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タイムマシン実験記録  作者: 蒼樹たける
僕たちの時間旅行革命記
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学校生活の流れ

 空き教室に入った僕は、宏樹が飛び降りた原因について予想したことを、光太郎に話そうとしていた。


「宏樹さんの話というと、舞さんに違うって言われて喧嘩してた話?」


 彼に聞かれて、僕は答えた。


「そう。舞には違うと言われたけど、やっぱり宏樹が抱えていた悩みは部活のことだと思う。宏樹に憧れている後輩と話して思ったんだ。宏樹はきっと、この学校の空気に追い込まれたんだ」


「空気?剣道の全国大会のプレッシャーじゃなくて?」


「うん。僕も最初はそう考えたけど、実際の原因はこの学校の空気だと思う。『ブラック部活』って言葉知ってるか?光太郎がいる未来にこの言葉があるのかは知らないけれど、今にはあるんだ。好きなことをするために部活に入った生徒に対して暴言を吐いたり、強制的に休みなしで練習させたりして、生徒の体と心をボロボロにしてしまう部活のこと」


「いや、聞いたことないな」


「昔だと『練習中に水を飲むと体力がつかない』という根拠のない理論を信じて生徒に強要したような部活のことだ。その原因は生徒を指導する教師の知識不足にあると言われているけど、教師に悪いことをしている自覚がない分、直す気も無くて余計たちが悪いものなんだ。生徒が強くなるために効率のいい練習を知らない教師は、練習量を増やして、厳しくするしかない。生徒のために良かれと思ってやってるからこそ、何か事件が起きない限り、自分の間違いに気づかない。生徒にとってはとても危険な状態にあると思う」


 光太郎は聞き覚えのない『ブラック部活』という言葉の説明に対して、質問をしてきた。


「休みなしだったり、悪口言われるのが嫌なら辞めればいいんじゃないの?」


「光太郎がそう言うのなら、未来ではこの状況は改善されているんだろうな。良かった。けど今のこの学校の部活では一人の生徒がその決定をするのはなかなか難しい。この学校は文武両道の精神を掲げていて、高校生はみんなが部活に入って当たり前、何よりも部活と勉強を一生懸命やるべき、という考えなんだよ。さらに、部活に入らないものは怠けもので、同じ部活に入っているものは苦楽を共にするかけがえのない仲間だけど、そこを辞めたら苦しいことから逃げた裏切り者。そんな雰囲気がこの学校にはある」


 驚いたような相槌を打ちながら話を聞いていた光太郎に、僕は話し続けた。


「特に宏樹のような人はもっと厳しいだろうと思うよ。『全国大会にまで行く人にもなれば、応援してくれる同じ学校全員のためにも休みなしで練習して当たり前。それでも優勝できなければみんなに申し訳ない気持ちを持つべきだ。』みたいな圧力を掛けられていてもおかしくない。実際に、優勝できなかった宏樹は引退後も後輩の指導を強制させられていたみたいだ。優しい宏樹は自分や自分の後輩のためを思って厳しくする教師の命令には逆らいにくかっただろうな。ほかにも、優秀だからこそかけられる周りからの強い期待に応えるために、無理して努力してたんじゃないかな。僕も含め宏樹の周り全員の期待が、彼を追い詰めたんじゃないかと思うんだけど、どう思う?」


 この学校の部活についての僕の考えを聞き終わった光太郎は答えた。


「まるで戦時中みたいなゾッとする考え方だと思う。正直言ってピンとこないけど、そんな空気の中で無理をしていたら、精神的に追い込まれても仕方ないかも」


「僕も戦時中とまではいかないけど、おかしい考え方だと思う」


 そう言いながらも、僕はこの考え方を少しは理解できていた。みんなががんばっている中で楽をしている帰宅部や部活をやめる人を責める嫉妬の気持ち、効率のいい練習を知らない教師が生徒に試合で勝たせて期待に応えさせるために、休みの日に大量の練習をさせる気持ちは、良くないとは思いながらも、現在の高校生の僕には少し理解できた。

 だからこそ、未来の高校生である光太郎がこのことが理解できないといったとき、僕は少しほっとした気持ちになり、彼に質問をした。


「光太郎も高校生だったよな。未来の高校生活は楽しい?毎日どんな感じ?」


 光太郎はそんな僕が急に言ったふわっとした質問にもちゃんと答えてくれた。


「楽しいよ。毎日友達とあそんだり、映画を観たりして。割と何をしても楽しいかな」


「それは良かった。そうだよな、高校生なんて何をしても楽しい時間だと僕も思うよ。だからこそ、過去に生きている僕たちは、未来の光太郎たちのためにやらなきゃいけないことがあるのかもしれないな」


「どういう意味?」


「何でもない。ただのかっこつけだよ」


 そう言って僕は光太郎からの質問を誤魔化したが、実はその時これからの行動の計画をひそかに考えていた。それがうまくいけば、宏樹だけではなくもっと多くの人を巻き込み、迷惑を掛けることになるだろうという事を分かっていながらも、僕はある思いからその計画を実行しないわけにはいかなかったのだ。


つづく

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