バルサミコ
野菜は食べないウィリアム。いや、そんなはずない。いづみの情報によると、以前いづみの家にウィリアムが泊まりに行ったときはなんでも食べたと言っていた。てことは、いづみの食卓に野菜が出ないはずがない。
なんだ。何を食べた。なんだったら食べるんだ。と考えてもわかるはずがない。
「ねえねえ、生野菜って食べないの?」
「食べるよ。ただ、ドレッシングは使わない。普段はバルサミコで食べる」的な英語で。
へえ~、バルサミコ。酢?
名前だけは知ってるけど、お目にかかったことがない。
ということで、しばらくあちこち探して、やっと見つけた。
ウィリアムに見せると、すごく嬉しそうに「グラーツィエ」とイタリア語でお礼を言ってくれた。そういや、ウィリアムは流ちょうなイタリア語を話すんだよね。だけど、私がイタリア語をかなり忘れてしまっているので、結局英語のほうが語彙がある。どうしても英語が分からない時だけ、イタリア語で話すけど(大事な話は英語の後にイタリア語で確認したりする)そうすると、主人や子どもたちに伝わらないので、やっぱり公用語は英語である。
そんな話は置いといて・・・
早速、ウィリアムは生野菜にバルサミコをかけて食べていた。
「うん、うまい!」(日本語を覚えた)
今まで頑なに野菜を食べなかったウィリアムが、むしゃむしゃと草食動物のように野菜を食べている!
きっと、これはすごく美味しい、魔法の調味料なんだ。
と思った末っ子が、バルサミコの瓶に鼻を寄せて、思いっきり匂いを嗅いだ。
「くっさー!」
お酢の刺激にむせまくる末っ子。
私もちょっとスプーンに乗せて舐めてみたけど、これで野菜を食べる気にはならない。
この匂いと一緒に、むしゃむしゃ野菜を食べるウィリアムが、単なるアメリカ人ではなくて宇宙人に見えたのだった。




