学園生活初日!
身体検査を無事クリア(?)したシャルルとルルナはその後も三つの試験を順調に突破すると、晴れて目的としていた最低ラインでの入学を見事果たした。
「はい皆さんご苦労様でしたー。おお、今回の合格者は113名でしたか。久しぶりに過半数を超えましたね」
結果を知り安堵したのかホッと息をつく受験者が多く、中にはその場にへたり込む者までいたが双子はそんな人達をただただ不思議な目で見るだけだった。
「じゃあ試験結果に応じて配属チームが決まってますので発表しますね。えーと、一軍配属者は9名。二軍配属者は68名。三軍配属者は36名となりました! この掲示板に各クラス配属者と宿舎の案内図を貼っておきますので、後は午後からの『新入生歓迎ダンジョン探索会』まで各自ご自由に! 備品や参考資料などは宿舎に各自転送しておきますからご心配なくー」
結局終始楽し気な顔で去っていった試験官の後、受験生――もとい新入生達の間にはなんとも言えない空気が包む。
取りあえず一息つきたかったのか備え付けのベンチに座って休む人。
荷物をまとめてさっさと何処かへ行ってしまう人。
知り合いと一緒に来たのか少し談話にふける人などを見てる中、シャルルとルルナもこれからどうするか悩んでいた。
「どーするのシャル?」
「ここに居ても仕方ないし、僕等もひとまず宿舎とやらに行こうか」
「いいけどルル達のチームは?」
「――当然三軍だよ」
* * *
「うわボッロ……。ルルここで寝るの……?」
「僕もこれはちょっと……。狭いしかび臭いし……。流石最低チームというかなんというか」
壁のあちこちは年季が入って所々塗装が剥がれ落ち、窓もぼろぼろで天井もシミだらけで、今にも虫が沸いて出て来そうな部屋で夜を過ごすかと思えば、誰もが嫌気を起こさずにはいられないだろう。
「ねーこれ野外で野宿するよりも辛くないッ!? パパたちと世界を周ってた時のテントの中の方がまだ清潔だったよ!?」
「泣き言言ってたってどうしようもない。……さてどうしたものかな」
「あ、制服あるよ。早速着ようよ!」
「そうだね」
「あっち向いててね!」
「はいはい」
「ねーねーシャル。魔法騎士序列だっけ? あれ何位だった?」
「ああ、通常は半年に一回行うっていう、最初にやった『例の身体検査』だよね? ――えっと、『32451人中32183位』だったよ」
「あー負けた! ルルナ『32180位』だった!」
「それくらいなら誤差じゃないのさ」
「パパから言われたのは最低ラインを維持し続ける事だからね。負けるのは嫌なの!」
相変わらずどこかずれているな、と思ったシャルルだがやはり口には出さない。
それからしばらく、がさこそと布の擦り切れる音が部屋に響いてから3分程経った頃、ほぼ同じタイミングで互いに「終わったよ」と声を掛け合う。流石双子だけあってこんな所でも息はぴったりだった。
「お、シャル似合ってるじゃなーい。いつも似たような服しか着ないから、なんだか新鮮だねー」
「あんまり服には興味ないしね……。それとは別に、確かにこの部屋でずっと過ごすのは嫌だね」
うーんうーんとシャルルが思考を巡らせる中で、「そうだ」と明りが点ったようにポンと手を叩く。
「いっそあれだ。部屋を『改造』しよう」
「おーナイスアイディア! ……でもばれたらマズくない?」
「僕達以外の誰かがこの部屋に近づいたら、元の部屋に戻るようにすればいいさ。僕があの魔導測定機に『中和魔法』をかけた時みたいに、この部屋全体に展開し続ければ魔法そのものに気付かれる事も無い。気付けるとしたら『母さんクラス』の人くらいだし大丈夫だよ」
「そだね。むしろママなら『こんな汚い部屋なんかとっとと変化させちゃいなさい!』とか言いそう。パパは基本脳筋だから魔法には元から弱いし」
「……その物理面が半端ない強さなんだけどね。正直今の僕とルルナと同時でも互角かどうかってレベルだし」
無双の名は伊達じゃないなと、その所以を改めて認識した辺りだった。――――不意にドアからノック音が三回響いたのは。
「僕等に用事……? ――開いてますよ!」
扉が開かれた向こうに立っていたのは、一人の大人の女性だった。
見るからに格式の高い艶やかな礼装に身を包み、緑色の髪を後頭部に束ねて正面からうっすらと覗かせるうなじからも、大人としての魅力をより引き立たせていた。
「はぁーいシャルルちゃんにルルナちゃん。しばらく見ない内に大きくなったわねー」
そんな見た目の大人びた雰囲気とは裏腹に、明るい笑みでひらひらと手を振って大袈裟にアクションする女性。
その女性は、今学園にいる人物で最も逢いたかったであろう人物だった。
「おお! 貴方は【星の母なる守護者】である『マーテル・オブ・テレスティア』じゃないですか! 初めて【星の女王】の『クィーン・オブ・テレスティア』を倒した際に出会ったっきりでしたが、本当にお久しぶりです」
「シャ、シャルルちゃん……。その言い方恥ずかしいから普通に理事長って呼んでくれると助かるわ……」
「ああそうでしたね。これはとんだ失敬を……」
「マーテルさああああんお会いしたかったですー! この部屋どうにかならないんですかぁー!? お肌荒れちゃいますよおー!!」
「あ、ああ……。こ……これはね、学園そのものの方針みたいなものだから、本当に残念だけど私一人では決められないのよね。『下の環境はなるべく粗雑にしないと上を目指す気概が生まれづらいから』って。私が趣味で始めたとはいえ、人間って大変よねー」
一見心配を装っていながらも、やはり他人事な感じは否めなかった。
元は神様なのだから当たり前といえば当たり前になるのだが。
「ああそうそう、クィスから大方の話は聞いたわよ。試験も無事にクリアできたみたいでよかったわねー。それにしても、貴方達のお父様も難儀な課題を突き付けたものねー」
「そうなんですよーパパにも言ってやってください! こんなの地獄ですよ地獄ッ! これだったらバハムートと10連戦した方がまだマシだよー!」
「まあ……なんで父さんがあんな事を言ったのかは、ルルナを見てると分かるかも……」
シャルルは幼い頃からルルナと比べて大分、客観的に物事を見る資質がある。
それ故に今の自分達の立ち位置やパワーバランスも冷静に分析し、理解もできていたからこそ、直感したのだ。
――――仮にルルナが父から抑制されず、在りのままに力を振るっていたら学園のありとあらゆる『秩序』はたちまち崩壊していただろう、と。
(まあ試験で色々な人を見る事が出来たし、とりあえずはあの辺の実力に合わせておけば――)
――――ここで再びドアをノックする音が部屋に響き渡る。
「あらら、今度は別のお客さんみたいね。じゃ私はこの辺りでお暇するわ。二人とも、これからいろいろと大変かも知れないけどめげずに頑張るのよー! それと、本当に何か困った事があったらこっそり私の部屋に来なさいっ!」
「こっそりって……」
まだ他にも話したい事はあったが、二度三度と鳴るノック音が彼等を急かす。
一瞬で何処かへ転移して消え去ったマーテルを尻目に、シャルルは再びドアを開ける。




