食べたもの
食文化の違うウィリアムが来る前から、我が家の食卓では、食べたい物を食べたいだけ食べられるようなスタイルで出している。
つまり、大皿に、取り箸をつけた状態である。
ウィリアムの席の前にあるのはご飯と小皿とお箸だけである。あとは自分で勝手に好きなだけ取ってもらう。
そうしたところで、ウィリアムはあまり手を出さない。
誰かが「これ美味しいよ」「食べてごらん」と言われれば手を出すけど、あんまり手を出さない。生野菜とお刺身以外はほとんど自分から手を伸ばさない。
嫌いだから仕方がないよね。無理やり取って食べてみたら美味しくないと困る。必要以上に「不味い」と言わずに済むように、ウィリアムは絶対に食べられると思ったもの以外は食べようとしなかった。
とりあえずやっとウィリアムの食べ方がわかってきたころ、具だくさんのスープを私がお椀によそっておいた。なるべくお肉が多めで、根菜はあまり入れないようにしておいた。
するとウィリアムはそれを全部食べた。中に入っていた野菜も残していない。
あれ?野菜食べられるの?
「もっと食べる?」と聞くと、頷いてお椀を出してきた。はあー、食べるんだ。良かった。
いづみに聞いていた情報をとっぱらって、生のウィリアムを見てわかったことだけど、彼はわりと味覚が幼い。そして食が細い(身体も細い)ので、美味しい物を少しだけ食べるのが良いらしい。野菜は食べないと思っていたけれど、(歯触りが嫌でなければ)きちんと味を付けて煮込んだりすれば食べる。逆に肉類は思ったほどは食べない。美味しいところを少し薄味で食べるのが良いようだ。
日本料理独特の旨味は、あんまり得意ではないけれど、前途のことに気を付けていれば食べられるし、食べようと努力している。
食べないことには変わりないが、彼なりに頑張っているらしい。
とにかく食べられるメニューがひとつわかった。もう、これだけでもやりきった感でいっぱいだ。




