靴
ウィリアムはおしゃれだ。長身でかなり細身のため、どんなラフな格好をしていてもカッコいい。
そして靴。彼は靴を数足持って来ていた。普段履き用のハイカットの靴はいつも玄関にあって、デカい。身長に見合った30センチくらいのデカい靴。我が家の小さな玄関がいっぱいである。
そのデカいハイカットの靴を、出かけるときに丁寧に紐を縛る。毎回やる。
日本人って、あんまりそういう作業しないと思う。スリッポンって言葉があるくらいだし、家に上がるためにいちいち、靴の脱ぎ履きが面倒でない靴を履いている人がほとんどだと思う。
だから「行ってきまーす」と言ってから靴を履いてすぐに出かけられるが、ウィリアムは違う。
「いってきます」
と、手を振って玄関に行き、玄関に座り込んで靴の紐を結ぶ。
よいしょ、よいしょ・・・1~2分くらいはかかっているんじゃないだろうか。
ちゅんちゅんは
「こないだなんて、出かけるのに5分もかかったよ」
と言っていた。いやそれは大げさだと思うけど、急いでいる時などはそのくらいに感じてしまうのだろうね。
我が家の習慣で、主人が出かける時は家族全員が玄関で「いってらっしゃい」を言う。その流れで、ウィリアムが出かけるときも自然と全員玄関に集まってしまうのだけど、みんなでジーっとウィリアムが靴ひもを結んでいる後ろ姿を見ている。
それが恥ずかしいので、ウィリアムは見送りに出ないでというのだけど、どうも習慣でついついウィリアムが玄関に行くと、一緒についていってしまう。ごめんね、ウィリアム。
そしてある日の朝、出かけたと思ったウィリアムが5分くらいしたら帰ってきた。玄関で一生懸命靴ひもをほどいている。
「どうしたの?」
「スイカ(定期券)、わすれた!」
大慌てである。ウィリアムの部屋にとりに行ってあげようかと思ったが、(ウチの子だったらだいたいの見当がつくけど)どこにあるかわからないだろうし、部屋に入られるのも嫌かもしれない。
と思っていると、ウィリアムはかなり強引に靴を脱ぎ部屋へダッシュして戻ってきた。そして大慌てで靴を引っ掛けて出かけて行ったのである。
「あんなに速く出てった。やればできるじゃん」
と、ちゅんちゅんが感心していた。




