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赤ずきんが真実を語ったのかどうか誰も知らない  作者: 相木ナナ
「姫よ、竹から生まれて何故月に帰るのか理由だけ教えてくれ」(かぐや姫)
8/18

「ブルームーン」

「すべてです。人間が不幸なのは、自分が幸福であることを知らないから、それだけです。これがいっさい、いっさいなんです!それを知るものはただちに幸福になる」

ドストエフスキー『悪霊』より

 

 日本、首都東京。



 赤ずきんのサブマシンガンが火を吹いた。


 熱い薬莢が周囲に弾丸と共に激しく散らばる。



「ンッッギャーーーー!!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!マジで死んじゃう!!誰か助けて、マジ死ぬからーー!!天使に殺されるーーゥ!」



 悲鳴を上げて転がって逃げるのは標的ではなく、雛阪カイトであった。



「おう、ボヤボヤしてると小僧ザ・キッドの、()()()()()()()()()()()()()に穴が開くぜ」



 狼はグロックで標的の悪魔の胸を正確に撃ち抜く。


 その長身に隠れようとした雛阪は、信じられないスピードで移動した狼に追いつけず、放り出されたままのゴミ箱の背後に逃げた。



「無理無理無理無理!!僕は悪魔でその武器は対悪魔用なんですよ!?流れ弾で僕死ぬじゃないですか!!」


「きちんと”加護”を使いこなしなさい、それで死ぬなら代えを探すから仕方ないわ」


「そんなバッサリ!!?自分で言うのもなんですけど、人食いしてない悪魔ってレアなんですよ!そもそも低級の僕が人型を保てたのは”加護”が一つあったからであって……」



 標的が消えたのを確認してから雛阪が隠れ場所から出てくると、赤ずきんが重い銃身を振って雛阪の半径2メートルにいきなり発砲する。


 雛阪は飛び上がって逃走しようとして、その場で無様に転んだ。


 見た目は雑誌モデルでも務まりそうな服装とスタイルも、今は埃だらけである。



「ゴキブリみたいに逃げてどうするの、わざわざザコ悪魔を狩ってるのはポンコツの訓練のためでしょう」


「だからって!!撃つ!?いきなり、何の前触れもなく、敵も既にいないのに!!死亡フラグどころじゃないですよ、”契約の羽”の規定どうする気なんですかぁ!加護で殺さない約束ですって!」


「片足でも動けるわよね、ポンコツ。それとも片腕がいい?」


「何その理屈!?だからってなくなっていいはずないでしょうに!!」


「オッケー、スイートハニー&ボーイ。少し落ち着こうか。標的ブルズアイが消えたのを報告する間はお互いにお手てを握って仲良くしてくれよ。いつまでもアメリカとソ連じゃ俺が平和大使になるしかないんだからな」



 狼がスマートフォンでデイライトにアクセスしている間、赤ずきんは大きな瞳で自分の”秘密情報提供者”をしみじみと眺めた。


 雛阪は少女にいつまた撃たれるかと、口元を引きつらせてその様子を窺っている。



「ポンコツ」


「はい!!極めて平和的な提案を希望するであります!!」


「じゃあ、とりあえず私が5分間撃ちまくるからちゃんと逃げなさい」


「あれ、僕の希望と全然違う返事がきた!?もしかして平和という言葉をご存知ではない感じ!?」


「じゃあ、撃つわね」


「もしもし!?聞いてないですよね、僕の言葉ぜんっぜん聴いてないですよねぇ!?丸腰の悪魔を撃つなんてまさか本気マジじゃないですよね!?」



 赤ずきんがサブマシンガンを構えたので、雛阪は再び以上の命の危機を察した。


 その華奢な指が引き金にかかった瞬間、報告を終えた狼が赤ずきんの銃身を軽く上に反らし、雛阪のスニーカーの紐を踏む。


 銃弾は天井に飛び散り、雛阪が三度みたび転倒してその銃線上から消えた。



「何するのよ、狼」


「いや、それは僕のセリフなんですけどっ!!暁さま、なんてことするんですか!!儚くもアッサリ昇天するところでしたけど!!」


「ポンコツ悪魔のくせに天に召されると思うなんて大それた勘違いしないこと、ポンコツが死んでも逝くのは地獄以下よ」


「レディー&ボーイ。オーーケーーィィ、俺にどうしてもクソッタレ交渉人ネゴシエーターをやれってか。スイートの意見はもっともだが、カイト・ボーイの意見も最もだ。武器がねぇとクソ野郎のケツにねじこむもんもねじこめねぇな。ここは我らがRETに頼ろうじゃねえか」



