シュートの悪魔7
深夜の3時、休憩時間に自動販売機でコーヒーを買ってる彼の後ろにあの男が立っていた。
「なんだ。もう少し待ってれば、奢ったんだがな」
「必要ありません」と彼は答えた。
「なんだ、知ってたのか」
かって、暴言を吐いて連行されたあの男が眉をひそめて呟いた。いつもと様子が違うこの男に彼は首をかしげるのだった。
「吐いてやめた奴いただろ。戻ってきたぞ」
この男の言葉に彼は驚きを隠せないのだった。必要ないと言っていたあの男が戻ってきた。理解できなかった。
「誰だって事情があるだろうが、なんでわざわざここになあ」
ここはとある地域区分局の輸送ゆうパック部、郵便局で最もきついと言われるシュートがある場所である。
「思うんですけど」
「チルドが人手不足だって言ってたな」
この男は彼の言葉をさえぎってニヤリと笑うんだった。この男は彼の考えていることを見透かしているのだった。
「嫌な人ですね」
彼の言葉にこの男は再びニヤリとするのだった。
「俺、上の人から嫌われててさあ。だから、副部長にチルドに入れるように上手いこと言ってもらえないかな。貴様ならやれる。よろしくな」
そう言ってこの男は手のひらをひらひらさせながら去っていくのだった。
仕事終わりに課長に掛け合った。課長は問題なくシュートで仕事していたと吐いたあの男を評価したが、彼は食い下がった。課長は困り果てて副部長に相談した。結果、吐いたあの男はチルド担当になった。
翌日、22時に出勤した彼は、担務表を睨みつけるあの男に出会った。
「どうしたの」と彼は尋ねた。
「名前がないんです」
この男は困惑しながら答えた。シュートの担務に自分の名前がないことをいぶかしがってるのだろう。もしかしたら、自分がいつのまにか解雇されていたのかもと思っているのかもしれない。
「ここにあるじゃないか」
彼がチルド担当の欄を指で指し示すと、この男はその欄をじっと見て、しばらく動かなかった。
シュートでは4時30分から5時まで休息に入っていた。あくびをしながら向かったカップ自販機の前に吐いたあの男が立っていた。何にするか迷ってるらしかった。うむを言わさず彼は返却レバーを引いた。入れたばかりの100円が音を立てて返却口に落ちていった。
「何をするんですか」
あの男はいきなりのことに声を荒げた。
「奢るよ」と彼は言った。
「ひ」
この男はでかかった声を引っ込めって「ありがとうございます」と小さな声で言った。
もう必要ないと言う必要はないのだと彼は思った。