最初の友達『★』
合成室には機械から放たれる無機質で単調な音だけが繰り返し響く。
「二軍にもうすぐ上がれるとかって言ってたね、あの人……」
「全く……こんな事したら本来は教師達に報告しないといけないんじゃないのか?」
「でも変にチクったりしてさ、あの人に絡まれちゃうのもヤダよねー」
「さっきの様子だと、僕達の序列が極端に低いのは既に周りの生徒達に行き届いてるんだろうね」
「どーして?」
「今みたいに押し付けやすいからね。『どうせ序列が低いんだから多少の雑用を任せても学園には大した影響がない』ってね。むしろより上を目指す人は、自分の為の時間を作れるから下手すりゃお互いに得するとまで思ってそうだよ」
「なんだかなー。ルル達は別にいいとして、他の生徒にもみんな平気な顔してやってんのかなぁ」
「逆に言えば、それだけみんな必死なんだと思うよ。少しでも自分は他より高くありたい、って思ってる意識からじゃないかな」
試験官が最初に言っていた『今後大変かも知れない』という意味は、二人が三軍の現状を目の前で見る事でようやく実感できたのだった。
「あ、あのぉー……」
そんな重くなった空気の中、入って来たのは一人の白髪の女子生徒だった。
「あれ、もう交代の時間だったっけ?」
「ううん、まだ35分あるよー」
そんな早くにどうして、と思った二人の心中を察したのか、焦りながら口を開く。
「い、いえ……多分レイラが忙しくって手に着かないだろうなって思って、早めに来たんです。本当はレイラの次は私の番だったので……」
「ああ。要するに二人の間に僕等が割って入る格好になっちゃったのか」
「じゃールル達時間を間違えたって事? ごめんなさーい」
「ああ、ち、違うの! 別に責めてるのとかそんなのじゃなくって……!」
妙に慌てる生徒の姿がルルナにとって可愛かったのか、にこやかに笑う事でそれまで部屋に漂っていた重苦しい空気が幾ばくか和らいだ。
「あ……自己紹介が遅れました。私、魔法騎士序列『32451位』のリアンって言います」
「シャルルです。なんだか年齢が近そうですけど、もしかして同い年とか?」
「今は15歳ですね」
「あ、じゃー同じだー! ルルナって言うの! ルルって呼んでね!」
「は……はい。よろしく……お願いします」
「んもー敬語なんか使わなくていいのー!」
「うん、よろしくね」
多少強引でも、気付けば明るい笑顔に自然と惹き込まれるのがルルナの一番の魅力だ。それは少し固い態度だったリアンも同じで、彼女もルルナの無邪気な笑顔に誘われるように同じ笑顔になっていた。
「あれ……32451位って。あの……非常に聞きづらいんだけど、もしかして……」
「あ、いいのいいの。いつもの事だから気にしないで、私半年前からずっと『学園最下位』だから」
「えーウソ―! こんな綺麗で真っ白な髪してるのにー? いい髪を持つ女の子にはものすごい魔力が宿るってママいつも言ってたよ?」
「それもたまに言われるんだけど、私には縁のない迷信だったみたい。現に魔法なんてちょっとしか使えないし、戦いだってみんなの足を引っ張りまくりだし」
「そうなのか……じゃあどうしてリアンはこの学園に?」
シャルルにしてみれば、それはごく自然に沸いた疑問だった。
――のだが、ルルナとしては女性に問うには不躾な言い方だと、思わず頭を引っぱたかずにいられなかったようだ。
「学園に在席している間は、ある程度の生活が保障されるの。私のお家は凄い貧乏で、お母さんが『このまま家にいて侘しい思いをするよりなら、学園にいて少しでも豊かな生活を送りなさい』って言ってくれたの」
「で、でも……言い方がまた失礼になっちゃうけど、本当に合格できるか分からないんだし、ちょっと危ない橋だったんじゃないの? 別にここじゃなくったって……」
「さっきルル達と別れた女の子いたでしょ? あの子……私の『幼馴染』なの」
――どうやら、双子の中で線が繋がったようだ。
シャルルとしてはもっと色々聞きたい事はあるだろうが、それこそ今度は引っぱたく程度じゃ済まないかも知れないと、大人しく受け手に回るのだった。
「私とレイラがここに来たのは二年前なんだけど、レイラは魔法をもっと上手くなりたいって昔から口癖のように言ってて、それでやっと最近二軍に上り詰めるチャンスを掴んだんだってすごい喜んでるの」
「それで忙しそうにここから去っていったのか……」
「うん。だからあの子と一緒の生活をこれからもしたいなーって思って、私なりに必死で特訓したり勉強したの。……でも入ったはいいんだけど、やっぱりこの学園に在席しているだけで私は精一杯だし、こんな湿っぽい性格だから友達は今でもいないのに、レイラはどんどん新しい友達作って魔法の腕も上達して、いつの間にか遠い存在になっちゃったなーって」
「そうなんだね……リアンも色々大変だ」
「えっとじゃあさ、リアンってさっき友達誰もいないって言ったよね?」
「うん、そうだけど……?」
「じゃあさ、ルルが『最初の友達』になったげる! ううん、なりたい!」
「えっ、ええ……!?」
そう言って、ルルナは満面の笑みでリアンに手を差し出す。
リアンもシャルルも、上辺などではなく純粋にそうなりたいと言っている気持ちは伝わっていた。
だからこそなのか、リアンは中々その手を取ろうとはせず躊躇うばかり。
「き、気持ちはとても嬉しいけど、こんな私なんかと関わったら面倒な事になるよ? だって、私『序列最下位』だからずっと雑用ばっかりだし……」
「大丈夫! ルル達もその為にここに来たような感じだし、それにずっと前から友達がほしかったの! ダメかなー?」
「い、いいの……?」
「もっちろんだよ!」
「本当に私なんかと深く関わったら駄目だからね? 面倒になるんだからね?」
「いいのいいの。面倒事、どんとこいだよ!」
「どんと来られるのも、それでまた……」
そして恐る恐るながらも――二人は握手を交わす。そして隣にいたシャルルとも。
少し恥ずかしそうなリアンの顔がルルナには一層可愛らしく見えたようだ。
「……じゃあよろしくね、ルルナ。それにシャルルも」
「こっちこそよろしくリアン! 呼び方リアでもいいかな?」
「うん、ルルナの好きな風に呼んでいいよ」
「じゃ折角リアンさんも来てくれたし、合成作業をパパっと終わらせちゃおう!」
「おー! ところでこんなに沢山のポーションとかエーテルって何に使うの?」
「えっと、支給用のアイテムみたい。生徒がダンジョンとかに挑戦する時に毎日500個近く消費してるみたいだから、これでも在庫がまだ足りないみたいよ?」
――毎日これだけの数を消費しているのかと、本日最大の衝撃を受けながら初めてできた『友達』と一緒に合成作業に再び取り掛かるのであった。