 ホルスターに銃を押し込めた狼が、面倒くさそうに髪をかき上げる。


 銃もホルスターも普通の人間には見えない仕様であるので、反応できるのは天使か悪魔か。


 そして天使同士は互いにそれなりの距離になれば感知できるので、こうすることで不審な反応するものがいれば悪魔だと判断できる。


 赤ずきんがケースにしまっているのは、持ちやすさの必要性だが、人間には無害でも人によっては気配を感じたりぶつかる感触だけがする場合もあった。


 それゆえに大型武器を使う天使たちは怪しまれない為に、何かしらで武器をしまっている。



 かつて飛行機が存在しない時代は自力で移動していた天使たちも、今はエネルギー消費をコストカットするために移動は飛行機や車に頼る。


 人間界に悪が満ちて、環境が汚染され、実質の天使の力はかつてのオーラを持ってはいなかった。


 一方、悪魔たちには恵まれた環境のためにより邪悪な力が宿っていく。


 特注武器がなければ、もっと苦戦していたのだ。



「じゃあ、”かぐや”のところにいくの?」


「他にいるか?専任レジデント・専門エキスパート・技術者テクニシャン、通称RETはあいつしかいねぇだろう」


「まあ、仕方ないわね、ポンコツの為にいくのは癪だけど」


「おひめさん、しかしいつまでも、役立たずスケルを連れ回しても足手まといだろうよ。せめて自衛くらいは出来ればあっちもハッピーこっちもハッピーってな具合さ」



 そっと挙手したのは、言うまでもなく雛阪である。


 コードネームと役職は聞いたが、どんな対悪魔武器を持たされるのか。


 天使や人間には無害でも、雛阪の場合使用を間違えば自傷ならぬ自決になってしまう。



「あのう、それでその”かぐや”様はどこにいらっしゃるんですか?」


「大体ドイツか日本にいるわね、かぐやの場合」


「あの時計イカれ女のことだから、今頃はイギリスでビックベンでも眺めてんじゃねえか」


「狼、あんたってほんと記憶力がないわね。ビックベンは時計塔の名前じゃなくて時計台の鐘のことよ。何度も言ってるのに。かぐやが聞いたらまた嫌味云われるんだから」


「はいはい、お上品にも訂正ありがとよ。どうせまた頭から入ってケツから抜けるだろうけどな」



 赤ずきんがデイライトを起動して、しばし。


 狼はタバコを吸い出し、雛阪は素早く携帯灰皿を差し出す。


 この数日ですっかり下僕が板についている。



「あら、幸運ね、ポンコツ。かぐやは日本だわ」


「そ、そうですか……それで、どちらに?」


「探知が遠いわけだわ、北海道よ」


「ほっかいどう……それはまた遠いところに」


「めんどくせぇとこに移動してやがんなぁ。少年、国内便のチケットとれ、できれば今日のやつな」



 費用の出処を聞こうとして雛阪は諦めた。


 デイライトに登録されて、既にけっこうな金額が振り込まれている、その中でやりくりしろということだろう。


 天使の下僕になって以来、雛阪にはプライバシーがないのでバイトはクビのままだ。



「でも、北海道といえば!!海鮮!!とうもろこし!!じゃがいも!ジンギスカン!食べ物が美味しい場所ーー!!」


「ポンコツ、何のためにいくと思っているの?寄り道なんかするわけないでしょう」


「いや、でも、僕は食べないと死ぬんですけども!」


「三枚も加護を持ってて気がつかないの?ポンコツはやっぱりポンコツだわね」



 確かに、加護が増えてから食事の量が減っているのは確かだ。


 天使と同様に自然のエネルギーが少しは悪魔である雛阪にも左右している。


 しかし長年の習慣として、食べないと死ぬという感覚が染み付いているのと、やはりそれだけでは気力は保てないのだ。



「ま、小僧ザ・キッドが消えたら地獄の底へ弔ってやっから。山ほどピザとハンバーガー投げ込んでやるよ」


「消えたあとに食べ物もらっても全然嬉しくないですよぉ」



 嘆きながら、羽田空港の国内便を3人分手配する。


 雛阪としては、新たに会うコードネームの相手が、この二人よりは少しでも優しいことを祈るしかなかった。



 .

新章突入。赤ずきんと狼に戻ります。ちょっとこの章は色々と長くなりますw

多少キャラが出揃ってきたので(まだでてきますけど)、感想などでお気に入りキャラを呟いていただけると嬉しいです☆

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