プロローグ
━2030年、国際組織「NACKナック」によりAI人権条約が制定され、AIと人間が同等の権利を持ち共生する世界。世間を騒がすような大きな争いもなく、誰もが思い描く平和な毎日が続いていた。
だが、その平和も初めからあったわけではない。
35年前、1995年にそれは起こった。終末大戦、5年という長期に渡ったその戦争は、文字通り全世界を巻き込んだ史上最悪の事態となった。
そしてその時に開発が進められた兵士がいる。名を『モデリングヒューマン』、通称『MH』と呼ばれた改造兵士である。戦場を駆け回り、その頑強さと圧倒的な火力で多くの国を恐れさせた。中にはたった一人で敵の一個師団を壊滅させたMH兵もいるという。
5年後の2000年に、大戦は終結した。直後にNACKが設立、NACKは隊長以上の軍人、MH兵は戦争犯罪者として処分、それ以外の一般兵、MH兵は復興のための奉仕活動を行うことを義務付けた。各国国民からは強い反発が相次いだものの、復興を最優先にすべきであるとして多くの政府がこの決定に賛同した。
現在では市民による元MHの認識も改まり、誰もが争いをすることもなく平穏な毎日が続いていたいた。
…しかし、いつどこでも和を乱す人間というのは現れるものである。世界のたった一点にできた異物が悪意の種を広げるのは、そう遅くないのであった。