水入らず
子どもたちがキャンプに行くと言うことで、ウィリアムは違う家族のところへ行ってしまった。彼の言い分では、せっかく子どもたちがいないのだから、夫婦水入らずで過ごせばいいということらしい。彼の気遣いなのだろう。そう思いたい。
でもね、私と主人はいつも一緒。これからも一緒。
だけど、ウィリアムは今しかいない。6週間しかいない。
だから、子どもたちがいない間に、私たち夫婦はあなたとたくさんお喋りしたかった。お互い慣れてきて、少し家族っぽくなってきて、そしてこの機会にウィリアムと少し大人の話をしたかった。もし時間があれば、子どもたちがいないあいだに、私たち夫婦とウィリアムでお出かけしたかった。
だけど彼は行ってしまった。
寂しくてたまらなかった。
そんな私を見ていて、主人は会社の帰りにケーキを買って来てくれた。せめて、美味しい物を二人で食べようって。
これが本当の水入らずだよね。
ありがとうね。
美味しいケーキだった。
主人はウィリアムのことをどう思っているんだろう。
「僕はちょっと呆れちゃったね。色んな意味で、彼は我慢を知らない。それは個性じゃなくて多分育った環境のせいだろうけど。今ではそれが彼の性格になってしまっている。だからマロンも、ウィリアムのことでそんなに心を痛めないで、」
それは、放っておけばいいって意味だね。
私のことを想って言ってくれているのはわかる。確かに、彼は自由で、悪い言い方をすれば我がままだよね。それに振り回されていたら私たちは疲れてしまう。
でも、子どもなんて多かれ少なかれそんなもんだ。それに彼はまだ17歳。大人に片足突っ込んでるとはいえ、私たちから見ればまだまだ柔らかい子ども。
子どもが間違えたことをしていたら教えてあげる、正してあげるのが大人の役目。それに私たちは単なるホテルの従業員じゃない。ホストファミリーだ。
言葉は通じないけれど、最後まで正しい姿勢を見せるのが私たちの礼儀だと思う。それで彼が何を思うか何も感じ取れないかを心配することは私の仕事ではない。私はただ、正しい姿勢を彼に見せるだけだ。
主人にそう言うと、そうだねと頷いてくれた。




