第二十五話 幻想郷巡り開始
グラシャラボラスがいなくなったことで張り詰めた空気はなくなり、蟲たちが再び鳴き始めた。
「・・・・・・・・・・・・ッ・・・・・・」
フェンルオが急に体制を崩し、フェンルオを支えていたレンも一緒に態勢を崩した。
「!!?」
皆が一斉に駆け寄る。そして医者の女が二人の容体を確認する。
「・・・・・・大丈夫みたいね、よかったわ。多分、戦った時の疲れがたまっていたのでしょう。2、3日すれば完全回復すると思うわ。それまでここで安静にしとくことね、うどんげー来てくれるかしら?」
「はーい、今行きます」
声が聞こえたかと思うと兎の耳を付け、ブレザー着た少女が現れた。
「何ですか、お師匠様?」
真っ赤な瞳で女を見つめる。
「患者を運ぶのを手伝って頂戴」
「はーい」
元気な声で返事をすると、レンを背負い、紫色の髪をなびかせながら自分達がいた部屋の方向に消えて行った。
「・・・・・・あの子は?」
「うどんげの事?ああ、そう言えばあなたとは初対面だったわね」
そう言えばそうだった。
「私は八意 永琳。ここ永遠亭で医師をやっているものよ。そしてあの子は私の助手の、鈴仙・優曇華院・イナバ。気軽に、鈴仙か優曇華って呼んであげて」
「自分はレイ。よろしく」
「でも不思議ね・・・・・・あなたとは初対面じゃない気がするのだけど・・・・・・」
不思議そうに首をかしげる。
(・・・・・・確かに自分は永琳や優曇華に会ったことがあるような気がする・・・・・・)
頭を回転させて、記憶をたぐり寄せようとするも、何も思い浮かばない。何処で、どうやって出会ったが全く分からない。だが、何故だか、永琳を最初に見た時から、彼女に対して警戒が解けなかったのも事実である。
「・・・・・・そんなことより、もう日付変わってしまうけど、帰らなくていいのかしら?早くしないと紫、寝てしまうわよ」
彼女が指を指した方向を向くと、紫が隙間に寄り掛かって船をこいでいた。
「あなた達、スキマをくぐってきたんでしょう?紫が寝たら、竹林を抜けるか、空を飛ぶしか、帰る方法はないわよ?まあ、後者の方は、空が飛べないと無理だけれどね」
「竹林を抜けるぐらい簡単に出来そうだが・・・・・・?」
「普通の竹林じゃないわよ。迷いの竹林。迷ったら出てこれなくなるわよ」
(・・・・・・なんか似た名前の森がうちの周りにあるような・・・・・・)
「せいぜい頑張って起こすことね」
そう言うとフェンルオを担ぎ、屋敷の方へ消えて行った。
「・・・・・・ということだが、どうするんだ、霊夢は?」
「どうするって、決まってるじゃない。紫を起こすのよ。空を飛んで帰るなんてだるいことしたくないわ」
紫の耳元に近づき、大きく息を吸う。
「起きなさいーー!!!!!!!!!」
「・・・・・・ッ・・・・・・」
あまりの五月蠅さに思わず耳を塞ぐ。
「五月蠅い!!患者が寝ているのよ!!考えなさい!!」
永琳の声が屋敷の方から聞こえてきた。
(・・・・・・あんたも十分、五月蠅いですけどね・・・・・・)
しかし、霊夢おかげで紫は起きた。
「五月蠅いわね・・・・・・人がせっかく気持ちよく寝てたのに」
「私たちを家に返しなさいよ」
「ああ、そうね・・・・・・えい」
急に足元にスキマが現れる。
「・・・・・・えっ・・・・・・」
(・・・・・・嘘だろ・・・・・・)
「うわぁーーーーーーーー!!!!」
隙間の中の空間を落ちていく。そして、やっとスキマを抜けたと思うと、地面に強く背中を打ち付けた。
「痛ゥ・・・・・・イッッ・・・・・・」
急な衝撃だったため、物凄い痛みを感じ、その衝撃に息が詰まった。少し蹌踉きながら立ち上がり、辺りを見渡す。どうやらリコと出会った場所らしい。
「あなたの家が分からなかったから適当にここにスキマをつなげたのだけど、大丈夫だったかしら?」
スキマから紫が上半身を出して聞いてくる。
「大丈夫だ」
「そう言えば・・・・・・さっきのグラシャラボラスからの会話からすると・・・・・・レイ、あなたはあの男に合ったことがあるのね?」
「ああ、一回森の中でな、その時は殺されかけたけど、魔理沙に助けられたんだ」
「だから博霊神社に来たとき魔理沙と一緒だったわけね」
「そういうことだ」
「分かったわ、ありがとう。じゃあ私も眠くなってきたし、寝るわね。じゃあ」
勢いよくスキマが閉じていき、辺りは静寂に包まれた。
「さて、自分も帰るとしますか」
見づらい森の入り口から森へと入り、自分の家まで帰る。
「昼に通る時とは全く違うな・・・・・・」
全くの別世界が広がっている。昼には少し霧のかかった、森としか思えなかったが、今は、霧も晴れ、月明りが木々の葉の合間から差し込んでいて、まるで昼のように明るい幻想的な風景だった。蟲達の鳴き声が子守歌に聞こえてくる。その時、一瞬だけ頭に映像が流れてきた。
「!!?」
(・・・・・・なんだ、今の、映像は・・・・・・)
幻覚でも見てしまったのだろうか。
(一瞬、女の姿が見えたんだが・・・・・・気のせいか・・・・・・?)
