久しぶりのガチバトかなー
「シャルルとアムは大丈夫かしら……。無事だといいけど……」
「だいじょーぶだよ。あの二人ならすぐに来るって――――あ、ほら来た」
時間を少し空けて森の奥から飛び出して来たシャルルとアム。だが二人の間にはついさっきまで味わっていた緊迫感はまるでなかった。
「――ったく! 後ちょっと遅れてたらアタシ等食われてたんだぞ!?」
「いやーごめんごめん、普段見ないモンスターばかりだったからついデータ収集に熱が入っちゃって。でもほら、危険を冒しただけあってそれなりのデータが取れたよ」
「アタシ達はデータ取りにここに来たんじゃないって言ってんだろぉ!?」
「まあまあそこはほら、『物のついで』と思って貰えれば」
「アムっち、シャルに言っても無駄だから諦めた方がいいと思うよ……なんかごめんね……」
「ぐぐ……」
他でもない双子の片割れに言われては仕方なく、アムは気持ちを切り替える事を優先した。それにもし本当にピンチになったとしても彼は彼なりに切り抜けていただろうから、結局は杞憂に終わるだけだろう。
何はともあれ最初の危機を脱したグローリィ一行。大した怪我もなく抜けられたので、シャルルは再びマップ情報から現在地を確認する。
「ルルナ、ウィンドドラゴンの気配はまだ感じられるかい?」
「うんそうだね。特に遠くへは行ってないぽい。てかこの距離だともう普通の人にも聞こえるんじゃないかなー?」
「方角は分かる?」
「うん。えーと、あっちだねー」
ルルナが指差したのは現在地から北西の方角。
――そして、『それ』が響き渡ったのはほぼ同時だった。
――――『グオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!』
「……アタシもこんだけでかい咆哮は久しぶりに聞いたぜ。こんだけ遠くにいてもピリピリ伝わるこの威圧感……。間違いねえな」
「リア大丈夫? 怖くない?」
「大丈夫……! 私も戦うって誓ったから……!」
近くにいるならこの好機を見逃す手はない。
リアンは相変わらずどこか硬い面持ちだったが、その顔から最初の頃の怯えは消え、腹を括った一人の魔法騎士としての表情だった。
「――行こう!」
シャルルの合図で4人は走りだす。
そして近づく程、その気配はどんどん大きくなり強みを増していく。
「いたぜ! あのでっかいのは間違いなく『ヤツ』だ!」
アムが指し示す通り、開けた視界の奥で悠然と歩を進めていたのは今回のメインターゲットである【ウィンドドラゴン】だ。
周りの自然と一体化したような雄々しく広がる両翼、ずんぐりと捻じれながらも厳格に突き出た角、筋骨隆々とした硬い大鱗で覆われた肉体。そのどれもが竜の権威を象徴させ、見る者を圧倒させる。
「あれがドラゴン……。少しくらいの攻撃や魔法なんて全部弾かれちゃいそう……」
幸いにして向こうはこちらの存在に気付いてはいない。今なら無駄な血を流さずに済むし、己の力量を弁えずに立ち向かって犠牲を生むくらいならば、このまま引き返しても誰も咎めなどしないだろう。
――が、手に持った武器を収め踵を返す者は誰もいなかった。双子は当然の事、リアンでさえも瞳を真っすぐに見つめ、かの風竜から目を反らす事はなかった。
「で、どうするんだ? アイツは攻撃力もさる事ながら、防御力だって高い。増してや『ウィンドドラゴン』は風の力を纏ってるのもあって俊敏性だってある。今のアタシ等に付け入る隙はほとんどねーぞ」
「正にその通りだね。攻撃、防御、速さの三つを兼ね備えた強敵と言ってもいい。……でも、一つだけ対抗手段があるよ」
シャルルは揃って後ろにいた『彼女』に首を向ける。
