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05話 王立学院とクラス分け

 ほんの数日前にも訪れた場所を見上げながら、レオンは目を細めた。


 王立アストルム学院、その騎士科用の校舎だ。

 先日の試験で無事合格を果たしたレオンは、本日こうしてこの学院に入学することとなったのであった。


 狙っている場所へと少しずつ近付いていけているという実感を覚えると共に、ある種の感慨を覚えるが、まだまだこれからなのだ。

 一つ息を吐き出して気分を切り替えると、前方へと視線を向けた。


 途端に視界に入ってきたのは、同年代の少女達の姿だ。

 先日の試験の時にも似たような光景を目にしたが、その時とは異なり、全員がまったく同じ白を基調とした服を着ている。

 所謂制服であり、学院は制服着用の義務があるのだ。


 と、そんなことを考えていると、ふと視線を感じた。

 誰かから見られている、といよりか、誰からも見られている、と言うべきかもしれない。

 レオンが周囲を眺めているのと同じように、周囲の少女達もまたレオンのことを眺めていたからだ。


 まあ、当然と言えば当然ではあるのだろう。

 こちらの校舎は騎士科専用の物であり、向かっている者は当然騎士科に入学出来た者だけである。

 その中に男が混ざっているとなれば、誰だって気になるし、訝しげな目を向けることになろうというものだ。


「……ま、制服の問題もあるしね」


 呟きながら自らの身体へと視線を下ろせば、そこにあったのは黒を基調とした制服であった。


 そう、彼女達が制服を着ている制服とは色の時点で違い、服のデザインも色々と異なっている。

 割と派手目な印象を受けるリーゼロッテ達の制服に対し、レオンの着ている服装は地味目だからだ。


 男女の差というものを考えても同じ学院の制服とは思えないほどの差があるが、ある意味でそれは正しい。

 王立学院には騎士科の他にもう一つの学科が存在しているが、レオンの着ている制服は本来そちらのものだからだ。

 無論レオンがそっちの制服を着ていることには理由があり、それは期日までにレオン用の騎士科の制服が用意できなかったからである。


 この世界で服とは、基本的にオーダーメイドで作られているものだ。

 なのに全員分の制服が入学までにしっかり用意出来ているのは、ある程度予想した上で事前に用意しておいているからである。


 人数は大体決まっているし、本来であれば騎士科は女性のみしか入らないのだ。

 多少それぞれのサイズを多めに作っておけば、基本的には事足りる。


 だがレオンという男が騎士科に入るというのは完全な予想外だ。

 そのため、レオンの制服は用意されておらず、こうして一時的な措置としてもう一つの学科の制服を着るしかなかった、というわけである。


 ちなみに王立学院に存在しているもう一つの学科とは、もちろん騎士科と異なり基本女しか入らないということはない。

 が、実はそっちもそっちで特殊で、基本男しか入らない学科なのだ。

 そしてだからこそ、レオンが着る用の制服を問題なく用意することが出来たのであった。


 ともあれ、この制服の違いはそういうことであり……まあ、気にする必要はあるまい。

 不可抗力であるし、何よりもレオンはしっかり試験に合格した結果としてここにいるのだ。

 誰に文句を言われる筋合いもないと、視線が集まる中を歩を進めていく。


 それに、時間に余裕を持ってはきたが、初日であることを考えればあまりのんびりすべきではないだろう。

 校舎の中はまだよく分かっていない上に、自分がどこのクラスに所属することになるかはまだ分かっていないのだから。


 アストルム学院騎士科の定員は約百名だ。

 しかしその全員を一度に教えるのは難しいため、一クラス二十人前後に分かれるようになっている。

 つまりはAからEまでの五クラスあるということで――


「いや……厳密には、あと一クラスあるんだっけ?」


 Fクラスという、特別なクラスだ。

 もっとも、詳細は不明であり、何よりも基本的には使われることなくここ二十年ぐらい使われることはなかったとかいう話なので、まあ気にする必要はないだろう。


 ともあれ、その五クラスのどこかに所属して学院生活を送ることになるわけだが、そのクラス分けが発表されるのは今日なのだ。

 何でもどこのクラスになるかによって今後が大きく変わってきてしまうため、ギリギリまで精査したいからだとか。


