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code-1:前日譚

大手家電メーカーのゼニス社に務める1人の青年がいた。

男の名は「[削除済み]」。入社二年目のどこにでもいる平社員である。

「おい![削除済み]!」

上司が大声で呼ぶ。こういう時は大抵人に仕事を押し付けるか難癖をつけるときだ。

だが今回はどうも様子が違うらしく、その声は少し震えているように聞こえた。

「はい、なんでしょうか」

「君、ゼニス社長に呼ばれているぞ…いったいなにしたんだ…」

社長に呼ばれる、ということはただ事ではないのだろう。しかし[削除済み]には社長に呼ばれる理由が一切思い浮かばなかった。

「とにかく至急社長室に行くんだ。くそっ、もしかしたら私の首もただじゃ…」

上司の小言は既に耳に入っていなかった。社長に呼ばれるということがどれほどのことなのか想像がつかず、頭がうまく回らなかった。

とにかく行かないことには始まらないため、部屋を出た後、社長室のある二十階に行くためロビーからエレベーターに乗り込んだ。

数分もかからずに到着し、エレベーターの扉が開く。

最初に目に入るのはシックなデザインの大きな木製扉だ。とても室内にあるとは思えないその大きく重厚な扉の両脇には、まるで来るものを拒むかのような鋭い瞳をもつ獅子の石像が置かれている。

その扉をノックし、「どうぞ」という声が聞こえてから開ける。扉は大きさのわりに重量感を感じず、あまり力を入れずとも開いた。

入ると奥の机に社長が座っており、隣には秘書と思しい女性が立っていた。机の前にはガラステーブルと一人用ソファーがいくつか置かれている。

「商品企画部の[削除済み]です。社長がお呼びとのことですが…」

「ああ、[削除済み]君か、よく来たね。まあそこに座りたまえ」

社長に勧められ目の前のソファーに座る。これもまた高級感を漂わせるデザインで、座ると柔らかすぎず、しかしぴったりと腰にフィットする。

 相手が座ったことを確認すると、社長は隣にいた秘書と思しい女性に目配せをした。女性は一礼すると、ドアを開けてそのまま退室した。

「彼女は秘書のベルだ。美人だろ?」

「ええ、まぁ…」

 あまり下手なことは言えない。曖昧に、無難な返事をした。

 社長は席を立ち、[削除済み]の向かい側のソファーに座った。

「さて本題だが、君は終末大戦は知ってるね」

終末大戦とは、四三年前に終結した、二十年という長期に渡って続いた史上最悪の戦争だ。その頃に[削除済み]は産まれておらず、親族も戦争に関わっていたわけではないので接点はないはずだ。

「もちろん。誰もが学校で一度は習いますし、知らない人間はいませんよ」

「では、『モデリングヒューマン』も知ってるね」

モデリングヒューマン、通称"MH"は、終末大戦において小回りが効く高火力兵器を求めて各国が開発した、所謂改造人間である。

大戦終結後は性質そのものが非人道的であるとして国際組織「ナック」から開発停止、技術破棄、また生存しているMHの武装解除手術施行の命令が各国に通達され、その技術は四十年以上たった今、既にこの世には存在しない。

「ええ、弊社に入社する前大学である程度勉強はしましたが、それがいったい…」

「私はね、初めてアレを見た時にとても感動したんだ。これこそ兵器の極致だとね」

 言っていることが、わからなかった。

「何を、言って…」

「君には私の計画に協力してもらいたいんだ。我が社の最先端技術を用いて改良を重ねたMHによる、征服計画にね」

 ここにいたら危ない、直感的にそう思った。相手の返答も待たない内に立ち上がり、早足で出口まで進んだ。そのまま部屋を出ようと扉を押す。しかし…

「逃げられると思っているのかい?」

 さっきは軽く引いただけで開いた扉が、今は押しても引いてもびくともしない。

「くそっ!鍵が…!」

「君は特別なんだ。だからこそ入社させた。みすみす逃がすようなヘマはしないよ」

その言葉を聞いた途端、[削除済み]の意識が遠退く。スプリンクラーからは水ではなくガスが噴射されている。

「近い内にまた会えるよ。けどまあ、その時には既に君は君でないけどね」

もう言葉は半分も聞こえていなかった。[削除済み]はそのまま深い眠りについた。

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