自分達で見つけた事だから『★』
――テレスティアルコア・最奥核(ダンジョンランク『???』)――
シャルルとルルナが最初にこの場所を見つけたのは本当に偶然で、双子の記憶にもまだ新しい。
当時家族の旅を終えて、いきなり家に帰っても何をすればいいのか分からなかった双子は、当たり前の如く暇を持て余す。そのついでに、なんとなく世界の果てに行ってみただけだった。
テレスティアの北極点には『テレスティアルツリー』と呼ばれる世界樹が存在し、膨大なマナを蓄えた始まりの地として世界に知られている。
ここまでが『一般的に認識されている』テレスティアルツリーの全容なのだが、ふとルルナはこう思った。
「ねえねえ、この『世界樹の根っこ』ってどこまで続いてるんだろうね?」
「さあ……。深く考えた事なんてないけど、星の中心とか?」
「じゃあ行ってみない?」
こうして相変わらずの軽いノリで根っこを伝って降りて行ったのが、この『隠しダンジョン』を知るきっかけとなった。
世界樹の根を伝ってぐんぐんと降りていった所、シャルルが予想していた通り星の中心にまで伸びていたその場所にあったのは、超高圧縮・超高濃度で形成された『マナの純結晶地』だった。
並の人間では降りかかるマナの圧力に耐え切れず、一瞬でマナの粒子として分解される恐ろしさを持ち合わせていて、更に出現するモンスターも地上のダンジョンなどとは比べものにならない強さを持った、いわば選ばれし者のみ立ち入れないであろう聖域なのだが――。
「……で、アンタ達は今更ここに何しに来たの?」
エメラルドグリーンの長髪をマナの奔流によって靡かせながら魔法を放つのは、このテレスティアルコアを守る星の化身『クィーン・オブ・テレスティアル』だ。
「あーひどいなクィスちゃんは。折角『相談』があって来たのに」
「へっ相談? アンタ達が私に? いきなり『戦ってほしい』なんて言うから何事かと思ったら」
「んとねーパパに昨日言われたの。学園に行ってちゃんと勉強してきたらどうだって」
「いや私に言われてもね……。そんなのアンタ達の好きにしろとしか」
「あーひどいなー! ルルの初めてのお友達なのにそんな言い方ひどーい! 願い事を一つ叶えてくれるんじゃなかったのー!?」
「はいはい分かったわよ……。ま、【星の女王】たるこの私に勝ったのは事実だしね。……あ、それで思い出したわ。実はね、『私の妹も学園に通いだした』のよ」
「え……うそ」
とんだ衝撃発言だった。これには流石のシャルルも呆れるを超えて絶句するしかなかった。
「えっ! 妹ってあの『プリティ』ちゃんだよね!? どの学園に行ってるの!?」
「アルカディア学園よ」
「ええ本当に!? ルル達もそこに行こうか迷ってたの! すごい偶然だねー!」
「いやいやいやちょっと待って二人とも! 色々と突っ込みどころがありすぎるような気が!?」
シャルルはふと思った。確かにここでの全ての存在は基本的に常識から外れた存在ばかりだが、だからといってまさか学園にまで通い始めるなど、一体誰が想像つくのか、と。
「いやあの……仮にもこの星を守る存在だよね? そんな事する意味が一体どこに……?」
「なんでもね、前にアンタ達にコテンパンにやられたのがよっぽど悔しかったみたいよ? 『このプリンセス・オブ・テレスティアルたるワタクシがこのままでは終われませんわー!』って」
「ふふーん、再戦ならいつでも受けて立つってプリティちゃんに言ってねっ!」
「ルルナちょっと待つんだ。友人じゃあるまいしそんな軽くていいのか……?」
「いいんじゃない? 実際こうやって普通に話してるんだしさ?」
そう言われると確かにその通りでもあるからこそ、シャルルの口から返す言葉が見つからない。実際ここまでの会話のやりとりだけを切り抜けばよくある友人同士の会話だ。……が、実際は誰かが口を開く度に凄まじい攻撃と魔法が飛び交う様は、神々の争いと言っても遜色ない光景だ。
「でもさでもさ。パパにすごく真剣な表情で言われたの。目立ったりして、もし自分達の正体がばれたりしたら、三ヶ月外出禁止って……」
心底困った顔をするルルナを見て、テレスもこれは中々に困っているのだろうなと、一応理解した。
「ま、それを私に相談してどうしろってのも正直な気持ちだけど……」
「だってールル達クィスちゃん達以外にまともに話せる友達いないんだもん。産まれてからずっと旅ばっかしてて、人付き合いもほとんどなかったから」
「……ふーん。シャルルはどう思ってる訳?」
「僕は別に一人でも退屈はしないからどっちでもいいんだけど、ずっと隣で困ってるルルナを見てたらやっぱり……ね」
二人の心情を聞くと、少しの間魔法がぶつかり合う戦いの音だけが場を支配する。今の双子には戦いの中でしか自分を証明できないと、言わんばかりに。
――――やがてその沈黙を最初に破ったのは、クィスだった。
「……分かった。私から『も』言っておくよ」
「は……? クィスティアからもって……。 ていうか、一体誰に何を言うってんだい?」
「お母様にね。二人が行くからよろしくってね」
「ほえ? それがクィスちゃんのママと何か関係があるの?」
「ふふん。そもそもどうして、『私の妹が学園に行く』なんて言い出したと思う?」
質問に質問でドヤ顔で返されてしまいどちらからともなく顔を見合わせる双子。
当然ながら、その答えなど分かる筈もない。
「――アルカディア学園の理事長はね、私のお母様なんだよ」
* * *
「ただいまー! ねえパパ、ルル達あの学園に行く事にするよ!」
「お、おう……? 突然どうした……?」
「どうやらルルナの知り合いがいるみたいだからね。一人じゃ不安だろうし、僕もついてく事にしたよ」
こうしてアルカディア学園に行くことを決めた双子は、早速転入の準備を進めた。
マリスは少しばかり寂しそうな顔をしていたが、会おうと思えば一秒で会えるからという大分怖い発言を残して、快く双子を見送る事にした。
「しかし友達……ねえ。いつの間にアイツ等作ったんだ……?」
「いいじゃないの。あの子達が自分達で見つけた事なんだもの」
アルクの疑問をよそにしながら、双子は親元を離れて世界の中心にある『王都国立アルカディア魔法騎士学園』に入学する事になる。
* * *
「すごいねー! 学園ってとっても大きいね。ワクワクするねシャル!」
「僕等は遊びに来たんじゃない。あくまでもこれは『勉強』だよルルナ?」
「はいはーい。でもでも、いきなり大活躍しちゃったりしてね!」
「目立つのはダメって言われたばかりでしょ。僕だって本当は自然に学園生活を送りたかったけど、父さんが言うんじゃ仕方ない。それにクィスのお母さんにだってわざわざ配慮して貰ったんだから、それだけでも感謝しないとね。……さてと」
絶対的エリートが集うこの地に、今新たな一石が投じられようとしている。
その波紋がアルカディアに集う人らにどんな影響を及ぼすのかは、神のみぞ知る事だった。