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タイムマシン実験記録  作者: 蒼樹たける
僕たちの時間旅行革命記
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革命の始まり

 これは僕が17歳の夏の話。

 映画オタクの僕が、放課後にタイムマシンと未来人に出会い親友を助けるまでの、たった数時間の話だ。



 八月の下旬、二学期の始業式の日。

 夏休みのだらけた気持ちと蒸し暑さが残る中、この学校の全校生徒が体育館に集めさせられていた。みんなで校長先生のありがたい話を聞いた気がするが、僕はその内容をほとんど覚えていなかった。始業式の中で僕が覚えていたのは、剣道部のインターハイで四位になった坂本さかもと 宏樹ひろきが全校生徒のみんなに優等生らしい立派なコメントを言っていたことくらいだ。確かそっちの内容はこんな感じだった。


「ありがとうございます。この結果は、僕に学校が休みの日でも指導をしてくださった剣道部の顧問の先生、それに応援してくれたみなさんや、剣道部の後輩、クラスの友達、生活面で支えてくれた両親など、みんなで勝ち取った結果だと思っています。これから僕は大学受験のために勉強を頑張らなくてはなりませんが、この輝かしい結果を心のよりどころにして頑張っていきたいと思います。本当にみなさんありがとうございました」


 やっぱり優秀な奴はたいていのことはうまくできるんだなと思いながら、僕は教室に戻って休み明けの授業を受けた。



 僕は桜井さくらい 隆之介りゅうのすけ。映画を観ることが好きな高校三年生だ。これと言ってクラスで目立つ存在でもなかったが、自慢の友達が二人いた。


 その友達の一人は、剣道部の坂本 宏樹。彼は長身で顔もカッコよくさらに、剣道部の主将でありながら勉強も県内トップクラスといった完璧超人で、みんなからのあこがれのマトだった。

 彼とは小学生の頃からの付き合いで、人気者になった今でも昔と同じように帰宅部の僕と話してくれるいいやつだ。


 もう一人は広瀬ひろせ まい。吹奏楽部に入っていた同じクラスの女の子。彼女もあまりクラスでは目立つタイプではなかったが、ショートヘアーがお似合いのかわいい子だった。普段はおとなしいが、言いたいことがある時は周りを気にせずはっきり言う性格で、そんな彼女に僕は密かに恋をしていた。


 彼女も映画が好きで、たまに別々に観に行った映画について二人で話したりする仲だった。

 彼女と出会ったのは高校二年生の時。新しいクラスになった最初の自己紹介の時に、僕が映画を観ることが好きですと言ったことをきっかけに、近くの席の彼女が話しかけてくれたのを覚えている。お互い周りに映画好きの人がいなかったため、僕らは他の人にはできない昔の映画の話をしながら仲良くなったのだ。


 僕が彼女と話している時に宏樹が入ってくることも多かった。宏樹は人見知りを全然しないためすぐに彼女とも仲良くなり、それからは三人で話すことが多くなった。


 宏樹が話に入ったことによって僕と彼女が二人で話す時間は減ったが、彼がいると周りの人みんなが楽しくなるため、三人でいることに悪い気はしなかった。

 宏樹のようなかっこいい男と仲良くなって、舞が彼のことを好きになったらどうしようと思ったこともあったが、むしろ宏樹ほどのいいやつのことをもし彼女が好きになったのなら、涙を飲んでその恋を応援してあげようかとも思っていたぐらいだった。


 もちろん、彼女に気持ちを伝えて自分の恋を成就させたい気持ちもあった。しかし、迂闊に行動して三人の楽しい時間がなくなるのが怖くて、なかなか行動できずにいたのだ。当然デートに誘うなら映画だろうとは考えていたが、宏樹と三人で行くばかりで、二人きりで行こうと誘う勇気が出せずにおよそ一年が過ぎていた。



 三年になってから宏樹は受験勉強や部活が忙しくなり、前ほど一緒に遊んだり放課後に話したりする時間は無くなった。

 特に剣道の全国大会が決まってからの宏樹の集中と周りからの期待はすさまじいものであった。そのため、気を散らしてはいけないと思い、あまり自分から話しかけなくなっていた。そのおかげかどうかは分からないが、彼は見事に全国四位になることができたのだ。

 先生たちは優勝してもおかしくないという事を全校生徒に話していたため、彼が四位になってがっかりしていた人もいた。しかし僕は素直にすごいと思い、彼におめでとうと伝えた。お祝いのために今度どこかに遊びに行こうとメールで誘っていたが、何かと忙しいようで断られていた。

 全国四位になったことで、彼は前よりも自慢の友達になったが、少し遠くに行ってしまった気がしていた。

 しかし、舞とは一緒に図書室で勉強をするという名目で二人になる時間が多くなった。僕は辛い受験勉強の中でも、少しは彼女との距離が縮まってきたのかなと感じる悪くない日々を送っていた。



