もしもし?」
「・・・・・・」
「あの〜、もしも〜し、聞こえてますか?もっ〜しもっ〜し!」
「う・・・・・・うぅ・・・・・・」
(・・・・・・え、何だって?何か言ったか?)
「う、ううう・・・・・・」
(なんか・・・・・・妙に顔色が悪いな、どこか気分でも悪いのか?)
「あ・・・・・・ああ・・・・・・あ〜・・・・・・」
「お、おい・・・・・・」
「あっ・・・・・・あっ・・・・・・おっ・・・・・・おっ・・・・・・お・・・・・・」
(なんだ、コイツ・・・・・・まともじゃない?)
「あ゛ァァァァァァ!!うぼォォォォォォォォ!!」
ビシャッ!!
赤い液体が飛び散る。
「うおあああぁぁぁっっっ!!」