「――私?」
「そう。アイツは魔法耐性に関しては割と脆い。特にデバフ系統にはこの上ない特効手段になるから、むしろセオリーパーティなら必須手段とも言える。――やれるかい?」
シャルルは敢えて余計な感情を口には出さず、行動できるか否かのみを問う。
そしてリアンはその問いに対して迷わず頭を縦に振った。
「考えはまとまったみたいだな。アタシは仕掛けていいのか?」
「勿論だよ。僕がアイツに対して【減衰魔法】を最初に撃つから、そのタイミングに合わせて突っ込んでほしい。ルルナはアムのカバーを頼むよ」
「りょーかいっ! じゃ……『とっつげき』ーッ!!」
ルルナの号令で全ての行動はほぼ同時に繰り出される。
まずアムが先陣を切ると同時にシャルルは『ウィンドドラゴン』に迷わず【レジストダウン】を放つ。当然それに気づいた竜はすかさず反撃体制に入り、突っ込んで来たアムを迎撃しようとする。
今回のアムはダメージを与えるのが主目的ではなく、あくまで後ろで控えるメイン火力のリアンの為のお膳立て。この辺りは本来タンクとして活躍していた彼女の本領発揮であった。
「――――うぉらあッ!」
わざと大ぶりな攻撃でウィンドドラゴンの注意を引きつけ、更にルルナもできる限り背後に回って目標を一点に絞らせない。
「いい調子ー! てやー!」
死角から突いたルルナの一撃はいくら頑強なドラゴンといえども、無傷では済まない。傷痕を残し、態勢を崩した事こそが、中々の威力であった事を裏付ける。
「よーし、このまま一気に――ひょわあ!?」
が、当然そのまま黙ってやられる相手ではない。
竜の尻尾を華麗に裁き、まるで背中に目がついているかのような狙いで、的確にルルナの身体に命中させる。
いくらルルナが元は百戦錬磨の恐ろしい力の持ち主で頭では分かっていても、肝心の肉体が反応できなければどうしようもない。
「ルルナっ!」
竜の尻尾に横っ腹をまともに打ち付けられ、リアンの悲鳴と共に地面に激しく身体を打ち付けられゴロゴロと転がる。
「ルルナのカバーは僕が入る! リアンは自分の魔法に集中して!」
「わ、分かったわ!」
魔法の詠唱に入っていたリアンは丁度ルルナがやられたタイミングで完了した。
そのまま『ウィンドドラゴン』に追撃をさせないように、風の弱点属性である氷の魔法を放つ。
「氷晶よ、魔法にて集いて荒れ狂う吹雪となって――『ブリザード』!」
リアンが掲げた杖が蒼く光ると、凍てついた冷気は無数の刃となって、ウィンドドラゴンの全身に襲い掛かる。
氷点下を下回る冷たさとシャルルの減衰効果を伴った相乗効果で、かなりのダメージを与えられたようだ。両の足で踏ん張る力すら失い、ずしゃりと崩れ落ちる。
「やったわ! この調子だったら……!」
よろめく竜の姿に、確かな手応えを感じたリアン。この攻めを維持しながらならば、誰もがいけると思っていた。
―――が、そう甘くはない。
「いや――やばいぞ! 【ブレス】だ!」
異変に最初に気付いたのは最も近くにいたアム。竜の眼光が妖しく光り、口元には高濃度のマナが集束していた。
これこそが『ドラゴンの代名詞』で、かつ多くの魔法騎士達を全滅に追いやって来た最大の技。
ルルナはまだダメージが残っていて、救援には回れない。アムはリアンに狙いを定めたドラゴンブレスの狙いを狂わせるのが精一杯で、唯一自由に動けたのはシャルルのみ。
(――間に合え!)
並の人間と大して変わらないリアンの身体で直撃したら、間違いなく命に関わる。運が悪ければ『即死』だ。
そして――シャルルが飛び込んだのと、ブレスが口から放たれたのはほぼ同じだった。