 クラス分けの基準は基本的には成績順であるが、他にも将来性などが加味されることもある。

 要するに、今は大したことはないが、将来騎士として化けそうだという者なども評価されるのだ。

 主に才能限界のことではあるが。


 そうして好成績となった者から順に、Aクラスへと配属されていく。

 つまりAクラスになった者とは、優秀だと判断された者ばかりとなり、必然的に相応な教育が行われるようになる。

 Bクラス以下とは明らかに扱いそのものが変わるほどで、それはBクラス以下の者達を奮起させるためでもあるらしい。


 とはいえ、才能に恵まれた者が環境にも恵まれたらさらに伸びるのは当然で、クラス替えは年に一回あるものの、ほぼ変わらないという話だ。

 今後がどのクラスになるか次第かというのもそういうことで、周囲の少女達の顔が期待と不安が混ざったようなものなのもそれが理由なのだろう。


 と、人の流れに従うように足を進めていると、人の集まっている場所へと辿り着いた。

 その奥には巨大な紙か何かが張り出されているようで、どうやらクラス分けの一覧であるようだ。


 その前で一喜一憂している少女達の姿を横目に、レオンはまず左端へと向かう。

 上の方に大きくAという文字が書かれているのが目に入ったからだ。


 正直なところ、レオンは先日の試験でかなりの高得点を取れているという自信がある。

 魔獣を倒したら減点とかいうまさかの評価方法が採用でもされていない限り、高得点は間違いないはずだ。


 尚、厳密にはあの魔獣と戦った試験の後に筆記の試験もあったりしたのだが、あれは考える必要はあるまい。

 異様なまでに簡単だったからである。


 レオンは公爵家でかつて教育を受けていたことはあるものの、それも七歳までだ。

 しかし出された試験は、その時点の知識だけで解けるようなものばかりだったのである。

 ということは、元より筆記は重視されていない、ということに違いない。


 まあ、懸念事項があるとすれば、才能限界が0ということだが、これは加点が得られないというだけのことなので問題はないはずだ。

 むしろどちらかと言えば、レベルが0だということの方を問題視されそうな気もするが……これも、魔獣を実際に倒せている以上は大丈夫なはずである。


 ともあれ、そういうわけでレオンはAクラスになっている可能性が高いというわけで――


「…………あれ?」


 思わず不思議そうな声が漏れてしまったのは、レオンの名前がどこにもなかったからであった。

 二度確認したところで、やはりない。


「あー……うん。これは大分恥ずかしいやつだな、僕……」


 Aクラスになったはずだとか自信満々に考えておきながら違ったとか、誰かに知られたら憤死するレベルだ。


 自分の番が来るまでに見学していた他の受験生の試験内容から、自分は高評価に違いないと考えていたのだが……そうではなかった、ということなのだろう。

 自分よりも高評価を得られた者達が二十人以上いたか、あるいは、思っていた以上に才能限界の加点が大きいのか。

 何となく釈然としない思いはあるも、事実として示されてしまっている以上は仕方があるまい。


 まあ、これから騎士になろうとしている者達なのだということを考えれば、今の自分よりも上の者達がそれだけいても不思議ではないのかもしれない、などと思いながら、ならばBクラスかと隣の一覧を眺め……だが、そこにもレオンの名はなかった。

 いや、それどころか、CクラスにもDクラスにもなく、これはもしや何かミスがあったのでは、などとまで思い始め――


「……うん? いや、え、ちゃんと名前あったけどさ……え?」


 思わず困惑してしまったレオンだが、それも仕方があるまい。

 名前は見つかったものの、それはEクラス、でさえなく、そのさらに隣。


 ――Fクラス。


 基本的には使われないと言われていた、そのクラスであった。


 見間違いかと思って何度か確認してみたものの、レオンの名前がそこから消えることはない。

 これは一体どういうことなのだろうかと思いつつ、周囲のざわめきに紛れるように溜息を吐き出すのであった。

次の更新は夕方頃だと言ったな。

すまんありゃ嘘だった。

というわけで、予想以上に応援していただけているため、お礼の意味とあとここで更新すればさらに応援していただけるのではという下心により朝にも更新してみました。

尚、そういうわけですので、夕方は夕方で更新予定です。

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