 そして二学期の始業式の日。

 いつものように授業を終えて、舞と約束をしていた図書室に行こうとしていると宏樹が話しかけて来た。剣道部はもう引退したと思っていたが、彼は部活の道具を持って僕に近づいた。僕はそんな彼を見て、勉強の息抜きに剣道部の様子をでも見に行くのかなと思ったのだ。

 いつも明るい彼だったが、その時は真剣な雰囲気だったことを覚えている。なにかあったのかと思い彼の話を聞こうとしたが、僕のその行動はすぐに第三者によって遮られた。


「ちょっといいですか?」


 見たこともない同い年ぐらいの男が僕たちに話しかけて来たのだ。

 学生服が制服の僕らの高校だったが、彼はブレザーを着ていた。なので見たことはないが違う学校の生徒だろうと思った。パッと見モテそうな茶髪のイケメンで、僕が普段関わるような感じの人ではなかったので、初めは顔の広い宏樹に話しかけたと思っていた。しかしどうやら、その男は僕に話しかけているらしかった。


 彼は話があると言って僕を廊下に連れ出し、僕は普段は誰も来ない突き当たりにまで連れていかれた。彼に言われるがままについてきたが、僕は彼を不審に思っていた。それも当然である。その時の彼は、廊下を歩きながら次のようなことをいきなり僕に聞いてきたのだ。


「聞きたいことがあるんですけど、舞さんとあなたはいま付き合っているんですか?宏樹さんも含めた三人って、今はどんな関係なんですかね?」


 この男はいったい何なんだ? その時の僕はそれしか頭になかった。僕が何も答えずに怪しんでいると、彼は少し間を空けて自分から話し始めた。


「俺は広瀬 光太郎といいます。隆之介さんと同じ17歳で高校三年生ですよ」


 彼は爽やかな笑顔を浮かべて、僕に自己紹介をした。僕は自分から彼に名乗った覚えは無かったが、彼は僕の名前を知っていた。広瀬という名字からきっと広瀬 舞の親戚か何かで、彼女から僕のことを聞いているのだろうと思った。

 そう思って彼の顔を見てみると、そのイケメンの中に舞に似た感じがあるようにも見えた。なので僕が彼に舞の親戚かと尋ねてみると、彼は慌てて次のように言ったのだ。


「い、いや、まぁ、そんなところですけど、舞さんには絶対に俺の名字のこと秘密にしておいてください」


 この二人何かある。見るからに怪しい反応を見て僕は心の中でそう思った。しかし知られたくないことなら仕方がない。僕は特に詮索はせず、僕ら三人がただの友達という事実だけ伝えた。


「もっと具体的に今の関係性が知りたいんですよ。仲良くなったきっかけとか。いいでしょ?」


 彼はそう言ってしつこく聞き続けてきた。しかし、イケメンパワーなのか何なのか、舞に似ている彼に言われると不思議と悪い気はしなかった。だから少しくらいは教えてやってもいいと思った。だが、その時の僕はただで教えるつもりは無く、彼が秘密にしているであろう舞の情報をうまく引き出そうと企んでいた。



 結果として、その作戦は失敗に終わった。彼は舞のことをほとんど何も知らなかったのだ。だから、一方的に舞と僕たちが仲良くなったきっかけを話しただけになってしまった。

 彼が舞について知っていたのは、誕生日、映画好きなこと、好きな食べ物など、舞のことが気になっている人にとっては一般常識と言ってもいいぐらいのことだけだった。だが話してみると彼は、僕にとっては珍しく、なかなか話しやすいと感じる男だった。彼も小さいころから映画を良く観ているという事を聞いてからは、どんな映画を見てきたかなどの話が弾んだ。僕は極度の人見知りだが、彼とは初めて会ったとは思えないくらいに仲良くなることができ、話しているうちに光太郎の不自然な敬語もとれていた。



 そんな時、事件は起こった。

 突然、女性の叫び声のようなものが聞こえたのだ。何事かと驚いたが、しばらくすると放課後で人気が少なくなったはずの廊下がざわつき始めていた。そして、廊下で騒いでいる人の声の中にこういうものが聞こえたのだ。


「剣道部の坂本が屋上から飛び降りたらしいよ」


 僕は耳を疑った。

 すぐにそれが本当か聞きに行こうと思って慌てたが、隣の光太郎を見ると僕よりももっと驚いていて、取り乱しているようだった。


 その時の僕は、彼がなぜそんな反応をしていたのかが分からなかった。ましてやこの時、裏で起きていたある思惑による事件の真相については、僕たちは知る由もなかったのだ。


つづく

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