和牛ビーフ
ある日の夕方、ウィリアムが興奮して帰ってきた。
「今日は和牛ビーフの刺身を食べたんだ。すっごく美味しかった!」的なことを英語で。
画像を見せてもらったが、生の牛肉にわさびが乗っていてすごく美味しそうだった。でも、ウィリアムはわさび苦手なんじゃないっけ?と思ったら、どうやら本物のわさびは大丈夫らしい。
よくよく本物志向である。
「マロンは和牛ビーフ好きか?食べた事あるか?」
「ないよー、そんな高級なもの」
「ビーフの刺身は食べた事ある?」
「だからないってば」
というようなやりとりをしていたら、ウィリアムは急に思い立ったらしい。
「じゃあ、僕が学校のそばの市場で買ってくるよ。そして火曜日は和牛ビーフにしよう!生とタタキとどっちが良い?タタキだったらソースも作るよ。すごく美味しいよ」
彼は偏食で小食のくせに、料理のこととなるとかなり饒舌になる。
「うーん、どっちでも良い」
「刺身だったら柔らかくて・・・」
何かウンチクを垂れはじめたが、おかげで全く英語が聞き取れなくなってしまった。
「どっちでも良いよ。どちらかと言えば刺身が良い」
「OK!」
ということで、火曜日の朝、彼は学校の前に市場に行くために、かなり早く家を出て行ったのだった。
そして帰宅してすぐに冷蔵庫に肉の塊を入れている。って、かなり大きいけど、それいくらよ。
「100グラムで1500円くらい。わさびも一本1500円」
「たっかー!ちょっと、そんなにお金使ったらもったいないよ。ウチで払うよ」
「いーのいーの」
よくないよ~!?
ウィリアムは基本、自分で稼いだお金で日本で暮らしている。まだ17歳なのに和牛ビーフをうちの家族におごるなんて、あり得ん!
と思うのに、彼はお金を受け取ってくれなかった。
「だけど今日は、刺身はなかった。タタキ用の肉しかなかった。ごめんね」
「全然良いよ。タタキ、楽しみにしてるよ」
「OK、まかせて。じゃ、作ろうかな」
学校がハードだった(ように非常に疲れた顔をしていた)にも関わらず、彼はすぐにソース作りにかかった。
楽しみではあるが、食べつけない高級和牛など食べて私の胃は大丈夫だろうか。実はかなり心配なのだった。




