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11話 少女のクラスと順番

 扉の方へと視線を向ければ、予想通りと言うべきか、そこにいたのはザーラであった。

 そのまま無遠慮に部屋の中へと入ってくると、気楽な様子で片手を上げてくる。


「おう、悪いな。邪魔したか?」


「……そうですね、正直ちょっと邪魔でした」


 どういった理由によるものであれ、イリスと二人きりであったことは事実なのだ。

 だからそう返すと、ザーラは驚いたように軽く目を見開いた。


 そしてそれから、面白そうに笑みを浮かべる。


「はっ、言うじゃねえか。つーかお前そんなこと言うやつだったんだな。ま、逆にちょっと安心もしたが」


「安心、ですか? むしろ状況を考えれば安心しちゃ駄目な気がするんですが……まあえっと、それでどうかしたんですか?」


 まさか何の用もないのにやってきたということはあるまい。

 講師というのはそこまで暇でもないだろうし……まあ、ああは言っていたものの、本当に大丈夫なのか様子を見に来た、という可能性は有り得るが。

 一人部屋ではなく、相部屋であったわけだし。


「ああ、もちろん用事があったから来たんだが……少なくとも心配になって様子を見に来た、ってわけじゃねえぞ? 何せ相手が相手だからな」


「……まあそりゃ当然僕が相部屋になることも相手が誰なのかも知ってますよね。何で言ってくれなかったんですか?」


「いや、相部屋だってことは言っただろ? お前がどう捉えたのかまではオレも責任持てねえしな」


 そんなことを言いながらもニヤニヤ笑っているので、どう考えてもわざとであった。

 というか、そういえばさっきはつまらんとかも言っていたなと思い出す。


 手合わせの件とかから何となく分かってはいたが、どうやらこの人はそれなりにいい性格をしているらしい。


「……まあ確かに、僕が勝手に勘違いしただけではありますが。ですが、本当に何かあったらどうするんですか?」


「だからその心配はしてねえっつってんだろ? 二重の意味でな」


「二重……?」


「お前が何かをしようとしたとこでさすがに厳しいだろうってのと、どうにか出来るんならそれはそれでありだって意味だ」


「はい……?」


「どうにか出来るってんなら、お前がそれだけの力を持ってるってことだろ? むしろオレ達にとっちゃそっちの方が都合がいいってのまである。オレ達騎士にとっては力が全てだからな。誰かに何をされようが、弱いのが悪い。騎士にとって弱いってのは罪だからな。お前が聖剣の乙女を超える力を持ってるってんなら、望むところだ」


 冗談のような言葉であったが、目を見る限り本気であるらしい。

 その様子からふと思い出すのは、ザーラが騎士のことを何と言っていたかだ。

 なるほど脳筋かと、溜息を吐き出した。


「まあ少なくとも僕にそのつもりはないって改めて言っておきますよ。超えるつもりはありますが、無理やりってのは趣味ではないので」


「はっ、つまらなくもあり面白くもあるって感じだな。ま、いい。で、本題だが、寮での暮らし方を教えるのを忘れてたってことを思い出したんでな。それを伝えに来たってわけだ」


「ここでの暮らし方、ですか? 何か決まりごとがある、と?」


「基本的にはそこまで堅苦しいのはねえが、食事と風呂に関してだけはクラス順だって決まってる。ぶっちゃけここの食堂も風呂も、全員が一度に入れるほど広くはねえからな」


「ああ……風呂はどうしようか寮の人達と相談しようかと思ってたんですが、クラス順なんですね。ならリーゼロッテ達と相談するだけで済むのか」


 それは朗報であったし、伝えてくれて助かった。

 が。


「というか、それどう考えてもさっき伝えてなくちゃ駄目なやつじゃないですか? 必須な連絡事項の一つですよね?」


「まあそうなんだが、他のクラスでも講師から伝えられてるやつは多くねえと思うぞ? どうせ相部屋のやつから教わるからな」


「相部屋の人から?」


「おう。学院に入ってくるやつってのは、色々と初めてのことが多いやつらだからな。かといって講師もいちいち教えたり手伝ってやる暇はねえ。だから相部屋ってのは、基本同じクラスのやつ同士になるし、片方は上級生になるんだよ。ここだって(・・・・・)そうだしな(・・・・・)


「……え?」


 その言葉に、反射的にイリスへと視線を向けた。


 今まで話に口を挟んでこなかったイリスは、自分には関係ないことだと思っていたのか、不思議そうに首を傾げている。

 だが今の言葉からすると、つまりはそういうことになるのだろう。


「……どうかした?」


「えっと……君ってもしかして、Fクラスなの?」


「うん、Fクラス。……そういえば、わたしが一人だったのは、他にFクラスの人がいないから、だったかも? ということは、君も?」


「うん、Fクラスなんだけど……」


 と、そこで、そういえば、と思い出す。

 先ほど訓練場でザーラは気になることを言っていた。

 Fクラスには、レオン達三人の他にもいる、と。


 ザーラに目を向ければ、今頃理解したかとでも言わんばかりに唇の端が吊り上げられた。


「ま、そういうことだ。あまりにも特殊で他と一緒には扱えねえからな。つーか、そもそもそういった時のためのFクラスだぜ?」


「言われてみれば確かに納得なんですが、でも確か二十年ほどFクラスは使われてなかったはずじゃ……ああいや、そういえば」


 ここ二十年ぐらい使われることはなかった(・・・・)

