友達だから、放ってはおけない!
――アルカディア学園・三軍宿舎――
「グリモアロード……ねえ。ここにいる以上はある程度は参加しないといけないんだろうけど……どうしたものかな」
「なーにそれ? 新しい魔法?」
「初日の説明を何にも聞いてなかったんだね! えっとね、ダンジョン探索やレイドモンスターの攻略をメインとした『コンクエスターズ』と、主に学園同志で行われている対人戦をメインとした『スレイヤーズマッチ』、道具や装備などの合成をメインにして、公私様々な依頼人からの請負や取引を行う『クラフトディーラー』の三つを総称したのが『グリモアロード』って言われてるの」
「ふんふん。で、何を悩んでるの?」
「僕等の本来の目的である『様々な人と交流する』からには、やっぱり色々な所に顔出ししないといけないけども、それにはやっぱり上を目指さない。でも上がるって事はそれだけ僕等の目立つ場面も自然と増えてくると思うんだ」
「んー。今悩んでもしょうがなくない?」
「まあ、そうだけどさ……」
毒を含まない全く持っての正論に、シャルルは言い返せずに話は終わってしまった。
なにせまだ右も左も分からない現状。となれば手探りで行動するしか今の双子にはそれ以外ろくな手段がないからだ。
「ねえねえ、それよりもさ。今退屈だしさ、リアンの所に遊びにいかない?」
「リアンの……? いいけど、彼女に用事があったらどうするのさ」
「んー、一緒に済ませるとか!」
「分かった分かった、行くだけだからね?」
「やたっ!」
喜びのままにベッドから素早く飛び降りたルルナ。こういった裏表のない素直な態度だからこそ、シャルルも飽きずに行動を共にできるのかも知れない。
* * *
「――ところでさ、ルルナはリアンの部屋分かるの?」
意気揚々と歩いていた足が、ピタリと止まった。
「……正直でよろしい」
「え、えーと。ほら、宿舎の入口に全部の部屋番と名前書いてるじゃん! それ見たらすぐ分かるよきっと!」
「はいはい」
無駄足になってしまうのはシャルルにとっては今や慣れっこ。淡々とした顔で入口へと向かった時だった。
「あったよー。リアンの部屋6036だって! ――ってあれ、どこ見てるの?」
「あの向こう側を歩いてる集団……リアンも混ざってない?」
――――シャルルが見つけたのは本当に偶然だった。
何気なく夕暮れの陽が射している西側を見ていたら、騒ぐでもなく4人くらいで宿舎とは逆方向に向かって並び歩いていたのだ。
「……ホントだ。あっちって雑木林しかなかったような……おーいリア――」
ルルナが彼女の名を叫ぶ前にシャルルは先にその口を塞いでしまった。
部外者の声に異変を察知した4人組は声がした方向へと振り向く――――が、幸いだった。誰にも気付かずに、再び歩き出す。
双子はリアン達が気付く前に宿舎の影に隠れた事で、なんとかばれずに済んだのだ。
「ちょっとー何するのシャル!」
「なんか様子がおかしかったよ、あの4人。ちょっと後をつけてみた方がいいかも」
「えー普通に何処かに遊びに行こうとしてるんじゃないのー?」
「だといいんだけど……やっぱり気になるね」
「あーちょっとシャルったらー!」
ルルナの制止も聞かず、シャルルはいつの間にか飛び出していた。
仕方なくルルナもついていき、その後も4人の尾行を続ける。
(ルルナ、万一気付かれるって事もあるから、僕等の部屋との緊急魔法転送の準備もしておいて――)
(おっけー。簡単なのにしといた方がいいよね? 大掛かりだと転移した時に魔法粒子が漏れて、痕跡残りやすくなっちゃうし)
(そうだね。できる限りシンプルにお願い)
魔法で気配を消しながらも、ルルナは器用にもう一つの魔法の詠唱を開始する。頭に思い描いた自分達の部屋を転送先にし、今度は転送対象を二人の身体に直接結び付ける『物体複数転移魔法』だ。
本来『二重詠唱』は、かなり神経を集中させなければ行使できない超高度技術を用いる詠唱法なのだが、それをルルナは息をするように歩きながら平然と行う。
そしてそれが終わる頃には4人組も所定の場所に着いたのか、林の中でも少しだけ開けた場所で足を止め、何かを語り始める。
「さてさて、リアン。約束してたアタシ達の回復薬は作ってきたかなー?」
「う、うん……えと、ハイポーション20個とハイエーテル15個……だよね?」
3人で囲んだ生徒グループのリーダー格らしき、金髪の女子生徒の問い掛けにリアンが恐る恐る答えると、要求された通りの個数のアイテムを3人達に渡す。
それを見るや否や、とても満足気に喜ぶ三人。しかしそれとは対照的に、表情にまるで変化がなかったリアンの顔がルルナには妙に焼き付いた。
(ねえねえあの金髪の子ってさ……)
(――僕等が合成室で会った人と同じ人のようだね。つまりあれが『幼馴染のレイラ』……?)
