やっと笑ってくれた!
――アルカディア学園・双子の部屋――
「私の名前……ですか?」
レイシアがこの言葉を口にする前に、時間は少しだけ遡る――。
部屋に戻って来たシャルルを迎える頃にはレイシアも落ち着きを取り戻し、ルルナを初めとする『グローリィ』の面々も揃っていた。
改めてシャルルは理事長室で話した内容も明かし、これから『何か』が起ころうとしている事も含めて話した。そしてそれは開催を間近に控えている『ラグナロク』で起こる可能性が高く、学園始まって以来の一大事である事も、だ。
ただし、それはそれとして、双子にはここにまで連れて来た『彼女』をまず何とかしなくてはならない。差しあたって今重要なのは、『レイシア』という一人の人間を今後どうやって支えていくかだとルルナは提案し、皆もそれに頷いたのだった。
「終わってみればさ、ユートルゥナなんて国、ひっさしぶりに聞いたよなー。アタシもドワーフの国にいた時にどっかで目にしたくらいだ。レイシアなんて巫女も全く知らないしな。リアンはどうなんだ?」
「私もほとんど知らないかなぁ……。国の名前だけならなんとか知ってるって程度で……」
いくらかつては一国で群を抜く魔力の持ち主で、かつては『希代の巫女』とまで呼ばれていたとしても、そもそもユートルゥナは世界基準で見れば規模としては大きくはない国。
国の内部で争いが起こる事自体もそこまで珍しい訳でもなく、外部の身からすれば、今回の争いすら精々『また何処かの国が小競り合いを起こしている』程度の認識に過ぎないのだ。ましてやそれが過去に命を亡くした者とあらば、それが他者の記憶に残るなど無くて当然だった。
「でも念には念を入れるに越した事はない。連れ出しといてなんだけども、僕としてはここに居る事はお勧めはしない。……最も、君が『ここに残る意志があるならば』、だけどね」
その言葉で、レイシアは再び顔に陰りを映し出す。
「ちょっとシャル! 折角元気になったのにわざわざ言わなくったってッ!!」
「いえいいんです。お話はルルナさんから聞きましたから。……連れ出してくれたんですよね、私を」
「……いくら君のお父さんの頼みとはいえ、勝手に連れ出した事は謝る。本当に済まなかった」
「そ、そんな……! 頭を上げてください! 本当に大丈夫ですから……!」
シャルルが心から頭を下げたのは、今日だけでも2回目になる。
「何しろ僕の意志で勝手に色々覗いちゃったからね。その辺も含めてだよ」
「……へー」
それを横で聞いていたルルナの目が、悪戯めいた好奇へと変わる。
「な、なんだよ」
「シャルって意外と紳士だったり?」
「君が少し図太すぎるだけだと僕は思うかな」
「へーどの辺がぁ?」
「学園内の購買で1000ゴルドで売ってるエーテルを280ゴルドで買おうとしたり?」
「えーいーじゃんそれくらい。……ダメ?」
「少なくとも三軍のする事じゃないよね? 後は武具掃除を後からやって来た人に押し付けちゃうとか?」
「押し付けるとかそんな酷い事してないし! それは『後はもうやってあげる』って言ってくれるから任せただけだしッ!!!」
「それはまだいい。問題は『悩みもせず即答で受ける』事が問題だと僕は思うんだ」
「ええーいーじゃぁーんそれくらいー! アムだってそれくらいするよねぇ!?」
「アタシに振るな……。じゃついでに聞くけど。今までそれを何回やってんだ?」
「んーとね。『分かんない』」
全員が「ああ、これはダメだな」と久しぶりに一致し――、
「……ふふっ」
それまでずっと伏し目がちだった蒼髪の少女に、ようやく笑みが灯った瞬間でもあった。