「リコとの戦闘で疲れて幻覚でも見てしまったんだろうな・・・・・・早く帰って寝よう・・・・・・」
急いで家への道を進む。家にたどり着くとすぐにベットに向かった。
(・・・・・・・・・・・・)
段々瞼が重くなっていき、そのまま深い闇の中に落ちていった。
窓から差し込む柔らかい木漏れ日で目が覚めた。
「んっ・・・・・・・・・・・・・・」
ベットから起き上がり、背伸びをする。
「・・・・・・痛ったたた・・・・・・」
昨日のフェンルオとレンの戦闘、そしてリコとの戦闘のせいだろう。筋肉痛になっており、背伸びするだけで体中が痛かった。
(・・・・・・しかし、グラシャラボラスの言い方・・・・・・)
「・・・・・・気を抜くと死人が出るかもしれませんよ・・・・・・」
あの言葉が頭から離れなかった。
(つまり、異変はまだ終わっていない、いやまだ始まったばかりと言ったほうが正しいだろう・・・・・・)
いつどこで、異変が起こるかわからないし、自分がタ-ゲットになってもおかしくない。
(・・・・・・自分もターゲットに入っているわけだ・・・・・・)
あの言い方だ。どう考えても自分を異変に巻き込んでくるだろう。
(・・・・・・今後、リコクラスの戦闘力を持った奴が敵になってみろ・・・・・・・あの時は新しいスペルカードを作りだせたから勝てた。だが次も新たなスペルカードを作り出せるかと言われたら、絶対とは言い切れない・・・・・・このままいけば・・・・・・死ぬぞ・・・・・・)
「少しでも強くなっていた方が良い・・・・・・あと新しいスペルカードも何枚か欲しいしな」
(・・・・・・だが、そうなると、自分はどこに行けばいい・・・・・・)
自分はあまり幻想郷について詳しくない。
(・・・・・・そうだ!霊夢の所に行こう!)
仮にも彼女は幻想郷最強。彼女に少し訓練に付き合ってもらえば強くなれる。そう思い経ち、家を後にしたのであった。
「いやよ」
霊夢の口から出たのは自分の思っていたこととは違った。
「なんでだ?」
「めんどくさいじゃない。だいたいなんであんたを訓練しなきゃいけないのよ。私にとって何か得になることがあるのかしら?」
「うっ・・・・・・・・・・・・」
そういわれればそうだ。霊夢は強い。そんなことは戦わなくても判る。霊夢にとって弱い自分と戦うことは無駄でしかないのだ。
(・・・・・・だがこのままだと博霊神社に来た意味がないぞ。せっかく急いできたっていうのに・・・・・・どうしたものか・・・・・・)
「そんなに自分を鍛えたいなら、幻想郷巡りでもしたらどうかしら?」
紫がスキマから上半身を出して聞いてくる。
「幻想郷中に強者がいるわ。それを捜すついでに幻想郷の事も知ってきなさい」
確かにそれも一理ある。
(・・・・・・だが・・・・・・)
「自分はどこに向かえばいい?」
いくら強者がいるからと言ったって、幻想郷の事に乏しいので、どこに向かうべきなのか見当がつかない。
「・・・・・・そうね・・・・・・冥界なんてどうかしら?」
「冥界?」
「都合がいいのよ。あそこには今のあなたと同じように、強くなるために毎日鍛錬をしている娘がいる。あなたにとって丁度いいんじゃないかしら?」
「別に構いはしないんだが・・・・・・冥界なんてどうやっていくんだ?」
(冥界って死後の世界だろう?死んでもいない自分がどうやって?・・・・・・)
「こうやってよ」
昨日と同じく自分の足元にスキマが開く。
「またかよ!!!!」
隙間の中の空間を落ちていく。
「頑張ってらっしゃい〜〜〜」
落ちる途中紫の陽気な声が聞こえた。
「覚えてろよーーーーーー!!」
下を見ると地面がある。今度はきちんと受け身を取って衝撃を和らげた。上を見る。暗くて良く見えなかったがそこには閉じかかっているスキマらしきものがあった。
(あそこから落ちたのか・・・・・・どうやら、戻るのは無理のようだな・・・・・・)
そう思っている間にスキマらしきものは完全に閉じた。
「さて、どうしようか」
冥界に来たのはいいもの、その鍛練している娘どころか、何もない。その代わりに無数の、光を放つ物が至る所にあり、それらは同じ方向に向かって飛んで言っていた。
(とりあえず・・・・・・これと同じ方向に向かってみるか・・・・・・)
暗い中、明かりはそれと、道中にある石灯籠だけだった。しかし、明かりと言ってもボンヤリとしたもので、自分の周り以外の景色は判然としない。
(本当にこの方向で紫の言う娘とかに会えるのか?)
中々娘に会えないことので、段々心配になってきた。もう結構な時間歩いている。
「・・・・・・ん・・・・・・?」
何時の間にか目の前に石段があった。どうやら光る物もこの石段の上にある所に集まっているようだ。
(これを登るのか・・・・・・冗談じゃない)
博霊神社の前の石段並に長い。しかし、登る以外に道はなさそうだ。
(仕方がない、登るか・・・・・・)
覚悟を決め、一段一段登っていく。数分後、息があがっていた。
(くぅぅッ、何だってこんな目に!)
口の中は血の味がして、気持ち悪い。
(・・・・・・後、すこしだ・・・・・・)
ようやく階段を登り終える。着いたとたん、崩れるように座り込んだ。
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・きっつ・・・・・・」
(よく登ったぞ・・・・・・)
石段の方を見て思った。その時、
ゾクンーーーーーー。
急に背中に這った悪寒に思わず身を縮ませた。
ズシャッ!!
「なっ!?」
その瞬間、想像しなかった事態に身体を凍らせた。恐る恐る後ろを見てみると、そこには刀を持った少女が殺気を放ちながらこちらに近づいてきた。