(いやどう考えても幼馴染って感じの空気じゃないじゃん! それにどうしてリアがあんなアイテムを3人達に渡してるの……? あの三人達の体力や魔力だったら普通のポーションやエーテルで済むと思うんだけど)
(リアンは自分で序列最下位って言っていた。ハイポーションとかハイエーテルなんて普通に二軍レベルで通用する準高等アイテムなのに、あんな大量に自分で作るのも作れるのも、流石におかしいよ)
あの4人達の会話の内容とやってる事は、はっきり言って異常であった。
じゃなければこんな一目から離れた場所でこそこそと何かをする筈がないからだと、双子じゃなくても怪しいと思うのは当然なのだ。
レイラ以外の二人の連れはまだ感情が昂ってるのか、未だに喜びを隠し切れないようだ。
「うわーマジモンのハイエーテルじゃーん! 二軍じゃなきゃ普通に使えないアイテムをアタシ達が使えるなんて最高すぎるんだけど!」
「これもレイラっちの幼馴染の人徳ってやつなのね!」
「別にいいって事。じゃ、リアンまた来週よろしくね」
「え……ら、来週も……?」
その言葉は予期していなかったのか、完全にしどろもどろになってしまうリアン。
だが、そんな様子のリアンに対し――
「ねえリアンさあ、『ここ』に入る為に誰が毎日特訓に付き合ったと思ってるの? それでなくてもちょっと他よりも得意な薬合成くらいしか、取り柄がないってのにさ。アタシはもうすぐで二軍に上がれるの。今必死なの。――分かる?」
「そーそー。だからリアンちゃんにはこれからもその技術を、私達恵まれない三軍の為にも提供し続けてほしいの! あっもちろん私達が上に上がったら後は自由にしていいけどね!」
「えーそれじゃまた私達が三軍に落ちた時、今みたいに作ってくれる人がいないと困るじゃーん」
滅茶苦茶な暴論だった。要は自分達のパシリや踏み台としてリアンは利用されているだけ。しかもこの言い方だと、一回や二回ではない。
――そして勿論、今の会話を聞いて黙っていられる『彼女』じゃなかった。
(なんなのアイツらさあ。パパの約束がなかったら今頃消し炭にしてたかも)
(お、抑えてルルナ。……でもあれは酷すぎるね)
「……で、でもハイポーションはともかく、ハイエーテルの原料は中々この辺りじゃ採れなくて、次また作れるかどうか――」
リアンの発言は、林に響き渡った『乾いた音』でかき消され、その衝撃でリアンは地面へ尻もちを突いてしまう。
「殴られなきゃ分からないの? 作れるかどうかじゃないの。やるかどうかなの。そんな消極的な考えだからリアンはいつまでたっても『最下位』なのよ」
「……ごめんなさい」
(ごめん、ルルもう無理かも)
(ま、待った待った――!)
せめてリアンが一人になるタイミングまで我慢して見守ろうと、シャルルは爆発寸前のルルナに対して落ち着かせるように言った。
「じゃ『愛しのリアン』ちゃん、これからもよろしくね。試験までもう二週間しかないからアタシ達はまた練習なの。じゃーね」
ホクホク顔で去っていった三人。そしてその後には、一人寂しく俯いたリアンの姿だけが残った。
そして、誰もいなくなったのを見計らい――ルルナは一気にリアンの元まで駆け付ける。
「リアー! 大丈夫なの!?」
「あれ……二人ともどうしてここに?」
「たまたまリアンの姿が見えてね。様子がちょっと変だから気になって」
「じゃあ……まさか、さっきのも見てたの?」
その問いに双子は黙って頷く。
「――お願い、この事は誰にも言わないで! じゃないと折角レイラがここまで来たのに……!」
「リアン、どうしてそこまでしてレイラに肩入れするんだ?」
「私がここに居れるのは全部レイラのお陰だから……。だからレイラがせめて二軍に上がるまでは少しでも役に立ちたいの……」
するとリアンはおもむろに立ち上がり、ふらふらな足取りながらも歩き出す。
「ねえリア、どに行くの!?」
「薬の材料を探しにいかないと……。レイラ達が必要としてるから」
リアンの意志はまるで呪われた鎖に導かれる奴隷のようだった。
そんな彼女に対し、シャルルは見つめるだけ。
「――ダメだよ!」
――しかし、ルルナは行かせなかった。
リアンの手首を固く握りしめたままで、その手を放す事はない。
振り向いた時の弱々し気なリアンの瞳とは対照的に、何かを決意したようなルルナの瞳が眩しく映る。
「ねえリア。ルル達の部屋に来てほしいの」
「ちょちょっとルルナ!? そんな事したら!」
「大丈夫。ルルの勘が言ってるから。リアなら『言っても大丈夫』って」
「……んー、あーもう! リアンだけだからね! 約束だよ!?」
「うん、ありがとシャル」
「あ……あの、さっきから二人は何の話を?」
「リアは心配しなくていいから。原料が手に入ればいいんだよね?」
「そ、そうだけど……」
「じゃ任せて! ハイエーテルなんて目じゃないくらいのアイテム作ったげるから!」
「気持ちは分かるけど、それはむしろ逆効果だからね?」
「あ……そか」
リアンはこれから自分がどうなるのか分からない若干の不安を抱えながらも、有無を言わせないルルナの勢いに飲まれるままに双子の部屋へと向かう。




