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僕は無双が出来ない。  作者: 朝夜
0.ぷろろーぐだそうです
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あの頃は楽しかった



 最終決戦の場所となった魔王城で、勇者は魔王と雌雄を決する戦いに挑む。

 一進一退の攻防が続く中、突然魔王は手に持っていた杖を下げると不意に呟いた。


「やるじゃない。私の魔法を全て防いだのはあなたが初めてよ。ていうかもう戦いなんてもうどうでもいいから私と付き合わない?」


「――へ?」


 と、魔王が勇者に対し突然の交際発言をしたのが、今から15年前。


 この言葉と共に世界は瞬く間に平和になると、役目を終えたと言わんばかりに魔王は表舞台から姿を消し、同時に勇者も「悪いけど引退する」と一言だけ添えて彼の姿も忽然と行方をくらました。


 元勇者『アルク』と元魔王『マリス』の二人は、約半年の交際を経て早々に結婚をすると「人前に立つのはもう疲れた」という理由で、人里離れた穏やかな辺境の地に移り住むと、その年に早くも男の子と女の子の『双子』を授かる。


 アルクが隠居生活をしたかったのは、せめて子供達だけでも普通の生活を送ってほしかったと思ったからだ。


 ――しかし、その望みは双子を産んでから僅か二年で断たれる羽目になる。

 全てのきっかけはマリスの気まぐれで『双子に魔物と戦わせてしまった』事だった。

 


「あら、こんな場所にまで魔物が。……待って、ひょっとしたらだけど」


「おいおいマリス、何するつもりだよ」


「ねえシャルルとルルナ。魔法ってのはね――こうやって使うのよ? 分かった?」


「無茶だろ。まだ立つのがやっとの二歳の赤ん坊だぜ?」


「何事もやってみないと分からないでしょ? ささ、あのモンスターに試してごらんなさい。大丈夫、危ないと思ったら私がかばって上げるから」


「はーい」「はーい」

 


 自分達の子供ならば相当な力を秘めている筈。そんなマリスの些細な好奇心からだった。

 双子に危害が及ばないように何かあったらすぐに飛び出せる警戒だけは怠らず、モンスターの目の前に立たせると、その一挙手一投足を見守ろうとして全神経を集中させる。

 

 結果として、その心配は杞憂に終わった。

 マリスが放った魔法を見よう見真似で同じような動作で、双子も手をかざす。


 

「凄い……凄いわ! まだ二歳なのに『魔物を倒しちゃう』なんて。私でも始めて倒したのが4歳の時だったのよ! いける、これはいけるわよアルク! この子達『超絶にヤバイ双子』になるわ! 私達旅をするわよ! この子達にはもっと世界を見せてあげないと!」


「おいおい、田舎でのんびり暮らすんじゃなかったのかよ」


「そんなのこの子達がちゃんと成長してからでいいでしょ。私達のアフターライフなんて二の次よ」


「だってほら、勉強とかもあるし」


「そんなの私が一から十までありとあらゆる事を教えてあげる。有象無象のよく分からない俗物からどうでもいい理念や価値観を刷り込まれて汚されるくらいなら、歴代最強の英知を持ったこの元大魔王マリス様がなんでも教えてやるってのよ」


「と、友達だってほしいだろうに」


「仕方ないわ、この世界の未来の為よ。この子達が間違いなく『世界を担う立場になる』んだし、私達の間で産まれた時点で『普通の子供』ではいられないんだから」


「そ……そりゃまあ……」


「じゃ決まりね。心配しないで、私の名に懸けて必ず立派な双子に育てるわ」


 

 その瞳は、アルクが今まで付き合って来た中でも『最も強い意思を秘めている』と感じた瞳だった。

 上手く丸め込まれた感は否めないが、普段明るく傍若無人に振る舞うマリスだからこそ、アルクはその心に納得して旅をする事を決めた。

 そしてアルクとマリスは早速次々と世界各地を駆け回ると、それからは多くのダンジョンに潜んでいる『自分の部下でもあった』レイドクラスのボスモンスターなどに魔王と勇者の教えの下に戦わせる。

 すると、やはりマリスの的中通りメキメキとその頭角を表していった。

 


 

 * * *

 

 


 ――天空の塔・最上階(ダンジョンランク『A+』)――

 

 

 それは、この双子が7歳になった時だ。

 


「この塔を守るのは『天空竜リンドヴルム』よ。二人ともいける?」

 

「うんいけるよママ!」


「余裕かな」

 


 その言葉通り、伝説の巨大翼竜はわずか3分足らずでその翼をもがれ、地に堕ちる。

 

 

「よし、次行くわよ!」



 

 * * *

 

 

 

 ――忘れ去られた海底洞窟(ダンジョンランク『S-』)――

 

 

 今度は、双子が10歳になった時。

 伝説の武器や防具が封印されている洞窟などの難解な仕掛けや謎解きも、強い魔法力を通して図式や構造を瞬時に理解して謎を解いてしまう頭脳も持ち合わせていた。

 

「よくここの仕掛けを解いたわね。でも、本番はここからよ。この奥地には『七色の真珠』を守る『大海竜リヴァイアサン』がいるから、二人とも抜かりなくね」

 

「はーい」


「この程度なら大丈夫だよお母さん」

 


 その言葉通り、巨大な体躯をものともしない圧倒的な魔法力で、リヴァイアサンを海の藻屑とさせる。

 

「よし、次でラストよ!」




 * * *

 

 

 

 ――大いなる霊峰ヴェリオル・頂上(ダンジョンランク『SS+』)――

 

 

 そして13歳にして、双子は遂に現世における最大最強の竜と対面する。

 

「大いなる竜神バハムート。多くの名だたる冒険者が夢見ては儚く散っていった文句なしに最強のレイドモンスターよ。コイツを倒したら、地球上で確認されているモンスターだとこれ以上の存在はいないわ。準備はできてる?」


「大丈夫! ルルに任せて!」


「魔法の直接威力に関してはルルナの方が高くなったよね。僕も見習わないと」



 最強の竜ですらも、双子にとって眼中にはなかった。

 流石に今までのモンスターと比べて一捻りとまではいかなかったが、さしたる苦労は無い。一度見た攻撃は二度目には完全に見切り、それに対し的確に反撃をしては凄まじいダメージを与える。

 

 そんな攻防を繰り返す事、約5分。

 

 止めの一撃を放ったシャルルの魔法はバハムートの胸を完全に貫くと、だらりと崩れ落ちてやがて沈黙する。

 


「あはは……あっさり倒しちゃったわね。もうこれで終わりよ、二人ともよくここまで頑張ったわね」


「えーもう終わり? ルルもっと遊びたーい」


「遊びじゃないと思うんだけど……」


「気持ちはとっても有難いんだけどね。バハムートを倒したら家に帰るってのがアルクとの約束だからね。……旅は、今日でおしまい!」

 


 今や見慣れた双子のボケとツッコミも、マリスは今回ばかりは感嘆せずにはいられなかった。

 ある程度は読み通りだったとは言え、ここまでの真価を発揮してくれるとは彼女も思わなく、予想を遥かに上回る結果に終わった旅に、マリスは胸を張って帰る事ができたのだった。

 

 そんな破滅級の能力を持った超絶双子も今では15歳。

 今この二人が何をしているのかと言えば――ただひたすらに『退屈な毎日』だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今流行りのチートスキルですねヽ(=´▽`=)
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