食が合わない
ウィリアムは「これをやって良いですか」と聞くのが上手いと思う。
だから家の中では彼との衝突はほとんどなかった。よくホームステイで困ることと言うと、家のルールを守らないとか、勝手な解釈でやってしまったとか、そういうことで衝突が起こることと聞く。生きてきた文化が違うのだから、常識が違うのは当たり前である。
だけどウィリアムはこういうことで衝突したことはない。
じゃあ、何で衝突したかというと、とにかく食が合わないことだった。
私ははじめ、彼は日本食が良いだろうと思っていたので、煮物や焼き魚など日本らしいものを出していた。そうしたら、なんと彼はそれらが苦手だったのだ。初めの一週間は何を食べても嫌な顔をして、ほとんど食べなかった。彼の食べ終わったお皿にはいつも少しちぎられた料理が残っていた。
どうやら出汁の匂いが苦手らしいと分かってからは、そういったものは出さないようにして、野菜も苦手とわかってからは、使い方を工夫して、乳製品は嫌いらしいとわかってからは使わないようにして、卵類も・・・
と、彼の嫌いな物が判明するたびに覚えておいて、同じものは二度と出さないようにしていた。
じゃあ、慣れてきた3週間目くらいから何でも食べるようになったかというと、食べなかった。
彼はそれまでの2週間で、この家の食事は不味いということを学習してしまったのだ。
じゃあ最初から魚臭いものは苦手ですって言っておいてよね!とは思うが、仕方がないよね。来てみなきゃ何が苦手かわからないよね。
ということで、何を出してもちょっと食べて嫌な顔をするというのを繰り返すウィリアムを見ていて、ウチの子たちはもう怒り心頭だった。
それでウィリアムもさらに学習した。
「今日はおなかいっぱいだから、いりません」
「友だちと食べてから帰ります」
「今日は遅くなります」
そう言って、夕飯に帰ってこなくなった。
まあ、回避の仕方としては合ってるけどさ・・・一週間のメニューはあなた中心で考えてね、食材を買ってね、調理を始めたところで「今日はいらない」と言われるのってね、すごく辛い。
私は大人だから、頭の中ではわかっている。ウチの子たちもアメリカ旅行に行ったとき「お米が食べたい。おにぎりが食べたい」って言ってたし。食べられないことはあるよね。
だけど、子どもたちはそういうことはわからない。せっかくお母さんがウィリアムのことを考えて準備したのになんで食べないの!?
って、ウィリアムが外食にすると言うたびに怒るのだった。