 過去形だ。

 あれはてっきり自分達がFクラスに所属することになったから、ということかと思っていたのだが……イリスが去年Fクラスになっていたから、ということだったのだろう。


「ちなみにFクラスに所属してるやつは数も少ねえし色々と特殊だからな、教室は一緒だし授業も学年ごちゃ混ぜに行われる」


「なるほど、だから同じ連絡事項を二度聞くことになる、と……あれ、でもそうなると、彼女は既に知ってることをまた聞くってことになりませんか?」


「いや、そいつは去年ちょくちょく騎士団の方から呼び出されてたからな。正式な任務だからそれが理由で留年することこそなかったが、大半の授業は聞いてねえはずだ。それに、入学試験の結果から、お前ら三人はかなり知識があることが分かってる。基本初年度は復習を兼ねてたりするんだが、その大半を飛ばすことで何とかするってことになるだろうな」


「ふーむ……なるほど」


 騎士団とは、その名前からも分かる通り、騎士達の所属している先の総称だ。

 そして聖剣の乙女であるイリスは、学院を卒業していないために正式に騎士団に入団こそしていないものの、予備役的な扱いをされていると聞いたことはある。


 ただ、予備役的な扱いでありながらも、呼び出される頻度は正式な団員とほぼ同じだということも聞いたことがあった。

 確かにそういうことを考えれば、他のクラスに置いておくことは出来まい。


 しかしそこまで納得がいったところで、ふと引っかかる言い方をザーラがしたことに気付く。

 三人というのはおそらくレオンを含めてなのだと思われるが、かなり知識があるとはどういうことなのか。

 ……もしかしたら、何か認識にずれがあるのかもしれない。


 そう思ったものの、問いを発する前にザーラは話を先に進めてしまった。


「っと、話が逸れたな。で、だな、そういうわけで本来オレ達から寮での生活について何かを話す必要はねえんだが、あっちは新入生同士で説明出来るやつがいねえし、こっちはこっちで説明されるか疑問だしな」


「……確かに?」


「いや、君がそこで肯定しちゃ駄目なんじゃないかな……?」


 ザーラの言葉に素直に頷くイリスに、思わずツッコミを入れる。

 まあ、ここに来てからのやり取りを考えると、正直否定出来ないことではあるのだが。


「で、こりゃまずいなってことに気付いてこうして説明に来たってわけだ」


「なるほど……ありがとうございますって礼を言うべきか迷うところですね……」


 本来であれば説明すべきところを忘れていただけなのだ。

 わざわざ寮の部屋にまで来てはくれたが、礼を言うべきかは正直疑問であった。


「ま、そこはどっちでもいいさ。少なくともオレは気にしねえしな」


「忘れてたところは反省すべきことなのでは……?」


「反省とか知らねえ言葉だな。で、食事と風呂の順番だが、Fクラスは両方最後だ。Aクラスから順に、って感じだな。ちなみにクラス順って言葉の通り学年は関係ねえ。一年だろうとAクラスなら最初ってわけだな」


「Fクラスは最後、なんですか……?」


 そこは意外と言えば意外であった。


 レオン達だけならば素直に納得したかもしれないが、Fクラスにはイリスがいるのだ。

 むしろ最初であってもおかしくはない気がした。


「ああ、お前が何を考えるのかは分かるが、むしろそいつがいるからだな。つーか、本来Fクラスに順番ってのはねえんだよ。気にするほどの人数がいるわけでもねえからな。だってのに、何故かそいつは毎回最後になるまで待ちやがんだよ」


「……邪魔したら悪いから」


「邪魔……?」


「ま、その意味するところはすぐに分かんだろ。もっとも、それはそれで気を使うっぽいんだが……まあいいさ。実際のとこ、大半の場合は待つでもなく必然的に最後になってたしな」


「あー……騎士団からの呼び出しのせいで、ですか?」


「おう。転移魔法を使えばある程度の距離は何とでもなるが、それでも一瞬で何もかもが片付くわけじゃねえからな。大体戻ってくんのは夜遅くになるってわけだ。むしろ夜中近いことも多いな。ちなみにそういう日は次の日の授業が免除される。そいつが授業の多くに参加してないのはそのせいもあるし、昨日もそうだったってわけだ」


「ああ……それで」


 どうして寮にいるのかと思っていたが、今日の授業を免除されていたからだったようだ。


「で、今年からはFクラスのやつが増えるってこともあって、正式に最後に決まった。正確にはEクラスと一緒って感じなんだが、まあそこはEクラスのやつらと一緒でも終わるのを待ってでもどっちでもいい。どうせ最後なわけだしな」


「なるほど……まあ順番とか気にしないっていうか、僕的にはその方が気楽なので問題はないですね」


 話し合うまでもなく、風呂は全員が出た後に入れば問題はなさそうだ。

 そう納得すると、言うべきことは言い終えたのか、ザーラが背を向けた。


「さて、ってことで、今度こそ連絡事項の伝達は終了だ。オレはあいつらにも同じこと伝えなくちゃなんねえし、他にもやることがあるからな。じゃあな……楽しめよ、色々とな」


 そんな言葉と共に去って行くザーラの背を眺めながら、それはどういう意味なのかと、レオンは思わず溜息を吐き出すのであった。

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