記憶違い?
ウィリアムは手帳を使わない。スマホのカレンダーに書き込んだりもしない。
普通のホームステイで家と学校を行き来するだけならばそれでも良いのかもしれないけれど、彼はなにげに友だちが多い。
「今日は友だちと夕飯を食べてきます」
「明日は友だちとゲームをしてきます」
「明後日は友だちと出かけます」
と毎日のように出かけていく。よくもまあそんなに予定を覚えていられるもんだと思っていた。”今日はコレ“という記憶がしっかりしているようである。
ところが、よくよく考えてみると結構忘れていることも多い。
「今度の水曜日、ヨシの誕生日なんだよ。一緒に夕飯食べられる?」
「オウ、誕生日?勿論いるよ。プレゼントを贈るよ。何が良い?」
「えー、プレゼントなんていらないよ」
「何言ってるんだ。じゃあMTGのカードにしようか、それとも他に欲しいものある?」
「そうだなー・・・」
などと盛り上がる。
末っ子もウィリアムがお祝いしてくれるのが嬉しくてたまらないようだ。
ところが当日の朝
「僕、今日遅くなります。アメリカから友だちが来てるんです」
「そうなの。行ってらっしゃい」
と送り出して末っ子を見ると、呆然と固まっている。そりゃそうだ。あんなに誕生日の話で盛り上がっておきながら、当日の朝にはケロりと忘れているんだから。
この日の末っ子は本当に可哀想だった。
「プレゼントなんていらないから、ウィリアムにいてほしかった」
とぼとぼと学校へ出発する末っ子の足取りの重いこと。
私はケーキを焼いたし、夕方には祖父祖母が来てお祝いをしてくれて笑顔は戻ったけれど、あの衝撃はちょっと、忘れられない誕生日になってしまったようだった。
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これ、法則があって、ウィリアムは自分から誘ったことに関しては絶対に忘れない。だけど、こちらから誘ったことは、たとえどんなに話題として盛り上がろうとも忘れる。
たとえば私から「こうして欲しい」と提案して、ウィリアムが「じゃあ、今度こうするよ」と答えたとしても、その“今度”は永遠にやってこない。
それに気づかないと期待して待ってる(イライラします)ことになるので、期待してはいけない。彼はある意味社交辞令のようなノリで話しているだけであって本気ではないのだ。
でもちょっと日本人の社交辞令とも違うんだよなー・・・




